第20話

「お待たせー! 」


 静香は、ピンクと紫の花柄のビキニで、さっそうとプールサイドに現れた。愛実はその後を猫背気味に歩く。


「お似合いです。静香さん、スタイルいいですね」

「ウフ、ありがとう。楓君も細マッチョでステキよ」


 静香は、楓の隣りに陣取り、プールサイドの椅子に座る。


 次のターゲットは楓さんか?


「愛実、ずいぶん時間かかったね。あれ? 化粧してる? 髪型も変えたんだ」


 愛実は、カーッと赤くなる。


「静香さんがね、やってくれたの。化粧は、日焼け止めも兼ねてって」

「愛実ちゃん、可愛いよ。凄い似合ってる」


 譲が、静香と愛実に飲み物を持ってきてくれた。


「うん。いつもの愛実も可愛いけどね。それも似合ってるよ。プール入るだろ? 上着、脱いだら?」


 俊は、愛実の手を引いてプールに誘う。


「えっと……、これラッシュガードだから、着たままでも別に……」


 お尻まで隠れる紺色のラッシュガード、これは愛実の私物だ。

 これだけは着ると、愛実は譲らなかった。


「なんで? 脱いだらいいの……に。」


 俊がラッシュガードのチャックを半分まで開け、一瞬手が止まり、今度は上まで勢いよく閉めた。


「うん! 着ていたほうがいいかもな。ほら、入ろうぜ」


 やっぱり似合わないよね。


 愛実は、恥ずかしくてとにかくプールに潜った。

 ラッシュガードの下は、静香のくれた白レースのビキニだったから。サイズを合わせるために、胸にパッドを二枚ばかり入れていたが。

 潜水でプールの半分まで行き、水面から顔を出すと、愛実は黙々と泳ぎ始めた。

 静香のビキニだと、思い切り泳げない。クロールするとビキニの上がズレちゃいそうになるし、飛び込みなんてビキニが外れるんじゃないかって心配で無理。

 愛実はひたすら平泳ぎを何往復もすると、プールサイドに上がり、さっき高宮が持ってきてくれたジュースを飲んだ。


「愛実、なんか本格的な平泳ぎだったけど」


 俊も上がってくる。

 適度に筋肉がついて、身体までもイケメンだ。水がしたたった髪をかきあげる姿は、いやにセクシーで、直視することができない。

 愛実は、ドギマギと顔を赤くしながら、視線を反らした。


「中学は水泳部だったから。小学校のときもだけど」

「そうなんだ。なんで高校じゃやらないの? 」

「うーん。ほら、水泳って逆三角形の体型になるじゃん? 男の子ならかっこいいけど、女の子であれはね……。まあ、そんなに速いわけでもなくて、ただ泳ぐの好きなだけだから」

「めぐちゃん、ラッシュガードなんて脱いじゃいなさい。せっかくの水着がもったいないでしょ。まあ、私ほどナイスバディじゃないけど、それなりに似合ってるんだから」


 やはり静香は静香だ。一言多い。


「ダメ! 脱ぐのはダメ! 」


 俊が、愛実の肩にバスタオルをかけて言った。


「へえ、俊君ってけっこう独占欲が強いんだ」


 静香がニヤニヤ笑う。


「そうですよ。可愛い愛実の身体を、他の男になんか見せたくないですから」


 俊は、愛実の肩に手を回す。


 うーん、貧弱すぎて恥ずかしいのかな? 彼女がこれだと、彼氏としては……ってことなのかな?


 ひたすら愛実を水着にしたくないと頑張るその様子に、愛実は下手に勘ぐってしまう。

 そこに、矢島がやってきた。


「おーい、もうすぐBBQ始めるから、プールあがれよ」


 すでにお酒を飲んでいるのか、矢島の顔は少し赤くなっていた。


「はーい。じゃ、女子は二階のお風呂使うからね。男子は下よ。めぐちゃん、行こ」


 静香と愛実は二階のお風呂を使い、静香命令で愛実は静香がくれた下着を付け、静香の選んだ静香の洋服を着る。


「静香さん、BBQですよ? 洋服汚したら悪いし、これはまずいですよ」


 淡いブルーのワンピースで、全体的に清楚なイメージだが、胸元の開きが大きい気がする。

 化粧も髪の毛も、静香がやってくれた。

 静香のいつものバッチリメイクとは違い、愛実にはナチュラルメイクを施す。愛実の髪は硬い直毛なのだが、ユルフワに編み込んで、ルーズな感じをだした。

 鏡の中には、とびきりの美人ではないが、それなりに可愛い愛実が立っていた。


「まあまあじゃない? めぐちゃん、私の力作なんだから、崩さないでよね。その化粧と髪型で、いつものめぐちゃんの格好は、ぜーったい似合わないからね」

「それはそうかもですけど、汚したら……」

「そのために、洋服いっぱい持ってきてるんでしょ! 汚したってかまわないわよ。ほら、先に降りてなさい。私は自分の支度するから」


 静香は念入りに自分の化粧をし始め、愛実は諦めて部屋を出た。

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