第2話 ご飯と味噌汁と野菜炒めと焼き鯖
「「「いただきます」」」
私とママとパパが合掌した。
「明日のピアノコンクール、優勝できそうなのか?」
私が箸を持ち、食事に手をつける前にパパがきいてきた。
「多分」
自信がなかった。まだ何回もミスをしてしまうし、本番はきっと緊張してもっとミスるに違いない。既に私はもう緊張していた。
「多分じゃダメなの。絶対優勝よ。優勝じゃなかったら、二葉もよく分かってるでしょ?」
いつもの眼力で私を捉える。暗示にかかったように、私は頷いた。
「じゃあもし優勝したら、ご褒美をあげるよ」
パパの口から初めてご褒美という単語が出てきた。しかし、私はパパのそのご褒美が何か知っていた。あの時以来、私がパパの相手をすることになったあれだ。ママが家にいない時に、パパと私で2人だけですること。全然私にとってはご褒美ではない、むしろパパにとってのご褒美だった。その証拠に、パパは口元を歪め笑っているつもりなのだろうが、目は全く笑っていなかった。
「そんなもの二葉には必要ないわ。優勝して当然なのだから」
「ママは相変わらず固いな」
私はそのママとパパのやり取りを、心臓が抉られるような気持ちで眺めていた。
心を落ち着かせるために、水を飲もうとグラスに手を近づける。その時、グラスに映る自分と目が合う。私はしばらくそのままにしていた。
「どうしたの? 早く食べなさい」
ママが促す。しかし、私にはそれが耳に入ってこなかった。私は私に取り憑かれたように意識を奪われていた。
「え?」
私は耳を疑った。グラスに映る私の目が見開いている。
私は焦りながら居間を見渡した。そこにはママとパパしかいない。二人はそんな様子の私を訝しそうに見つめている。
まただ。また聞こえた。ママとパパ以外の声が耳に入ってくる。その声に私は聞き覚えがあった。しかし、聞こえるはずのない声なのだ。その声は脳内で直接語りかけてくるように、私に命令を下していく。
「二葉、二葉? どうしたっていうの?」
「おい二葉、さっきからなにキョロキョロしてるんだ?」
私は頷いた。
「なんでもない」
私はママとパパを目配せてからそういった。
「ビックリするじゃないの。やめなさい」
ママが少し慌てた様子で、落ち着かせるためか味噌汁を啜った。
私も味噌汁を啜る。
今日は少し味がした。
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