第6話 スピットファイアと二人きり
士官学校の寮では、未冬とエマ・スピットファイアは同室になっている。決して広くない部屋の左右両側にベッドと小ぶりな机が並んでいた。
几帳面で口うるさいエマと一緒というのは、未冬にとって、ややストレスだと言わざるを得ない。それこそ洗濯物の干し方まで文句を言われるのだ。
でも、勉強中のエマの頭の上に生乾きのパンツが落下した時は、流石に申し訳なく感じたものだ。その時のエマの冷たい視線を忘れる事はできなかった。
もし同室の二人がふたりとも未冬のようなズボラだったら、と想像すると、それはまた恐ろしい。きっと軍事法廷にかけられ、銃殺刑に処せられることだろう。
そう考えると、本当にいいルームメイトだった。
未冬が勉強をしていると、背後にエマが立った。
「未冬!」
「うわっ」
いきなり背後から抱きしめられた。
な、なんだろう。これは。
「あ、あの。エマ、ちゃん?」
「エマって呼んで」
いや、そう呼んでるけど。ぎゅっ、とさらに強く抱きしめられる。
「好きなんだ」
未冬の耳元でささやく。
「未冬は、私のこと、好き?」
「え、ええ。そりゃ、まあ」
嬉しい、と、耳をかぷ、と噛まれた。ひえーっ。
百合?これって噂に聞く、百合なの?
エマの指が、いやらしく私の胸を揉みしだく。
「相変わらず、いいおっぱいだのぅ」
あれ、どこかで聞いたことがある。これってエマの台詞だったっけ。
「とにかく。だめ、だめだからぁっ」
エマは構わず、私のスカートをまくり上げる。太腿の間に手を差し入れ、下着越しに私のあの部分をまさぐった。
「そこっ、いいっ。いいけど、だめっ」
私は声を抑えられなかった。
「おい、未冬。おいってば!」
「へっ?」
未冬は目を開けた。いつの間にか机に突っ伏して寝ていたのだ。
目の前には何とも言えない、微妙な表情のエマがいた。
「お前、うるせえよ。なに一人で騒いでるんだ」
「やだ。エマのえっち」
「はあっ?」
危ない、危ない。私ってそんな願望があるのだろうか、未冬はひとり真っ赤になった。なんだろう、あんな夢見るなんて。
「ほんと、大丈夫か。変な声出してたぞ。具合悪いんじゃないか?」
あんまり心配そうなので、夢の一部始終を聞かせてあげた。
エマは大きなため息をついた。
「お前。きっと脳みそがピンク色してるんだろうな」
未冬は反論できなかった。
でも、この寮でもそんな噂はあるらしい。
「ま、誰とは言わないけどな。想像はつくだろ。そのハーレムの主」
未冬はあの長身の美少女、ユミ・ドルニエを思い浮かべた。どうもそれで間違ってはいないらしい。エマは曖昧に頷いた。
それに、別に禁止されてないんだ。そういう関係になることは。
「え、いいの?」
「なんだ、その目は」
「うん。まあ。……エマちゃん、可愛いよねと思って」
「おい、やめろよ。冗談だろ」
「私も、ここに来てから寂しいし。だからあんな夢見たんだよ。慰めて欲しい、な」
「あの、待って、未冬。……ちょ、ちょっと。い、いやぁーっ」
私としては、あくまでも、ちょっとだけ過剰なスキンシップ、というつもりだったのに、その後彼女に凄く怒られた。
でも、そのおかげで未冬は、エマとの距離が少し縮まったような気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます