2章 士官候補生、訓練開始

第8話 飛行シミュレーション開始!

 シミュレータは2台設置されていた。

 4人ずつ二組に別れる。

 後から来た未冬たち3人に、もう一人眼鏡の少女が加わった。見るからに大人しそうなその少女はマリーン・スパイトフルと名乗った。


「今日は戦闘飛行シミュレーションを行う」

 教官の言葉に少女たちはざわめいた。未冬はそっとエマの様子を伺う。

 見るまでもなかった。血の気を失った顔で呆然としていた。

「あたし、敵前逃亡で銃殺されてもいい」

 エマは小さく呟いた。


 彼女たち『地上科』はもちろん飛ぶことは無いのだが、地上支援する場合に、飛行する側の感覚を知っておいた方がいいという事で、この訓練があるらしい。


 相談した結果、一番手はフュアリ・ホーカーが行くことになった。

 フルフェイスのヘルメットは脳波をシミュレータの本体に接続するためのインターフェースである。内部がモニターになっているだけでなく、飛行する加速度や、被弾した痛みまでも脳に直接伝えるのだ。


「うわあ、ちょっと怖いな」

 フュアリは、シミュレータの中に入った。すぐにその扉が閉まる。彼女が見ている風景は外部モニターでも見ることができた。

 いま彼女は空母の甲板に立っていた。

「射出するぞ。衝撃に備えろ」

 教官がマイクで呼び掛ける。

「は、はい」

 緊張した声で返事があった。


 フュアリ・ホーカーはカタパルトで空中に射ち出された。

「うぎゃっ」

 フュアリの声とほぼ同時に。

「ぶふっ」

 未冬の隣でモニターを見ていたエマが、変な音を発した。息を呑もうとして、どこからか空気が漏れたような音。

「大丈夫?エマちゃん」

 口をパクパクさせて、何か言おうとする。ああ、言いたい事は良く分かった。

 よしよし、と頭を撫でてあげた。


「うわー、私、飛んでるよ」

 フュアリの能天気な声がスピーカーから聞こえる。しばらく、飛行する感覚を掴むため上昇、下降を繰り返している。

 へぇー、余裕だな、未冬は感心する。

 間もなく正面に小型空母が接近してきた。

 標的だ。

「教官、攻撃します!」

「許可する」

 彼女の武器は短機関銃だった。

 真上から急降下し、甲板上の兵士に銃弾をばら蒔く。

「あはははは!」

 突然フュアリの笑い声が響いた。

「死ねや、おらーっ!」

 ひゃーはっは、と笑っている。


「中の人、フューちゃん、だよね」

 未冬は寒いものを感じた。

 しかし、それもあっという間に弾切れになったようだ。

「終了だ。出ろ」

 ヘルメットを外したフュアリがシミュレータの扉を開けた。

「あー、怖かったよぉ」

 ニコニコ笑っている。


 お前の方が怖いよ。エマが呟いた。

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