第33話 最速小隊を迎撃だっ!

「よし、じゃあ作戦通り行こう。成功するかどうかは、フュアリに掛かってるって事を忘れないでくれ」

「分かってるよ。とにかく撃ちまくればいいんだよね」

 いや、そうじゃないんだけど。エマがすごく不安そうな顔になった。


「時間だ。位置につけ」

 教官の声に四人は訓練室の中に入り、それぞれの持ち場についた。

 ジェネレータ正面の遮蔽物にはフュアリ。残りの三人は機械の背後に回る。

 相手はユミ・ドルニエ率いる、超高速飛行能力を持つ四人だ。まずはフュアリの攻撃で出鼻をくじくつもりだ。


「いいかい。二手に分かれて急速上昇、そこから逆落としで片を付ける」

 ユミ・ドルニエはメイザ・シュミットに作戦を伝える。

「簡単な作戦だな、相変わらず」

「作戦はシンプルなほど、美しいのさ」

「単純にバカなだけだろ」

「言ってくれるね、僕の可愛いメイザ」

 もう始まるぞ。パメラ・ブラックバーンが冷たく指摘する。

 残るモーラ・マーティスは黙って弾倉を確かめていた。いつもの事だから、口出しする気にもならないのだ。


 開始の合図と共に守備側は猛烈に撃ってきた。通路内がたちまちペイント弾のオレンジに染まる。

「あの短機関銃マニアか。意外に正確に撃ってきやがる。ちょっとやっかいだな」

「2,3発牽制して、一気に行くよ」

 一瞬、銃撃がやんだ。

「今だ!」


 攻撃側が飛び出してきた。

 フュアリは両手に短機関銃を持ち、空間をなぎ払うように撃つ。

 右へ回り込もうとする二人の進路を銃弾で塞ぎ、そこをエマが後方から狙う。

「やばい、速い。当らない!」

 フュアリが叫ぶ。

「いいから撃ち続けろ」

「はいはい」


 ユミの顔に少しだけ焦りが見えてきた。

 銃撃を避けているうちに徐々に壁際に追いやられているのだ。

 さらに危険なことに、いつのまにか四人が合流させられている。

「時間が無くなる。反対側から後ろへ回るよ!」

 パメラ・ブラックバーンとモーラ・マーティスがしびれを切らした。フュアリとエマ、それにマリーンの作る弾幕がやや薄いところがある。

 そこを突っ切るのだ。


「やめろ、罠だ」

 メイザ・シュミットが止める間もなかった。


 二人が弾幕をすり抜けたその瞬間。

 銃声が二発。

 狙い澄ました未冬の銃弾だった。

 飛行コースが読めれば、どれだけスピードがあったとしても撃墜はたやすい。もちろん未冬なればこそ、ではあるが。


「メイザ」

 ユミは彼女に目配せした。

「まずは、あいつか」

 ユミ・ドルニエが急降下する。目標はフュアリ・ホーカー。


「なんだ、そういう事か」

 ユミは、ははっと笑った。弾幕が途切れないはずだ。弾倉交換するときには必ず銃撃が止まる筈なのに、これだけ連続して撃ち続ける事ができる理由。

 彼女の足下には短機関銃が山積みされていた。

 全弾撃ち尽くしたら、新しい銃を拾い上げ撃ち続けている。まさに地上ならではだ。

「これは盲点だったね」

 彼女は舌打ちした。


「あたれーっ!」

 フュアリは急接近するユミに向けて撃ちまくる。掠ってはいるが、直撃がない。

 焦るフュアリの目前で、ユミは急上昇に転じた。

 銃撃が追いつかない。

「フュアリ、下っ!」

 慌てて足下を見る。


 着地に失敗して尻餅をついてはいたが、メイザ・シュミットの銃口がフュアリを狙っていた。フュアリがユミに気をとられている内に、死角に入り込んで急降下したのだった。

「ごきげんよう」

 メイザが引金を引いた。


「フュアリさん、そこどいてっ!」

 マリーンがメイザを銃撃する。

「いたい、当ってる、当ってるからっ」

 フュアリが悲鳴をあげている間にメイザは天井付近まで上昇していった。

「おのれ、フュアリさんを盾にするとは、なんと卑劣な」

 ……それは、違うんじゃないか。その場の誰もが思った。


「そこまでだ」

 教官の声がした。

「攻撃側の時間切れだ」


 ユミとメイザも降下して、全員が揃った。

「やられた。物量作戦とは、考えなかったよ」

 ユミが両手を拡げて肩をすくめた。

「全部エマちゃんのアイディアなんだよ」

 いや、みんなでは無いけど。と、エマが照れている。

「だって、わたしたちじゃ、こんな裏ワザみたいな方法は思い付かないもの」

「それ、褒めてるんだよな」

 後ろから未冬の首を締める。


「よし、負けた方は訓練場を10周だ」

 ひえー、悲鳴をあげながら彼女たちは走り始めた。

「おーい、未冬もおいで」

 ユミ・ドルニエが手を上げる。

「え、なんでわたしも?」

「この間、君と一緒に空飛んであげたでしょう」

 しょうがないなぁ。

 未冬も後をついて走り出す。

「行くのかよっ」


「エマさんはいいんですか。走らなくて」

 冗談でしょ。エマは特殊光を発するライトを当て、フュアリに付着したペイント弾の色を消しながら苦笑した。

 ほんと、あいつ。付き合いがいいんだから。


 次はミハル・タチカワの高機動小隊が相手だ。

 同じ戦術は使えないし、どうしたらいいんだろうな。エマは訓練室内を見回して考え続けた。

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