43:復讐者が通る
四方津グランドホテルに侵入してから、約三十分。
その間に、何丁の拳銃を目にしただろう。
そして何丁を向けられただろう。
(答えは、数えてないし、知りたくない、だ)
という訳で、中層階ホールに到着した俺を出迎えてくれたのは、たっぷり拳銃を構えた刑事達だった。
一人、二人、三人……うん、もっとたくさんの刑事、だ。
「あのー、すみません。槍度島警部補にお届け物がありまして」
「動くな。動けば撃つ」
刑事達の内、一番近くにいた一人が銃を下ろし、エレベーターにいる俺の方に近づいてくる。
ヒゲと貫禄を備えた、ちょっとリーダーっぽいおじさんだ。
「君は巡査か。……足元に倒れているのは?」
「はぁ。襟首を掴まれましたので、公務執行妨害として拘束しました。拳銃も所持していたので、例の鷹月会の連中だと思います」
いかついヤクザが四人、手錠やらネクタイやらで手首を縛られ昏倒している。
若干、嘘だろ? という顔をする刑事。
まあそうだよね。俺、そんなに腕っぷし強そうに見えないし。
「……よくやった。後は我々に任せてくれ」
「ありがとうございます、よろしくお願いします」
言って、俺は素知らぬ顔でエレベーターを降りようとするが。
おじさんの拳銃は、俺に狙いをつけたままだった。
「すまないな。警察の制服を着た男に襲われた、という報告が下層階から届いている。もし君が無関係なのであれば、『届け物』とやらを見せてくれ。ゆっくりとな」
あっちゃー。
「とうとうバレちゃったみたいね。ぶん殴ったヤツら、誰か目を醒ましたのかな?」
まあ、警備室への襲撃がバレた時点で、時間の問題だったし。
「で、次のプランは?」
(泣いて許しを請う)
「はいはい、面白い面白い」
えっ、あれ、流された?
今のめっちゃアメリカンジョークっぽくなかった? ダメ?
「どうした、君?」
「……槍度島警部補が、プライベートなものなので、他の警官には見せないように、と」
胡乱な視線。
だよな。分かる分かる。
「その……いわゆる、アダルトグッズ、です」
えっ。
という顔をするおじさん。
「レシートもありますが……」
「……いや。結構。早く行け」
ぐったりとした表情で、おじさんは銃を下ろした。
どうやら納得してくれたらしい。
苦々しい表情の刑事達をやり過ごして、高層階行きのエレベーターに向かう。
「ちょっと! えー! なにそれ清実ちゃん!」
(シゲの兄貴から、槍度島がどんなヤツか聞いてたからさあ)
これならいけるんじゃね、って思って。
まあ、こればっかりは、槍度島警部補の
「あのさ、それ、自分で買ってきたの? どこで?」
(シゲの兄貴に会った帰りにね。駅前に専門店があるんだよ)
もちろん、店の場所もシゲの兄貴の情報です。
「嘘だー、清実ちゃんのエッチ。まあ、君も男の子だもんねー」
ホントだよ? いやマジだから。
別にプライベートで行ったことあるとか、そういうんじゃないから!
「さ、じゃあついにラスボスとご対面だね。エザワくんが料理しやすいように下ごしらえしとかなきゃ。どうやって拷問しよっか? 指から? 鼻から?」
(やめろやめろ、血なまぐさい。というか、それ、俺の仕事じゃないし)
俺、血とか苦手なんだよね。見ると眩暈がするし。
それに、
「そういうのは、ヤツ《・・》の仕事だろ」
どがん、と派手な銃声とともに。
「――侵入者だ!」
ヤツは――エザワ・シンゴは、非常口をぶち破って現れた。
返り血に染まった凶悪な人相で、
「失せろ。でなければ、殺す」
そんなことをのたまってみせた。
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