第49話 戦闘の跡に行ってみよう
長い休暇も、もうすぐ終わる。
未冬は寮の部屋で目を覚ました。部屋を見回すが、他には誰も居ない。
部屋の反対側の片付けられたベッドが寒々しい。
「エマ、早く帰ってこないかな」
温泉旅行のあと、エマは実家に帰省していた。その間、未冬はここで一人だった。
はあー、とため息をついてベッドから這い出す。
そのまま、エマのベッドに潜り込み、身体を丸める。
エマちゃんの匂いだー、と二度寝にかかる。
昼過ぎになって、さすがに空腹で目が覚めた。
仕方なく、制服に着替えて寮を出る。
寮の食堂もお休みだから、外でなにか食べるしかないのだ。
迷わず、いつもの中華食堂に入る。
「あら、未冬ちゃん。珍しいね、一人なの?」
おばちゃんに不思議がられるほど、常に誰かといる未冬だった。
「だから、さみしいんですよぅ」
「あははは、じゃあしっかり食べて行きなさい。サービスするよ」
げふ、食べ過ぎた。
未冬は、よろよろと店を出た。
元から大盛りの店なのだ。それなのに、ついチャーハンも追加してしまった。
しかも大盛り無料につられて。もうこれは女の子としてダメかもしれない。
散歩でもしてカロリーを消費しなくては。
思いついて軍港エリアに降りてみることにした。
先日、士官候補生たちが激戦を繰り広げたあの場所だ。
もう立入禁止は解除されている筈だった。
ドックでは、漂流していた高速艦の解体作業が行われていた。
あちこちでバーナーの火花があがり、部材がクレーンでつり下ろされている。
この使用可能なものは同型艦の補修材料にされ、破損部分は溶解して資源として再利用されるのだ。
見ると、あの強襲揚陸艦もドックの隅に置かれていた。こちらはまだ手つかずだ。ハッチを改修してそのまま使うつもりなのかもしれない。
「そうかぁ。相手の退路を断つのも、場合によりけりなんだね」
今さらながら反省する未冬だった。特に、こちらの戦力が劣っている場合は……。
しゃがみ込んでいた未冬は横に立った人影に気付かなかった。
いや、足音さえしなかったのだ。無理はなかった。
「君があれを撃ったんだろ」
その声にびくっと身体を震わせた未冬は、声の方を振り仰いだ。
「危うく、僕も一緒に沈められるところだったよ」
それは、未冬と同じくらいの年代の『少年』だった。黒髪で、色白な少年。
「僕はウェルス。ウェルス・グリフォンだ」
落ち着きのある、柔らかい声だ。
立ち上がると、その少年は未冬よりも少し背が高いことが分かった。
未冬は差し出された手を握り返す。
「わたしは、未冬です」
少年はふっ、と微かに笑う。
未冬は彼の瞳の色が左右違うのに気付いた。右の瞳は黒く、左は金色に近い。
「よろしく、未冬」
少年の左の瞳が妖しく光った。
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