2.異世界からは逃げられない
前回までのあらすじ。
ストーカー美少女にエッチに誘われたがそれは甘い罠だった。
俺は道のど真ん中に誘導されてトラックに轢(ひ)かれてバラバラになって死んだ。
---
「おああ!」俺は絶叫(ぜっきょう)して目が覚めた。
「あ、目が覚めたみたいですよ」
「よう」
目の前には、知らない女と男がいた。
ここは病院か? それにしては医療従事者(いりょうじゅうじしゃ)には見えない。
「あれ? 俺は……」
「大丈夫、ちゃんと生きてますよ、ここは天国でも地獄でもないです」
「どの国かも分からない、地球であるかどうかすらも怪しいがな」
ガタゴトガタゴト、なんかめっちゃ地面側振動してる。
「え、俺生きてんの?」
「あの、言い難いんですけど、私達、別の世界に来ちゃったみたいなんです」俺と同年齢(タメ)ぐらいの女の子が答えた。
「はあ」俺は超胡散臭そうな目で女を見た。
もうメンヘラには付き合いたくねえ。
はー異世界っすか、最近よくあるパターンっすね。
「君もおっぱい見してくれんの?」
「え?」
怪訝な目で二人を見ていると、男が口を開いた。
「お前はどうやってここへ来たんだ? 見たところ彼女と同じ日本人のようだが」
男はジャナムと名乗った、イエメン人らしい。
女はセリカと名乗り、同じ日本人だった。
「やっぱここ、病院じゃ無いのか」
「じゃないです。私達も貴方と立場は変わりません、気が付いたらこの世界で目が覚めたんです」
「じゃあこの馬車は?」
「私達が乗っているこの馬車は私達をこの世界に召喚した人のところへ向かってるみたいです」
周囲を見ると、うっそうと森林が広がり、昼間のはずなのに暗い。
よく見ると他の二人と俺は手が縛られていた。
そして今まで気が付かなかったが、荷馬車には俺達を見張る兵士らしき者までいた。
「無駄口を叩くんじゃない異世界人、城主様の所へ着くまでは大人しくしていろ」
「あいつら手慣れてる、逆らっても無駄のようだ」
どうやら俺と同じく二人とも見知らぬ誰かに騙されてここへ来たらしい。
軽い自己紹介をした後、俺は自分のがこうなった経緯を語った。
「ええ、そうなんですか宇田さん? そんな事が現実にあるなんて、凄い……」
「つまり、そのテロリストが潜伏していたとされるアジトは軍が用意した罠だったのか」
「ああ、俺は部下と共に脱出して部隊の合流地点に向かったが膝に矢を受けて走れなくなってな」
「それで、その後どうしたんだ? ミスター宇田」ジャナムは食い気味に聞いた。
「へっ、部下を逃がすためにその場で止まって敵を引きつけてる間に10人くらい頭をぶち抜いてやったが、その後はご覧の通りだ」
「はーー……特殊部隊の人ってすごいんですね」
「まぁな!」
めっちゃ嘘ついた。
俺の前世は自衛隊の暗殺部隊の隊長ということにした。
これから何が起こるかわからん、例え同じ境遇の仲間にだろうが舐められちゃいかん。
もう世界が変わったんだ、俺の話の裏なんか取れやしない。
「あんたなら頼りになりそうだ」
セリカとジャナムはすっかり俺の話をしんじたようだ。
「そいつの話は全部嘘だぞ、魔族の女にセックスしようと誘われ騙されてお前達の世界の馬車に轢かれたんだ」
兵士が口を挟んできて10秒で嘘がバレた。
シーン
辺りが静寂に包まれる。
「俺たちを無理やりこの世界に連れてきた奴らに負けないよう、三人で一緒に力を合わせて頑張ろうな!!」
俺はリーダーシップを取り、二人を元気づけた。
---
森林を抜けると、広大な敷地(しきち)と巨大な城が目の前に広がった。
やっべ……どう見てもあんな建物日本じゃ無いし。
マジで異世界に来ちゃったぽいな……。
俺達は馬車から降ろされると、拘束具(こうそくぐ)を外され、広い場所に集められた。
「城主様が見える! 異世界人殿」
さっきとは打って変わって兵士の態度(たいど)がへりくだった。
「私はルアス、この地を治めている。手荒な真似をしてすまなかった、異世界人殿達は歓迎である、遠い場所からこのヴェルガルドへようこそ。まずはこの城で落ち着いてもらいたい」なんか年食った偉そうな人が出てくると、俺達を労ってきた。
ちょっとホっとする。
とりあえず、すぐに危害を加えられる事は無さそうだ。
でも、多分このおっさんが俺達を誘拐した犯人なんだよな~。
なんかモヤモヤする。
要するに、『誘拐したけど手荒な真似はしない、でも家にも帰さない』って言ってんだろ?
「ふ、ふざけるな! 人を、人を殺して連れてきておいて! 家に、元の世界に返してくれ!」
見ると、俺たちの他にも誘拐された人達がいたらしい。
そっちのグループから口々に文句が始まる。
「働きに応じて礼はする、だが今は話を聞いていただきたい、異世界人殿?」
働き? ハタラキってなんだ?
労働でもさせんのか?
「ふざけるな、こんな場所にいられるか、俺は帰るぞ」
「残念である、ではお帰り願おう」
城主ルアスがそう言うと、周囲にいる兵士達が男を捕まえた。
「な、何すんだよ、離せよ、離せ! どうするつもりだ」
あかん、甘く見てた。
これ、異世界は異世界でもかなりダークな方の異世界だわ……。
男が兵士達に両脇を掴まれ、引きずられて行った先には首吊り台があった。
「余、バルタン家の家長(かちょう)にして聖王国(せいおうこく)のパラディン、ルアスの名において汝(なんじ)の処刑(しょけい)を宣告(せんこく)する」
「い、嫌だ、死にたくない、助けてくれぇ!」
首吊り台は簡素な作りだった。
木の台に、太くて丸い縄がついてるだけ。
でも、使い込まれていると思われるその太い縄は十分に役割を果たしそうであった。
「誰か助けてくれえ! 頼む、金なら払う、俺は癌で死んだから保険金が下りてるはずなんだ、金を払うよ、だから誰か!」
誰もそれに答えない。
俺達は兵士達の間にある圧倒的な暴力の差をまざまざと見せつけられ、立ち竦(すく)むしかなかった。
「なんでだよ、何で二度も死ななきゃいけないんだ、死にたく――ぐがっっ」
クビに縄をかけられた男の両脇で、兵士達が縄を引っ張って男をつり上げを始めた。
どうでもいいけど、日本の絞首台と違って死刑囚が台から下に落ちるタイプじゃなくて処刑人の力で首を絞めるタイプなんだなと感心した。
「ゲッゲッゲ」
吊るされた男は縄に両手をかけ、両足を振り回しながら足掻く。
が、足は宙をかくばかり、首を締め付ける縄はビクともしない。
2名の屈強な兵士が全体重と力を込めて縄を引っ張って締め付けているのだ、解けるはずもない。
「……」
男の顔が真っ青になり、脳への酸素の供給が絶たれ、物凄く苦しい状態である事は一目で分かった。
ビクンッビクンッビクンッ
男は体を痙攣(けいれん)させながらゆっくりと生命活動を停止させていった。
その表情は苦悶(くもん)を浮かべ、見捨てた俺たちを非難するように感じた。
「正義は執行された、異世界人殿、本当にすまないと思っている、だが、どうか我々に力を貸してもらえないだろうか」
城主ルアスは頭を下げた。
非難の声は上がらない。
誰も逆らえるものはいなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます