第19話 大海さん修行編



大海は自分の体力が乏しいことを重々承知していた。

だからこそ、『力をほとんど使わず相手を制する武術』である真田流は自分にピッタリであると感じた。実際、ひとを投げ飛ばすというのはハードルが高かったけれど、ユズハ師匠の熱心で親身な指導のおかげで何とか形になってきた。



「今日は、大海ちゃんと孝一君で組手をします」



孝一の袖をつかむ。

大海は心臓がバクバク高鳴るのを感じた。

男の人の体はなんだがゴツゴツしているな・・・怖い気持ちと孝一と密着しているという気恥ずかしさが、大海の中をグルグル回ってパンクしそうだった。



(大海・・・腰が引けてるな・・・)



「・・・そこまで、休憩にしましょう」

組手は中断となった。



(・・・くっ・・・予想以上になんだか恥ずかしい。・・・特に孝一君の襟をつかむと胸がはだけて肌が見えそうになるのが・・・目に毒・・・)




孝一が休憩中に食べたお皿を洗っている最中、ユズハは大海にこっそり耳打ちした。

「大海ちゃん・・・道場内恋愛禁止って言ったでしょ・・・」


「・・・え・・・あああああの・・・私・・・」

大海の顔から湯気が出る。






「・・・私と孝一くんは真剣に武術に取り組んでいるわ・・・」






大海はその言葉の意味を理解した。

しゅんとしてユズハ師匠に対してこうべを垂れる。

「・・・ごめんなさい」



ポンと頭に手を置く。

「・・・いいえ、あなただったら わかってくれるはずよ。きっとあなたは優秀な弟子になる・・・そう予測してるわ」





自宅でベットに仰向けになりながら考える。

私は・・・強くなりたい・・・ユズハ師匠の期待に答えたい・・・

大海は立ち上がって、大きな抱き枕を人間に見立てて組手を模擬してみる。



(これを孝一君だと思って・・・えい)



思い切り抱き枕を投げ飛ばす。何度も投げ飛ばす。よし、大丈夫だ。




「・・・」




大海は最後に抱き枕にぎゅっと抱き付いて顔をうずめてみた。顔が熱くなるのを感じた。






$$$






真田道場の稽古前、

大海は買って来たTシャツを孝一に渡す。

「道着の中にTシャツを着て欲しい・・・」



「別にTシャツなくても大丈夫だけど・・・」




「・・・私が困るから・・・だよ」





(なんで?)




そのTシャツには『煩悩滅却』と書かれていた・・・

(なんだこれ)





「今日も、大海ちゃんと孝一君で組手をします」





大海の眼は真剣そのものだった。

(今日は・・・腰が引けてないな・・・)




「えい」




すぱんと綺麗に大海の投げ技が決まる。

孝一は何が起きたかわからないという感じだった。


(ここ数日・・・大海ちゃんの成長が著しいわ・・・やはり才能の塊のような子ね・・私の目に狂いはなかった・・・)



ユズハ師匠・・・やりました」

「大海ちゃん素晴らしいわ」

ユズハと大海は抱き合う・・・

三角座りでガチ凹みする孝一から目を反らしつつ




ユズハ師匠は孝一の肩に手を置いて憐れむような眼でつぶやく。



「・・・私と大海ちゃんは真剣に武術に取り組んでいるのだけど・・・」

「俺も真剣にやってるよ」







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