第30話
「愛実、大変よ!! 」
麻衣が教室に飛び込んできた。
「どうしたの? 」
「いいから、ちょっち来て! 斉藤君も! 」
愛実と俊は、麻衣に引っ張られるように教室を出る。一階まで下り、下足箱を抜けて校庭へ出る手前に人だかりができていた。
そこには掲示板があるはずで、みな掲示板を見ているようだ。
「ちょっと通して! 」
麻衣が生徒達を押し退けて、前まで愛実達を連れて行く。
そこには、あの写真が……。
なんでこれが?
若林が持っているはずの、匿名で送られてきた写真が貼ってあり、その上には赤い文字で不純異性交遊って書いてあった。
目は消されていたが、俊と愛実だとわかる写真だ。
「不純異性交遊って、また古くさい」
俊は呆れたようにつぶやいたが、問題はそこではないような……。
「今時、高校生が付き合ってたら、当たり前なことだろ? それで騒がれてもなあ? 」
なあ? って、私に同意を求めるな!
「バッカじゃないの! 当たり前じゃないでしょ! この写真を肯定するようなこと言わないでよ!」
「まあな、身に覚えのないことで後ろ指指されるのもな。やっぱ、見に覚えがあったほうが……」
俊は、なあ? と愛実のスカートを引っ張る。
「これ、ラブホテルじゃない? 」
何やらわざとらしい大きな声が聞こえた。
「ほら、このネオン、絶対そうよ! やだ、不潔だわ! 」
声のするほうを見ると、泰葉とその取り巻きが数人、ニヤニヤしながら話していた。
みな、ラブホテルだってと広まっていく。
確かにラブホテルも写った写真はあるが、一軒だけあるホテルのため、回りの店への配慮もあり、外観からはラブホテルだとは分かりにくくなっていた。
また、近所ってわけでもないので、ここがラブホテルだとわかるのは、利用したことがある人間か、この写真を撮った本人の可能性が……。
愛実はそう思い、泰葉に一言言ってやろうとしたとき、先生達が数人でやってきた。若林もいる。
「ほら、おまえらどけ! 」
生徒達を散らして、先生達が写真を回収した。
「斉藤、安藤、ちょっとこい」
若林が愛実達を、校長室に連れて行く。
校長室の中には、校長、教頭、生活指導の松原、一年の学年主任の加藤がいた。
「失礼します。一年の斉藤と安藤を連れてきました」
若林を先頭に中に入る。
校長、教頭は全校朝礼のときに見たことはあったが、直に話したことはもちろんなかった。
「若林君、あの写真だけど、きちんと保管してあるんだよね? 」
「もちろんです。ここに」
若林は、さっき貼ってあった写真とは別に、愛実達に見せた写真を取り出す。
「ということは、この写真を撮った人が、焼き増ししてこっちの写真を貼ったってことですね」
校長は、写真を見比べてみる。
「おまえら、不純異性交遊してるのか?! 」
生活指導の松原が、不愉快そうに口をへの字にしながら言う。
「こいつらはそういうんじゃ……。それに、これはバイト帰りで、その帰り道だってことは確認とってます。けして怪しい写真じゃ。それに、タイムカードも見せてもらい、双方の家に帰宅時間も確認しました。変なとこに寄った時間はないようです」
っていうか、そこまで調べていたの? 若林!
愛実はびっくりして若林を見る。
「うちはバイトも認めてますし、男女交際も禁止ではありません。しかし、未成年ということを忘れず、節度をもってお付き合いしてくださいね」
校長はにこやかに言い、これでおしまいとばかりに、写真をまとめて机にしまった。
「はい」
愛実が返事をすると、校長は満足げにうなづいた。
「では、戻っていいですよ」
「処分はないんですか? 」
生活指導の松原が、驚いたように言う。
「そりゃ、無実ですから。はい、この件はおしまいです」
若林は、愛実達にお辞儀を促すと、二人を押して校長室を出た。
「おまえら良かったな」
「本意ではないけど、無実だしな」
「俊君! 」
俊は素知らぬふりをする。
「それにしても先生、いつうちに電話したんです? 」
母親からも、担任から電話があったなんて話しを聞いてなかった。
「いやな、静香さんに言われてなんだ。こんな写真を投書してくるような奴は、なにしてくるかわからないから、きちんと無実の裏をとっておいたほうがいいってね。彼女の機転のおかげだな」
静香さん……、これはお礼を言うべきことだよね?
それにしても、若林先生と静香さん、あの後も会ったんだろうか? それとも、ご飯食べに行ったときにそんな話しになったのか?
「じゃあ、タイムカードは静香さんから? 」
「ああ、静香さん経由でお店の人に許可もらって見せてもらった。もちろん、おまえらの保護者の許可ももらってな」
「ふーん、じゃあ静香さんと何回か会ってるんだ。静香さん、言ってなかったな」
先生が店にきてから二週間、数回バイトで静香と会ったが、何も言っていなかった。
「いや、まあ、なんだ。僕らのことはいいんだよ」
僕ら……ね。
若林は、わずかに顔を赤らめていた。
静香さーん、何したのー?!
「そういえば、先生ここ数日スーツのコーディネートの仕方が変わった? 前はしなかった色の組み合わせだな」
俊も、そういえば……と若林の全身を見る。
「なんだよ! 別に静香さんに選んでもらっているわけじゃないぞ! 一緒に住んでなんかないからな! 」
あ……自爆した。
愛実は、へらっと笑って若林の腕をつつく。
「先生にも春ですか? 」
「大人をバカにするな! 」
真っ赤になった若林をからかいつつ、本当に静香で大丈夫なのか心配になった。
絶対、騙されてるよな……。
今は若林と静香のことをからかっている場合ではないと、愛実は写真のことに話しを戻した。
「そうだ、静香さんのことはおいといて、さっき泰葉達があの写真を見て、ラブホテルを指摘したんだけど」
「そうだったな。あれがラブホテルだってわかるってことは、やっぱりあいつが犯人なんだろうな」
俊もうなづきながら言う。
「証拠はないけど……ね」
悔しげに言う愛実の肩を、俊が優しく抱いた。
これからの泰葉の攻撃を考えると、憂鬱になってしまう愛実だった。
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