第26話
「いつ見ても、斉藤君のイケメンぶりは最強だね」
麻衣が愛実の机に座って、男子同士で喋っている俊に視線を向けた。
俊は顔出ししてから、一人で地味に過ごすことはなくなり、クラスの中心的存在になりつつあった。
男子は、イケメンのわりにフレンドリーな俊に好感を持っているようだ。なにより、一般庶民代表のような愛実を彼女にして、他の女子はシャットアウトする俊の徹底した態度に、大絶賛が送られていた。
女子は、愛実と俊の恋愛を認めることで、俊から冷たくあしらわれることがないとわかり、表向きは二人を応援するような態度をとり、全く相手にされない他クラスの女子に優越感を感じているようだ。
なので、愛実はクラスの女子からは好意的に受け入れられていた。
「そう……だね」
「ねえ、あんなのが常にそばにいてどうなの? 気が抜けないっていうか、おならもゲップもできないじゃん」
「麻衣、普通は人前でおならもゲップもしないでしょ」
前席のクラス委員の里美が、後ろを向いて苦笑気味に話しに入ってくる。
「そう? 彼氏の前だとするでしょ? 」
「そうなの? 」
里美は、眼鏡をクイッと上げて、食い気味に身を乗り出す。
「いや、ないから。麻衣だけだって、そんなことするの。ナベ君可哀想に……」
「なに? 麻衣、渡辺君と付き合ってるの? うちのクラスの? 」
「ああ、うん。中学からだよ。同中だから」
「エエッ?! 中学から? 」
真面目そうな里美だが、この手の話しに興味大みたいだ。
「じゃあ、色々……経験なんてしちゃってるわけ? 」
里美が声を潜めて聞くと、里美はあっけらかんと答える。
「経験……? ああ、Hのこと?」
「シーッ! 」
里美は辺りを見回し、顔を赤らめる。
「そりゃ、あるでしょ。高校生の男子なんて猿だからね。ねえ、愛実? 」
愛実は、麻衣の肩を小突く。
「ちょっと、私に振らないでよ。うちはそういうのは……」
「まだなの?! 」
愛実はボッと赤くなる。
実際に付き合いだしたのは昨日からだし、まだキスだってしてないんだから。
っていうか、俊とキスなんて無理でしょう?
たぶん、心臓がもたないから。
そんな愛実の心情を察知したのか、俊が愛実に視線を向け、軽く手を振りながら、極上の笑顔を浮かべた。
「ハア……、イケメンだねぇ」
麻衣がつぶやく。
「無駄に顔がよくて困る」
愛実はため息をついた。
「無駄って、そんなこと言うのあんただけよ」
「確かに、無駄よね。あの脳ミソには必要ないわね」
「脳ミソって……」
麻衣が呆れたように里美を見る。
「誉めているのよ。だって彼、全国模試の上位の常連だもの。名前だけは前から知ってたくらい」
全国模試上位?
頭がいいとは知っていたが、そこまでとは知らなかった。
「イケメンで頭脳明晰か。運動も得意じゃなかった? 凄い! 完璧な彼氏じゃん! 」
「うーん」
別に完璧な彼氏はいらない……んだけどな。
他人が聞いたら激怒するようなことを考えながら、愛実は小さなため息をついた。
その時、教室の扉が開き、担任の若林が顔をだした。
「斉藤! 安藤! いるか? 」
教室にいた生徒がみんな、若林に注目する。
俊が若林のほうへ歩いていき、愛実も遅れてドアへ向かった。
「ちょっと、きて」
若林は、微妙に険しい表情で歩き出した。
廊下を抜け階段を下りる。
「なんだろう? 」
「さあ? 」
同じ係もしていないし、もちろん日直というわけでもない。前に机を汚されたときに若林の所へ呼ばれたが、今回はそんなことはなかった。
若林は、進路相談室の前までくると、扉についている札を使用中に変えた。
「入って。ほら、座る」
椅子に並んで座ると、若林は扉を閉めて愛実達の前の机に封筒を置いた。
「なんですか、これ? 」
「見ていいぞ」
若林は、大きくため息をつくと、二人の目の前の椅子にドッカリ腰を下ろした。
俊が封筒を手に取り、愛実は横から覗き込む。
封筒の中身は、数枚の写真だった。
「これって? 」
充実と愛実が歩いている写真だ。手をつないでいたり、俊が愛実の腰に手を回していたりする物で、仲の良い恋人同士に見える写真が、遠いアングルから撮られていたり、アップで撮られていたり……。
全く記憶にないから、隠し撮りなんだろうけれど……。
なんだってこんな写真を若林が持っているのか、これの何が若林にため息をつかせているのか、愛実にはさっぱりわからなかった。
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