第38話
四人で駅前のファミレスに入った。
「俊くーん、こっちこっちぃ」
泰葉は四人掛けのテーブルのソファー側に座ると、俊に向かってソファーを叩いてアピールする。
俊は、そんな泰葉の斜め前……席的には一番泰葉から遠い席に座る。
やっぱり、私が泰葉の隣りだよね?
「僕こっちでいい? 」
譲が泰葉にニコッと微笑みかけながら、さっさと泰葉の隣りに腰を下ろした。愛実はホッとしながら俊の隣りに腰かける。
ドリンクバーだと何時間でもいれてしまうから、ドリンクではなくデザートを注文した。
四人の間に沈黙が走る。元から共通点なんてないのだから、話しが盛り上がるわけもない。
「えっと、沢井さんは愛実ちゃん達と同級生なんだよね? 」
「そうですぅ。安藤さんとはぁ、中学から一緒でぇ、でもクラスは一回しか一緒になったことなくてぇ。偶然? っていうかぁ、同じバイトでびっくりなんですぅ」
偶然? 調べつくしての間違いじゃない?
愛実と俊の隠し撮りをしたときに、バイト先ももちろんわかっただろうから、偶然ってことはあり得ない。
「そうなんだ」
話しが続かない。
まだ注文した物がでてきていないから、みな水を口にする。
「そういえばぁ、譲君と安藤さんってぇ、何かあるみたいだけどぉ、二股? みたいな」
愛実が、飲んでいた水を吹き出しそうになる。
「それはないから! 」
「あらぁ、いいじゃないぃ。まだ十代ですものぉ、沢山の人と付き合わなくっちゃぁ。一人に絞る必要はないわぁ。ねぇ、俊くーん」
「あのね、僕の片思いだから。一度振られてるし、今は良い友人になれればって思っているよ」
譲は、照れたように言うと、よろしくねと愛実に笑いかける。
今まで通りの譲に見えるが、旅行のときの譲を思い出すと、気を許すわけにはいかない。
デザートがテーブルに運ばれ、みな黙々と食べる。
そんな中、何故か泰葉だけ楽しそうだった。
「じゃあ、食べ終わったし、俺達は帰ろうか」
「あ、うん」
俊は愛実と二人分の代金をテーブルに置くと、愛実をうながして立ち上がった。
譲には悪いけど、この雰囲気の中に座っているのは辛い。
「あらぁ、あたしもぉ」
立ち上がろうとする泰葉を、譲が袖を引っ張って押し止める。
「沢井さんはまだ食べ終わってないじゃないか。僕ももう少しだし、じゃあ俊君愛実ちゃん、また明日」
「ちょっ、離して……」
手を振る譲に手を振り返し、俊と愛実はファミレスを出る。
「譲君、大丈夫かな? 」
「大丈夫だろ? ……あっ! 」
「どうしたの? 」
俊は、駅に入ろうとして足を止めた。
「忘れた! 今日、叔父さんと美希子さんの結婚記念日で、プレゼントをロッカーに入れっぱなしだった」
「じゃあ、とりに返ろうよ」
「うーん、でもまあ、今晩は三人でディナー行ってるし、明日バイト終わってから渡しても……」
「当日のほうがいいよ。すぐだし戻ろう。三人でディナーって、俊君の夕飯は? 」
愛実は俊の腕を引っ張って、パティスリー・ミカドの方向へ歩き出す。
「適当に食べるさ」
「ちょっと待って」
愛実はスマホを取り出して立ち止まった。
家に電話をかけると、母親がはいはーいとでる。
娘の帰りが少し遅いけど、気にならないのだろうか?
特になんで遅いのかとか聞かれることなく、俊の夕飯がないことを伝えると、カレーで良ければ二日分作ってあるから連れてらっしゃいと言われて通話が切れた。
「聞こえた? 」
「聞こえた。じゃあ、お邪魔しようかな」
愛実がスマホを持ったまま、俊と話していたら、目の前の建物から出てきたカップルとぶつかりそうになった。
「すみま……せん」
腕を組んででてきたのは、泰葉母と禿げ頭のPTA会長。しかも、場所が……。
唯一あるラブホテルの前だった。
「あなた達! 」
「バイト帰りですよ。今まで、あなたの娘さんも一緒だったし」
俊が愛実の前に出て喋る。くだらない勘違いをされたらたまったものじゃないから、先に釘を指しておく。さっきまで泰葉も譲も一緒だったから、うるさく言えないだろう。いざとなれば、ファミレスに連れていけばいい。まだ二人はいるだろう。
「バイトはだいぶ前に終わったでしょ! 」
「あなたの娘さんが遅かったのと、みんなで駅前でお茶をしたので。今は忘れ物を取りに来たんですが……、あなた達は? 」
明らかに、ラブホテルから出てきたようだし、俊にじろじろ見られて、PTA会長は慌てて泰葉母の腕を振りほどく。
「学生がいかがわしいことをしていないか、見回りをしていただけだ! 私は先に帰りますよ」
PTA会長は、そそくさと行ってしまった。
というか、娘がバイト始めた場所にあるラブホテルを利用するって、意味がわかりませんけど。
一応時間を気にしていたようだから、はちあわないようには気をつけてはいたんだろうけど。
泰葉母は、愛実の手にスマホが握られているのを見て、顔色をかえた。みるみる形相が険しくなる。
「あなた、やり返すつもり? 」
「やり返す? 」
「そうよ! 写真撮ったんでしょ? 大人を脅すつもりなのね!なんて子達なの! 」
「写真なんて撮ってません! 」
愛実はスマホを握りしめ、俊の後ろから言う。
「嘘おっしゃい! 消しなさい!すぐに消しなさいよ! 」
愛実に掴みかかってきそうになり、俊は泰葉母をブロックする。
「止めてください」
「……ママ? 」
ファミレスからでてきた泰葉と譲がやってきた。
「ファミレスの窓から、なにかもめていそうなのが見えたから。どうかしたの? 」
「な、なんでもないわ! あなたが遅いから迎えにきたのよ! 」
泰葉母は、愛実をキッと睨みながらも、泰葉の手を引っ張って駅に歩き出す。
「お疲れー」
譲の呑気そうな挨拶が、泰葉と泰葉母の後ろ姿に投げかけられた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます