第14話 彼女に幽霊話は禁物です
「おーい、帰っておいで」
気がつくと、目の前にフュアリ・ホーカーの瞳があった。
それだけ近くにいたのに、全然気付かなかった。本当にボーッとしていたらしい。
「おおう、びっくりした」
未冬は、のけぞった。
「びっくりした、じゃないよ。あんまり反応がないからキスしようかと思ったよ」
それで、キスしようと思う理由は謎だ。
彼女たちは士官学校の寮の食堂で、朝食を摂っていたところだった。
同じテーブルには他にマリーン・スパイトフルが座っていた。彼女も心配そうに未冬を見ている。
「どうしたの、何か心配事ですか?」
やはり普段のマリーンちゃんは優しい。
そう、心配といえば心配の内に入るんだろうけれど。未冬は言いよどんだ。
「ああ、もしかしたら。最近流れている噂のことですか」
「へ、噂って?」
マリーンの言葉にきょとん、とする未冬。
それをを信じられない、といった表情で見る二人。
「未冬、まさか、知らないの?」
「え、あ、ああ、あれだね。し、知ってるよ。凄いよね、あれ。最初聞いた時、びっくりしちゃったよ」
「知らないなら教えてあげるよ。あのね」
無駄にごまかそうとする未冬に構わず、フュアリが語り始めたのは。
この都市空母のすぐ後ろを、無人の幽霊空母が追いかけてきているんだって。
「え?」
「だから、追いつかれたらこの都市空母も幽霊になっちゃうんだって話」
「それで、調査に行った人たちも、そのまま帰って来ていないんです。きっとその空母に取り憑かれて、幽霊になってるんじゃないかと、そういう噂が流れているんですよ」
フュアリとマリーンが交互に説明してくれた。
「さまよえる幽霊空母、というんですけど」
「船室にはまだ暖かい食事が残っているのに、住人は誰一人いない、んだって」
「えー、初めて聞いたよ。怖いぃ」
「もっと怖いのはさ。もう、この地球には、人類はこの都市の中にしかいなくて、他の都市空母はもう無人なんだって」
「無人というより、みんな幽霊になっているんだそうです」
未冬はぞっとした。なんだか、信憑性があり過ぎて怖い。疑う理由がどこにも無いような気がする。
「な、なんで。今日に限ってそんな話するの」
フュアリとマリーンは急に無表情になった。
「だって、私達も、幽霊なんですもの」
「いやーーっ!!!!」
凄い悲鳴が未冬の後ろで上がった。
三人から離れ、一人で食事をしていたエマ・スピットファイアだった。どうも、彼女は他人と一緒に食事をするのが好きではないらしい。絶対一人になろうとする。
そんな訳で、未冬たちは、わざわざエマの後ろの席に陣取っていたのだ。
そして、エマはそんな彼女たちの会話にしっかり聞き耳をたてていたらしい。
「ひーっ、ひぃーっ!」
エマは声にならない声を上げ続けている。
「ああ、だめだよ、エマちゃん泣かせちゃ。エマちゃん、恐がりなんだから」
未冬がエマの肩を抱いてなだめてやる。
「怖かったね、もう大丈夫だよ。あのお姉さんたちの言ってることは、みーんな、嘘なんだからね」
「ふ、ふ、ふざけるな。だ、誰が怖がってなんかいるもんか。み、ミルクが熱かっただけなんだから、本当なんだから!」
「うん、うん。よく分かってるよ。でも……本当は、幽霊はわたしなんだよ」
へなへな、と座り込んだエマのテーブルに、三人は自分のトレイを持って移ってきた。
「さあさ、エマも幽霊の仲間入りしようね」
フュアリが楽しそうに言う。
「みんなで食べた方が美味しいですよ」
マリーンがにっこり笑う。
「いてて。なんで、わたし、ほっぺた引っぱられてるのかな」
未冬が涙目で言った。
ほんと、わたしの周りは、ばかばっかり。
エマは少しうれしそうに苦笑いした。
「で、次は未冬がぼけ―っとしてた理由を訊こうか」
そうなのだ。
昨日、あれからハヴィちゃんに連れて行かれたのだ。
おそるべき、実験部隊の本部へと。
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