第2話 力の誘惑に抗えない持たざる者たちの苦悩
「――それまでっ!」
昼過ぎの真夏の青空に、鋭い声と、それを発した者の手が上がった。
「――勝者、
その声と手を上げた者――
「――ふん、他愛もない。やはり」
その背後には、
「……あ~あぁ、負けちゃった……」
試合場を取り巻いている訓練中の生徒たちの一人――鈴村
「……武術トーナメントじゃ、瞬殺で勝ったのにィ……」
表情もとても残念そうである。
「――そりゃ当然だろう。その大会で優勝したのはマグレ以外の何物でもないんだから」
隣にいる男子生徒が嘲笑まじりに応えるが、
「――負けちゃった、
糸目の男子生徒――小野寺
苦笑とも微笑ともつかぬ表情で。
(――やはりこうなったか。当然だな。早斬りのネタが完全に割れたのだから、対策や攻略法を編み出されるのも時間の問題だった――)
そんな
(――とはいえ、この短期間で誰よりも早く小野寺の早斬りを破れたのは、海音寺ならではでしょうね)
そこまでつぶやいた武野寺先生の視線は、ようやく立ち上がった小野寺
「――よほど熱心に研究されたのね。あの闘いぶりから見て」
もてはやす
「――当然だろう。一瞬でも早く汚名を返上したかったんだからな」
「――それに、別に難しくなんかなかったさ。アイツの早斬りを攻略するのは――」
「――そうね。ただひたすら耐えながら間合いを詰めればいいだけだもの」
(――けど、誰にでもできる攻略法じゃないわ。海音寺と平崎院以外にそれで小野寺に勝てた生徒はいないから――)
武野寺先生はその二人の女子生徒を眺めやりながら、今日の午後の授業を振り返る。
(――でもこれからは、早斬りが届かない距離まで試合開始線の間を取った方がいいね。これじゃ、試合にも訓練にもならないわ。小野寺もその対戦相手も――)
そして、そのように今後の授業の指導内容の変更ないし修正を考えるのだった。
そんな武野寺先生をよそに、
「――これでオレが最強だということが証明された。周囲にもそれを認知させることができた。あとは平崎院、お前だけだ」
「――いいですわ。三日後、わたくしの屋敷でわたくしの武芸のお披露目会を開催いたします。その集大成の相手として、あなたとの試合を組んでおきますわ」
「――なるほど、お前との決着にふさわしい舞台だぜ。小野寺なんかにはもったいねェ。やはりここで小野寺と決着をつけたのが、小野寺のヤロウにとっては分相応ってもんだ」
「――そうですね。どうやらわたくしは彼を買いかぶっていたようですし」
「――それでは、楽しみに待っていますわ。わたくしの武芸のお披露目会を。むろん、わたくしの引き立て役として、ね」
挑発的な口調で告げる。
「――それはこっちのセリフだぜ。お前をひいきにするヤツらの前で完膚なきまでに叩きのめしてやる。絶対にな」
敵意を剥き出しにして宣言する
特に、
「――そういや、お前を慕っていたあの三人組の女子どもは暴漢に襲われて入院しちまったそうだが」
「――ええ、そうなのよ。ゲガは復氣功で全快したけど、意識が戻らなくて……」
「……何者だろう、その暴漢。あの三人組、オレほどではないが、そこそこは強いのに……」
「……警察の捜査ではどうやら複数で襲われたそうだけど……」
「――けっ、ざまァ見ろってんだ」
最後のセリフは、遠巻きで二人を眺めやっている
「――これ以上、お前らオンナどもにデカい
「――今度はお前らの番だぜ。三日後を楽しみにしてな」
長男の左右に控えている次男の
「――だいじょうぶ、
「……うん、だいじょうぶ……」
「――仕方ないわ。ついに攻略されたんだから。
ため息まじりに言ったのは、
「――ま、時間の問題だったけどね」
「……うん……」
「――『うん』じゃないわっ! どォーするのよっ!? いったいっ!」
「――次の模擬戦では武術トーナメント以上に成績にひびく実技試験なのよっ! その日までそんなに時間はないっていうのに……」
「……やはり胆力をつけるしかないわね。どのみち、学年首席で卒業するには、不可欠な要素なんだから」
「……そう簡単につくものなら苦労はしないわ」
「……こうなったら、最後の手段よ。禍々しい名称だから、口にするのもおぞましいけど、もうこれしかないわ……」
「……
顔を上げた
「――アレを使うわ。一周目時代の二十一世紀日本を生きた男の子なら、だれもが宿していたと云われる、あの力を――」
「……なに、ソレ? またありもしない霊能力的な力でそれを引き出す気?」
尋ねた
「――今回は霊能力は用いないわ。これはそれらとは別次元とも言える力なんだから」
「……で、その力の名は?」
「――邪気眼よ」
『…………………………………………』
「――
「――ならんわっ!」
「もったいぶるから何かと思えば、単なる中二病の一種じゃないっ! それもポピュラーなっ! そんなもんに目醒めたところで、気が強くなんかならないわっ! 気が強くなったように周囲に見せかけるだけでっ! とどのつまり虚勢よっ!」
「ええっ!? そうなのっ! 」
「そうよっ! まったく、相変わらずの中二思考ね。いい加減、卒業しなさい」
「……そんなァ。超常特区に住み続ければ、それに限らず、どんな力でも目醒めるって言われてるのにィ……」
「……アンタねェ。力に目醒めるといっても、せいぜい、人間の脳機能や
「……そんなこといったって、今となってはもうこれにかけるしかないのよ。
(――本当はそれにかける必要があるほど弱くはないんだけどね――)
それを見やりながら、
(……それがあれば苦労はしないわ……)
と、さきほどの
「――あ、もしもし」
不意に
とはいえ、通話相手の声までは聴こえないので、
「――下村さん」
であった。
(――どうだった。午後の授業は。戦闘訓練だったんでしょ。一対一の。で、結果は――)
(――うん、負けちゃいました。海音寺さんと平崎院さんに――)
(――でしょうね。そんなもんでしょ。アンタの実力は。武術トーナメントで優勝できたのは、運とマグレのおかげだったのよ。やはり、アタシの目に狂いはなかったわ――)
下村
(――ちょっとォ! アンタなに
二人の
(――気安くかけて来ないでほしいわね。第一、なんでここの生徒でもない部外者のアンタが、今日の
それに
(――
(――だれよ。アンタの視聴覚に
(――そんなの教えるわけないでしょ。ジャーナリストのはしくれであるアタシが、情報元の名を――)
(――なにがジャーナリストよ。節操と倫理観にとぼしいマスゴミが――)
と、
(――で、
(――そうケンカ腰にならないでよ。そんな小野寺にうってつけな情報を入手したんだから――)
『…………………………………………』
それを聞いた
(――なんですか?)
ただ、
(――これはアタシ独自の情報網で入手した貴重な情報よ。忘れずにちゃんと見聞
(――もったいつけてないで、あるならさっさと言いなさい。どうせガセなんでしょう――)
(――ガセじゃないわよっ! ジャーナリストのアタシをナメないでちょうだいっ!)
(――ギアプよ)
(……ギアプ?)
(――そう。技能付与アプリケーションよ。これを使えば、一発で――)
ピッ
(――ちょっとォ! なにいきなり切るのよっ!?)
再度即座につないだ
(……だって、効果がないんだもん。家事のギアプを使っても、全然だし。ギアプなんて、大嫌いだ……)
(……確かに、従来のギアプは、使用者の相性や適性、そして
(――だれ? その開発者って――)
怪訝そうな表情と口調でうながしたのは観静
(――
(――貝塚
それを聞いて、
(――そりゃそうよ。アタシの情報網は、そんじゃそこいらのジャーナリストとは次元が違うんだから――)
(――彼が開発したギアプは、従来のそれでは適合しなかった人でも適合する適合性の高い改良版だそうよ。これなら、
(――
(――ホントですかっ?!
不審がぬぐえない
(――もちろんよ。それじゃ、改良版ギアプが入手できる場所や時間などの詳細な記憶情報をテレメールで送信するわ。情報料と引き換えに、だけど――)
(――うん、いいよ。後で払うから――)
「――やったァッ! これでもう家事のできなさに悩まなくて済むっ! 解決したも同然だっ! ありがとう、下村さんっ!」
「……ちょ、ちょっと、
ベンチから立ち上がって狂喜乱舞する幼馴染に、
「……いいの。アイツの言うことを信じて……」
「――そうよ。アイツに関わったり、アイツがもたらす情報を鵜呑みにすると、ロクな目に遭わないわ」
「――改良版ギアプってどんなものかな。ボクの
まったく聞いてなかった。完全に上の空であった。
「……しかも悩みの論点がズレている」
「……どうする。
「……つき合うしかないでしょう。アタシたちが止めても、全力で振り切って行くのは目に見えているし……」
「……たしかに……」
「――こうなったら、
まだ喜んでいる
「……………………」
屋上の物陰から自分と同じ対象を眺めている一個の人影に気づかないまま……。
その眼差しは嫌悪と侮蔑に満ちていた。
夕焼けの光が満遍なく降り注いでいる。
常に頭上に浮かんでいる陽月からである。
陽月を公転している浮遊大陸や浮遊島は例外なくその陽光を受けている。
それはダース単位の浮遊群島で構成されている超常特区も例外ではなかった。
「……本当に、ここなの?」
頭上の陽光を浴びながら、
「――うん、そうだよ」
問いただされた
「……下村がテレメールで送信した記憶情報ではね……」
「――それにしても、なんでここなのかしら。改良版ギアプの発表会の場所と配布が――」
そのあと、周囲を見渡しながら、首をひねる。
いま
「……なんか、アタシたちだけ浮いてない?」
「……そうみたいね。技術的に改良の難しいギアプの発表会だというのに……」
「……今ごろ気づいたのかよ……」
か細いが吐き捨てるような声が、
「……ここはお前たちのようなリア充が来るところじゃねェんだ。バカにしに来たんならさっさとどっかへ行け」
言動も卑屈と侮蔑に歪んでいる。
「――なによ、アンタ。別にいいじゃない。アタシたちが改良版ギアプの発表会を観に来ても。なんか文句あるの」
それにカチンと来た
「……………………」
少年は顔をそらして沈黙するが、その瞳には蔑みと怯えが入り混じっていた。
「――それじゃ、どんな人たちが来ていいところなの。この発表会に参加資格なんてものがあるならどんなものなのか教えてちょうだい」
「……………………」
少年はこれも沈黙で応える。
「――ちょっと、何とか言いなさいよっ!」
愛が声を荒げて要求するが、少年は何も言わない。その様子を見て、
「――ほっときましょう、
冷淡に言って少年から視線をはずす。
「……そうね」
しばらく間を置いてから応じた
「~~~~~~~~」
すると、少年は殺人的な眼光で年上の少女二人の背中を睨みつける。しかし、それから間もなく、発信者不明の
「――なんだったのかしら、あの子」
「――忠告のつもりで言ってきたんでしょう。なんの忠告なのかまではわからないけど」
「――でも、それはボクたちを気遣ってのことではないでしょうか。忠告なら」
三人のやり取りを一部始終を聞いていた
それに対して、
「――ようこそ、お集まりのみなさん」
よく通る声が神社の広場に行き渡った。
三人は声が聞こえた方角に視線を動かすと、神社の
神社の広場に集まっている人たちに呼びかけた言動から、どうやらこの人が改良版ギアプの発表会の主催者のようである。つまり、
「――あれが
その姿を見て、
下村
「――本日はわたしの招待に応じていだたき、ありがとうございます。みなさまにとってはとても良い一日になるでしょう」
その第一印象としては、良くも悪くも学者肌の青年に見えるが、果たして、真実はどんな姿と形を成しているのか。
「――今の第二日本国は、憲法上の身分制度による絶対的な社会格差が横たわっています。そのため、身分の低い者は身分の高い者から不当な扱いを受け、虐げられています。どんなにがんばって努力しても、報われるのはほんの一握りだけ。限りなく0%に近い。これが第二日本国の現状です。不平等極まりない社会というべきでしょう。一周目時代の二十一世紀日本では、憲法上の平等が約束されていたというのに、第二次幕末の動乱になんの貢献も果たさなかったというだけでこの社会的待遇。嘆かわしい限りです。これが先進国のすることなのでしょうか?」
「……なに、この社会批判演説。改良版ギアプの発表に何の関係がある前置きなの?」
「――やっぱりガゼだったみたいね。しょせんは下村の情報。当てにならないわ」
「ええェーッ! それじゃ、家事の改良版ギアプは入手できないのォ!?」
「アンタ目的をはき違えてるんじゃないわよっ!」
二人の大声に、演説者を含めた聴衆一同がジト目で注目するが、
「――特に、平民はそれが顕著です。士族や華族からの差別や迫害などは日常茶飯事。それはここにいるみなさんも身をもって味わっているはずです。士族や華族の子弟子女から身分差や力の差による虐めを受けているみなさんなら――」
訴えかけるような貝塚の演説に、聴衆は無念と悔しさに歯を噛む。
「――なるほど、それでか――」
聴衆の様子を見て、
「――どういうことですか?」
よく考えたら、身分差による迫害や虐めは、第二日本国では別に珍しくない。少年期での虐めの原因第一位は身分差なのである。陸上防衛高等学校では、身分差に関係なく実力重視で評価される上に、現在入院中の
つまり、ここに集まっている聴衆は、士族や華族の子弟子女から虐めを受けている平民の少年少女たちなのである。
「――いずれにしても、イヤですね、イジメは。みんなかわいそうに……」
「……イヤ、それはアンタもでしょう……」
「――その気持ち、よくわかります。わたしも平民だという理由だけで士族や華族から不当な扱いを受けていますから。こんな社会、いつかくつがえる時が来るとしても、それは今すぐではありません。そう、今。今こそが重要なのです。身分の高い者たちの迫害や虐めから逃れたいのは。そのためには、やはり力しかありません。第二次幕末の動乱で身分の低い者たちが身分の高い者を力で打倒したように。ですが、力のない者には不可能ですし、そう簡単に力がつくものではありません。戦闘系のギアプも、
「――あ、やっと本題に入りそう」
演説の流れを察した
「――しかし、わたしが開発した改良版ギアプなら、その心配はありません。適合性が限りなく一〇〇%に近い上に、誰もが秘めている力を最大限に引き出せるものを
