WHITE NOISE 〜白き忌子の勇者譚〜

@Okko_Katsumori

プロローグ

1-0-1 トモダチが欲しいだけのマモノ①


 主人公が七歳となる、八年と少し前のこと。


 後に主人公にとって重要な転換点となる魔物の、誕生のお話。



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 ボクが覚えている、最初の景色。

 うららかな日差しによく映える、新緑萌える木々たちが、眼下半分に広がり。

 その先に小さく見えるは、人のたくさん住んでそうな、大きな、とても大きな街。


 いろいろなものが、生きて踊って奏でながら、ボクのことを迎えてくれるようで。


 今日という日の優しい温かさに、心も段々あったかくなっていくのを感じ。

 まるで。


 世界と、ボクが。


 たくさんの目・・・・・触角・・六本の足・・・・といったボクの身体の、あらゆる境界線で融け合っていくように錯覚する。


 とても気持ちがいい。


 ふと先ほど目に入った街、いや都市? の方に注意を向ける。

 初めて見るはずのその場所は、なぜかボクにとって憧れで。


 羨ましくて。

 妬ましくて。

 嫉ましくて。


 そして、愛しかった。

 あそこに行きたいな。


 あそこでなら、ボクはひとりぼっちじゃなくなるかな?


 あれ、なんかおかしいな?


 後ろで大口を開けている、黒々とした闇を湛える、深い、深い谷。

 どのくらいの深さなのかはここからじゃまるでわからないし、底が本当にあるかもわからない。


 落ちたら絶対に出てこれないように見えるけど。

 ・・・ボクはさっき、この谷の壁を、上に見えるかすかな光目掛けて這い上がってきたんだ。

 けれども、別にこの谷を真っ逆さまに落ちたから、頑張って登ってきたというわけではない。


 じゃぁ何故、僕は崖壁を登らなければならなかったか?


 ボクはこの谷の下で生まれてきたからだ。


 そう、おかしい、いや絶対にありえないことに、ボクは生まれてきたばかりであるにもかかわらず、なぜか言葉を媒介にして、大人のように洗練された思考ができている。

 だがこの一瞬の違和感は。


 これがボクという「存在」の「前提条件・・・・」なんだ、と素直に受け止めることができた。

 そうそれで、この前提条件には、さっきも感じたけど、もう一つあるな。

 これでさっきから心がずっと、ぐいぐい縛々締め付けられて、とても苦しいっ、痛い!


 アアッ!

 ヒトリワイヤダ!


 孤独への恐怖。これが、もう一つのボクの前提条件らしい。

 ああ、早くこんな気持ち悪さから解放されたい、こんな気持ち悪さを排除したいっ!


 トモダチガホシイ!


 ・・・これは、ボクの、生まれ持った恐怖ゆえの本能か・・・・・・?

 ボクは本能がもたらす激情と渇望のまま、ひたすら街の方向目掛けて、山を降りて行ったのだ。

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