それを聞いた途端、今まで暗かった聴衆たちの表情が陽月のように明るくなる。
「――これは使えば、みなさんが置かれている現状を打破することができます。そして、自分を虐げる者たちに思い知らせてください。この新型の氣功術のギアプで――」
『――――――――!!』
「……新型の氣功術のギアプ。それがあったか……」
「……貝塚
ただし、それが本当ならばの話だが。
「――それでは、これからこのギアプをテレメールでみなさんに配信します。みなさんはそれを受信する準備を――」
「――へェー、そんないいもんができたんだ。すげェな、オイ」
貝塚の指示を、感嘆に似た感想がさえぎった。
だが、その声調は決して好意的ではなかった。
それを聞いた途端、聴衆の表情が恐怖に青ざめ、恐る恐る声が聴こえた方角に振り向く。
その数は三十人強。すでに広場に集まっている少年少女たちの倍で、卑屈で劣等感の強い彼らとは真逆の
優越感と
「……な、なに、この人たち?」
「――どうやら噂のイジメっ子たちのようね。ここに集まっている子たちの」
それに答えたのは
「……でも、なぜ、このタイミングで……」
「――よう、
突如現れた少年少女たちの中心にいる一人の男子が、聴衆の一人である少年の名を呼ぶ。
「……………………」
名を呼ばれた少年は相手から視線を背けてうつむく。
先ほど、
勇吾たち三人と聴衆は名を呼ばれた少年に視線を集中させる。
「――俺は信じていたぜェ。他のヤツらならともかく、まさかお前がそんなことに加担するわけねェからなァ。お前ら下民どもが、畏れ多くも、俺たち華族さまに反抗しようと企んでいるなんてよォ」
「――――――――!」
広場の聴衆に驚愕の戦慄が走る。
「――そのことを知ったお前はそれを阻止するために、オレたちにチクったんだよなァ。反抗に使うためにここで
その男子は緑川という少年に向けてさらに言う。
あからさまなまでにに声を高めて。
この場にいる全員に聞かせるのが明らかな、
「――そうだよなァ。
「……………………」
「――返事しろよォ。でねェと、勘弁してやらねェぞォ」
「~~~~~~~~」
緑川
「――キャハハハハハッ! 認めちゃったよォッ コイツマジウケルぅ~っ!」
言葉を発する華族の子弟の隣で、華族の子女が緑川を指さして笑い出す。こちらもその子弟に劣らず軽薄で品性に欠けている。
「――ハハハッ! なんてヒデェヤロウだァ。自分と同じ境遇のヤツを売りわたすなんてよォ。下民にふさわしい最低な所業だぜェ」
その華族の子弟も、隣の子女に同調してあざ笑う。
「――そう思わねぇかァ、みんなァ。コイツ憎いだろォ。俺たちにチクったんだからァ」
そして、緑川以外の、緑川と同じ境遇の聴衆にも同意を求める。
「……………………」
だが、求められた少年少女たちはうつむいたまま沈黙している。内心ではどんな心情が渦巻いているか、
「――これで思い知ったろう。お前ら下民どもは永遠に俺たち華族の下僕だということが。下僕のクセに俺たち華族に逆らおうとすんじゃねェッ!!」
その華族の子弟は怒鳴りつける。さきほどまでのチンピラのような口調を一転させて。その激語に、下僕呼ばわりされた少年少女たちは一段と萎縮する。
「――そんな気を二度と起こさせねェように、みっちりとヤキを入れねェとなァ。オイ、やっちまおうぜェ」
その華族の子弟にけしかけられた、他の華族の子弟や子女たちは、待ってましたと言わんばかりに一斉に歩き出す。
それぞれイジメの対象になっている少年少女たちに向かって。
「……は、話が違うじゃないか。正直に話せば、今回は勘弁してやるって」
緑川
「――ああ、確かに勘弁してやるって言ったぜ。人間サンドバックでな。今までと比べたら優しい方じゃねェか」
「……そ、そんなァ……」
「……僕はだれにもしゃべってないはずなのに、いったいだれが、この事を、華族に……」
うろたえながら発した
「――貝塚じゃないの?」
誰かが答えた。
観静
その左右には小野寺
「……と、どうして、貝塚なんだ?」
「――だって、イジメる相手とイジメられる相手の対象がもれなくセットでそろっているもの。両者の学生服から見て。改良版ギアプの発表会の参加者が誰なのか把握している者でなければまず起こらない事象よ」
「……そ、それが、貝塚というのか?」
「――そうよ。彼がこの発表会の開催者なんだから、そんなの容易でしょう。それに、その貝塚はいつの間にか姿を消しているし」
「――ホントだ。どこにもいない」
神社の
「……それじゃ、改良版ギアプは、改良版家事のギアプは……」
「……おそらく、嘘っぱちでしょう」
「――要するに、こいつらと
最後の確認の質問は、目の前にいる華族の子弟に対してであった。
「――ふんっ。さすが
華族の子弟は吐き捨てるような口調で認める。
「――今すぐやめなさいっ! こんなことっ! 人として恥ずかしく思わないのっ!」
「……なにが恥ずかしいんだよ? オイ」
だが、華族の子弟は悪びれもなく、覗き込むように反問する。
「――弱いヤツは強いヤツに何をされても文句は言えねェんだよォ。それが弱肉強食というものだろォ。なら、せいぜい有効活用するのが賢い使い方ってものさ。せっかく生まれながらの格差――身分という力の差を保証してくれるありがたい制度があるんだから」
「~~なんですってっ?!」
「……なっ、なぜイジメる。そ、そんなことして、な、なにが楽しいんだ?」
続いて
「――おっ、お前はたしか、あの武術トーナメントを優勝した小野寺
だが、華族の子弟はそれに取り合わず、愉悦に歪ませた表情で驚きの声を上げる。
「――間近で見ると、やっぱ下民の雰囲気がプンプンするぜ。士族とは思えないほどのな」
「……………………」
「――決めた。お前も緑川共々人間サンドバックにしてやるぜ。どうせマグレで優勝したんだ。俺たちよりも弱いんだろう」
華族の子弟は愉快そうにあざ笑う。そこへ、
「――そんなこと、アタシがさせないわっ!」
そう叫んで
「――なんだァ。このオレと
華族の子弟は子バカにした口調で嘲笑しながら前に進み出る。
「――近づかないでっ! アタシの右腕には悪邪鬼王キシガオの邪気眼を宿してあるわ。近づくとなにをしでかすかわからない、おぞましく邪悪な力を。これは大神十二巫女衆の筆頭であるアタシが禁呪法で編み出した禁忌の力よっ! そうとは知らずに近づいて死んでも知らないからねっ!」
「……そんなハッタリ、通用するわけないでしょう……」
「――はんっ! 邪気眼だとォ? それがどうしたってんだよォッ!」
だが、相手はまったくひるまなかった。
「……そ、そんなァ……」
「――ほらね」
そしてそれは、
「……お、お前らのせいだ。お前らのせいで、こんなことになったんだ。お前らさえ来なければ、こんなことにならなかったんだ。どうしてくれるんだよ。なんとかしろよォ……」
「……こんな性根じゃ、こいつらじゃなくてもイジメたくなるわよ……」
「――まったくだ。だから、この俺が正義の鉄拳を喰らわせてやるぜ」
諸悪の根源である華族の子弟の一人が鼻で笑うと、
「――なっ?!」
予想だにしない事態に、六人の華族の子弟は驚愕の表情でうろたえる。そして、六人の視線は、仲間を蹴り倒した一個の人影の背に向けられる。オールバックの髪型に陸上防衛高等学校の学生服姿を着たその少年は――
「――ヤマトタケルっ!」
「……ヤ、やまとたけるだとぉっ!?」
華族の子弟の一人がうわずった声をはく。
「――ヤマトタケルっていや、そこの小野寺ってヤツの陰で付き従っていう配下の通称じゃねェか」
「――この前の連続記憶操作事件だって、コイツ一人で解決したっていう話だぜ」
「……ウソだろ。それってウワサや都市伝説じゃなかったのかよ」
あからさまにひるむ残り六人の華族の子弟たち。だが、
「……だ、だからなんだっていうんだよ。俺たち華族に歯向かったことに変わりはねェんだ。どうなるか思い知らせねェと、示しがつかねェ。平民や士族は永遠に華族の下民だということを」
「……………………」
タケルは無言で自分を取り囲んだ華族の子弟たちを睨みまわす。
「……いまさら謝ってももう遅いぜ。せいぜい良い声で泣き喚けェッ!」
華族の子弟の一人が咆えながらテレフォンパンチを繰り出すが、
「ひぎゃああああああァッ?!」
良い声で泣き喚いたのはその華族の子弟であった。タケルが放ったカウンターで。実戦経験が豊富なタケルにとって、素人のテレフォンパンチに合わせてそれを入れることなど造作もなかった。その華族の子弟は、叩き込まれた顔面から鼻血をまき散らしながら地面に倒れ込む。
「……て、てめェッ! よくもォッ!」
残りの五人が数を頼んで一斉に襲い掛かる。だが、先に倒された二人と同様、素人丸出しの動きなので、むろん、ヤマトタケルの敵ではなかった。
――こうして、
「――ま、当然の結果ね」
そばにいる
むろん、このヤマトタケルは、小野寺
――そういうわけで、神社の広場に立っているのは、いじめられっ子を含めた三人の被害者や助っ人たちだけで、加害者であるいじめっ子たちは、一人残らず地面に横たわっていた。
「――ふんっ! 身分の威を借る下衆どもが」
鼻息とともに吐き捨てたのは、そのもう一人の助っ人である。
癖のあるショートカットの髪型に、男勝りで好戦的な
「――海音寺っ!?」
「――どうせ借るなら己の力にしろ。平崎院のように」
海音寺
その間、華族の子弟や子女たちにイジメられていた平民のイジメられっ子たちは、だれ一人、助けられた二人の助っ人に対して、礼のひとつも残さずにその場を走り去って行く。
「――どうしてアンタがここにいるのよ。アンタにとっては無縁な集会のはずなのに」
「――興味があったからさ」
「――興味?」
「――ああ。だましだましで凌ぎつつも、ついに万策尽きてに敗北したお前が、いったいどうやってそれを挽回するのかをな」
「――が、興ざめだったな。結局、ギアプ頼りなんだから。安直もいいところだぜ。世の中ギアプなしでは実力を発揮できないとのたまうヤツが結構いるが、オトコならそんなもんに頼るんじゃねェってんだ」
「……で、でも、ボクにはどうしても必要だったんだ。ボクの夢をかなえるには。そのためなら、なりふりなんて構ってられないっ! それのなにがいけないって言うんだァッ!!」
「――はんっ! どうしようもないヤツだね。ギアプなんてものはエスパーダがないと使えない代物だっていうのに、結局はそれの依存に帰結するとは、しょせん、お前も佐味寺たちオトコの士族と同じ考えというわけか。ギアプを使わないと、ギアプなしのアタシたちオンナにかなわないないなんて、オトコの風上にも置けないぜ」
『……話が噛み合ってない……』
事実を、
「――けど、お前以上に風上におけないオトコが、そこにいるがな」
「――緑川とかいっていたたな。我が身可愛さに自分と同じ境遇の平民を売るなんて、
「……なっ?! な、なんだって?!」
不本意な表情でどもる
「――オレはな、お前のような恥も外聞もない卑怯で卑劣なオトコが一番大っ嫌いなんだ。イジメられて当然だぜ。助けるどころか、生きる価値すらねェ。さっさと死んでしまえ」
汚物でも見るような視線と暴言を叩きつけられた緑川
自分の不甲斐なさではなく、暴言を叩きつけた相手に対して。
「……おまえに何がわかる……」
「――ああん?」
「――おまえに何がわかるってんっだァッ!!」
「ボクだって密告したくてしたわけじゃないんだっ! そうしないと、もっと酷いイジメをされるんだっ! しかたないだろっ!」
「――それで密告されたヤツらは納得するのか」
「ああ、納得するさ」
「――この世の中はなァ、身分制度のおかげで、弱いヤツは強いヤツにいいようにされても仕方ないようになってんだ。弱肉強食ってヤツさ。弱いボクの気持ちなんか、わかるどころか、考えたことすらねェんだろっ! そりゃそうだろうなっ! 弱肉強食の
「ああ、全然わからねェな。我が身可愛さに自分と同じ境遇の平民を売るヤツの気持ちなんざ、わかりたくもねェ。ましてや、自分の弱さと身分差を克服しようともしねェ向上心のねェヤツなら、なおさらだぜっ!」
「~~~~~~~~っ!!」
「――アンタか。ヤマトタケルっていうのは。顔を合わせるのは、これが初めてだな。噂は色々と聞いてるぜ。なんでも、そこの小野寺の影の従者だそうだが、そいつよりもそこそこ強いらしいじゃねェか。それも、ギアプに依存した強さじゃなくて。オトコでなければ、平崎院と同等のライバルとして認めたかったぜ」
「……………………」
「――だから忠告しといてやる。こんなヤツの従者なんかやめちまえ」
「なっ?!」
詰まったような声を上げたのは鈴村
「――だってそうだろ。お前よりはるかに弱いのに、なんで主人としてあおがなくちゃならねェんだよ。小野寺をつけあがらせるだけだぜ。そしてお前はその強さを間違った使い方で無駄遣いさせられる。どっちのためにもならねェってんだ」
「……つまり、お前の方が自分の強さを正しく使えているというのか」
ヤマトタケルが初めて口を動かした。むろん、小野寺
「――もちろん」
「――女子だけイジメから助けるのがか」
「――ああ、そうだとも。オトコは助ける義理も価値もねェからな。そんなに助かりけりゃ自力で助かりな」
この返答も酷薄に満ちている。表情も平然そのものである。
「……………………」
「――不服そうな
「……………………」
「――まぁ、いい。別に無理強いはしねェさ。所詮、お前もオトコだからな。そうやって自分の強さを弱いヤツのために使っていればいい。報われやしない無駄な努力だとわからずにな」
「~~思い知らせてやるゥ~~」
呪詛のようなうなり声が、
緑川
「~~お前のみたいな思い上がったヤツは、徹底的に思い知らせてやるゥ。お前以上の力と強さを手に入れて、お前の力の無さと弱さをこれでもかと味わせることでなァ。その時になって泣いて謝っても絶対に許さねェからなァ~~」
憎悪と怨念を丹念にすり潰した宣戦布告を、だが、海音寺
「――ああ、そうかい。ま、せいぜいがんばりな。ヤマトタケルと同様、そんなに無駄な努力がしたいんなら。お前らのようなヤツらが、オレより強くなれるわけなんか、絶対にないのになァ。オトコってどうしてこうも不可能ごとに挑みたがるんだろう。ホント、理解に苦しむぜ」
言いたい放題とはまさにことである。そして、踵を返した
「~~バカにしやがってェッ!!」
緑川
「~~絶対に強くなってやるゥ。そのためなら、どんな手段も選ばねェ~~」
「――そんなこといったって、いったいどうやって強くなるのよ」
老婆心ながらに質問したのは鈴村
「――言っとくけど、ギアプなしじゃ、短期間では不可能よ。超常特区ならではの超能力や超脳力の覚醒は、ほとんど運試しのようなものだし」
「……や、やめた方がいいよ。力で思い知らせるなんて。そんなことで強くなったって、だれのためにもならないし、だれ一人よろこばないよ」
「――うるさいっ! お前のようなリア充になにがわかるっ!」
だが、
「……で、でも、短期間で強くなる方法なんて……」
「――なに言ってやがる。さっきあいつが言ってたじゃないか」
「……………………?」
「――改良版ギアプだ。これなら、このボクにだって短期間で――」
「――アンタ、まさか貝塚が言ってたことをまだ信じてるのっ!?」
「――当たり前だろう」
「――さっさアタシが言っていたことを聞いてなかったの。貝塚
「そんな証拠どこにあるっ! 全部お前の妄想だろうっ! もし本当だったらどうするんだよっ! お前責任取ってくれるのかっ! ええっ! お前ならオレを短期間で強くしてくれるとでもいうのかっ! 他人事だからって気軽に言うなっ! どうぜそんなことできやしないくせにっ!
相手の忠告を否定した挙句、激しく難詰する
「――あっ、そう。じゃ、勝手にしなさいっ! その代わりどうなっても知らないから。念のために言っておくけど、この件に関して、こっちは一切責任は取らないからねっ!」
これにはさすがの
「――ああ、勝手にするさっ! お前らこそボクの邪魔をするなよっ! いいなっ!」
売り言葉に買い言葉としか形容のしようがないやり取りを終えると、緑川
「……行っちゃった……」
森の奥へ去った
「……だいじょうぶかな?」
それも心配そうな口調で。
「――ほっときなさい」
険のある表情と声で言ったのは観静
「――また今回のようなことになっても、本人の自業自得よ。こっちが罪悪感を抱く必要なんて、これっぽちもないわ」
「――そうよ。せっかくの
それに鈴村
「……うん。たしかに、ボクもあれはないと思ったけど……」
「――しかも、助けてもらったくせに、一言の礼すら言わないなんて、ホント、恩知らずの上に礼儀知らずな子ね。将来、社会人になっても、絶対にやってはいけないわ」
「――でも、実際に助けたのはヤマトタケルと海音寺よ、
顔中がみるみると真っ赤に染まる。
「――
(……あ、そうだった。
それも、ヤマトタケルの正体が自分の幼馴染だという事実を知らずに。
つまり、幼馴染と同等の好意を、『ヤマトタケル』に対しても抱いているのだ。
その結果、同一人物である両者の板挟みになってしまったのである。
(……どうしよう。また助けてもらっちゃった……)
(――とりあえず、助けれてくれた礼を言わないと。でないと、あの子と同類になってしまうわ――)
そこまで考え、実行に移そうとしたが、
(――でも、
「――ちょっと、
(――かといって、礼は言わないわけにはいかないし、ああん、どうしたらいいのォ――)
「――
「――なによ、
「――タケルならもういないわよ」
「――へっ!?」
「――アタシたちが
「……そ、そうなんだ……」
「……………………」
しかし、それを察した
『……………………』
二人の女子はそろって沈黙する。
「……………………?」
その間に立っている
「――で、結局、その新型の氣功術のギアプとやらは手に入らへんかったっちゅうわけか」
龍堂寺
そしてこのセリフは、最後までそれを聞き終えた
「――そうなのよ、まったく。なのに、危ない目には遭うわ、文句や理不尽なことは言われるわ、忠告は無視された挙句逆に噛みつかれるわで、とにかく、さんざんだったわ。いくら骨折り損のくたびれ儲けで終わると覚悟していたからって、ここまで骨を折らせるなんて、さぞ儲かったでしょうね。くたびれの疫病神は」
「――こんな時こそ警察の出番なのに、その時にかぎって来ないなんて、ホント役立たずね。やはりアタシたち大神十二巫女衆や須佐十二闘将がいないと、この世の中は絶対に良くならないわ」
「……おまい、まだ治っとらんのか。その中二病……」
「――でも、真面目な話、そう思われても仕方ないわよ。いくら通報がなかったとはいえ、集団イジメを看過したんだから」
「……………………」
「――このままじゃ、ホントに
「――でも、観静さん。龍堂寺さんも龍堂寺さんなりに頑張っていますよ。現に龍堂寺さんが追っている例の傷害事件は進展しているのでしょう」
そこへ、
「――せや、その事件なら順調に捜査が進んどる。後はそれを引き継いだ華族の警視が動いとるさかい、容疑者逮捕も時間の問題やな」
「――大丈夫なのですか? 途中で事件の捜査担当を変わっても。変わったたのですか?」
「――そりゃ交代制やからさ。警察の勤務は。それは事件の捜査だって同様や。二十四時間フルタイムで働くなんて不可能やからな。事件捜査の引き継ぎも、その時までエスパーダの各種
「――へェー、そうなんですか。それじゃ、その事件もすぐに解決できますね。よかった。これで被害者も報われて」
「……
そこへ、フォークの動きを止めた
「……?」
首を傾げる
「――アンタが口に出して言っているその被害者って、アンタのイジメっ子たちなのよ。ざまァ見ろと思いこそはすれど、気遣う義理なんてないはずよ」
「――えっ!? ……ああ、そうですね。たしかに、観静さんの言う通りです。でも、いざ、その人たちがそういう目に遭ったことを知ると、愉快な気分になるよりも、大丈夫かなっていう心配が、どうしても先立ってしまって……」
「……………………」
「――
「――
「――もちろん、緑川
「――でも、
「……そ、それは、そうだけど……」
「――もちろん、だからってイジメはよくありません。やはり、身分の高い人たちには、そういったイジメは絶対にすべきでありません。それができないのなら、身分制度自体、廃止すべきです。この件がなくても」
「――へェ、意外やなァ。
今まで口を閉ざしていた
「――全部、父さんの受け売りです。父さんも
「――へェー、そうなんだ」
「――それに、もっとおかしいのは、弱肉強食の考えです。しょせん、この世は弱肉強食、力こそがすべて、それが自然の摂理だと、よく華族や士族が唱える論理です。たしかに、力なしでは、現在に繋がる、第二次幕末で獲得した変革の成果は得られなかったでしょう。でも、力だけでは、決して得られなかった成果だったはずです。力以外のものがあってこそ得られた成果だと、ボクは今でも信じています」
「……………………」
しばらくの間、四人の空間に沈黙の空気が漂う。
「……すごい、すごいわ、
それを破ったのは鈴村
「……さすが須佐十二闘将の一人っ! 言うことが身分の差やその力を振りかざすだけのイジメっ子どもとは全然違うわっ! いずれ警察に代わって
「――なに言ってるのよ。それを言ったら、アンタだって
「ああっ! それは言わないてっ!
痛いところを突かれた
(――それに、警察に代わっての大活躍なら、すでになし遂げているわ。この前の連続記憶操作事件を始め――)
そんな
(――ただし、ヤマトタケルとして、だけど――)
と、つけ加えた時の視線は、すでに糸目の少年に転じられていたが。
「……アカン。このままやと、ホンマに鈴村の妄想が実現してしまいそうや……」
その隣の席で、龍堂寺
そんな
――と、
「――こっ、これは、
他校の制服を着た大柄な上司の名を、緊張のはらんだ声で呼ぶ。
きっちり整えた八二分けの髪型が印象的な
「――小野寺
『……………………へ?』
四人は間の抜けた声を漏らす。
思いもかけぬ宣告に。
「――連行しろ」
そして、店を出たその場に立ち止まると、四人の姿がその場から消失した。テレタクによる移動である。
『……………………』
残った三人は茫然とその一部始終を見つめていた。
「――はっ!?」
その中で誰よりも真っ先に我に返ったのは鈴村
「――ちょっとォッ! いったいどーなってんのっ!?」
「――なんで
続いて我に返った
「――へっ!? えっ?! エッ!? へっ?!」
だが、その龍堂寺
なにが起きたのかわからずに。
(――どうですか――)
突然の店内での逮捕劇に、客たちがざわつく中、カウンターに座っているクールカットの青年が、そんな三人を見やっている。
エスパーダで
(――ああ、上出来だ。よくやった――)
通話相手は、青年の視覚に
(――ありがとうございます。昨晩、この依頼とは別の方々からの依頼を遂行していたあの場に、その
(――そうか、それはご苦労だったな。どっちにしても、これであいつは終わりだ。それもこれも、あんな方法で武術トーナメントに優勝するからだ。少しは思い知れってんだ。オレたちの悔しさと身の程を――)
通話相手は歯ぎしりせんばかりに吐き捨てる。クールカットの青年は話を続ける。
(――では、報酬は例のところへテレタクで転送してください――)
(――ああ、わかった。しかし、お前の
(――恐れ入ります。こういった類の工作はわたくしの得意分野なので、これからもどうかご贔屓に――)
そう言ってクールカットの青年は
「――ん? あいつは――」
その時、店を背に歩いて行く青年の姿を、たまたまその近くを通りすがった一人の少年が目撃する。
陰気で暗い顔つきをしたその少年は、緑川
「――間違いないっ! あいつだっ!」
声に出して断言する。
それは、緑川
「――待ってくれ、貝塚
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