居間

池田蕉陽

第1話 ご飯と味噌汁とサラダと鶏の唐揚げ



「「「いただきます」」」


 私とママとパパが合掌した。


「昨日の算数のテスト今日帰ってきたでしょ? 何点だったの?」


 私が箸を持ち、食事に手をつける前にママがきいてきた。


「100点だよ」


「そう」


 ママは表情一つ変えないで、そのまま味噌汁を啜った。私も味噌汁を啜る。しかし、いつもは心がほっこりする温かい味なのに、今日は味が全くしない。パパが「美味しいな」と口にするが、私にはそれが理解出来なかった。


「今日から2年生だろ? クラスの感じはどうなんだ?」


 今度はパパがきいてくる。


「別に普通だよ」


「友達は作っていないでしょうね」


 ママが眉間に皺を寄せながら、悪魔のような目で睨みつけてきた。


「作ってないよ」


「そう、ならいいわ。これからも友達なんか作っちゃダメよ。二葉ふたばには必要ないんだから。もし誰かと一緒にいる所を見つけたら……分かってるわよね?」


 分かってるわよね……それを言った時のママの顔は、悪魔よりも怖かった。私は今まで何度もこの顔を見てきた。その度に私はママには逆らえないんだなと確信してきた。


「分かってるよ」


 今日、2年生になって初めて友達が出来た。真由まゆちゃんって子で、私なんかに話しかけてくれるとても優しい子だ。でも、ママに見つかったらとんでもないことになってしまう。明日、真由ちゃんに謝ろう。そして明日からまた独りで学校を過ごそう。寂しけど、私にはその選択肢しかなかった。


 寂しいと言えば、今日は居間がやけに広く感じる。その理由は直ぐにわかった。わかった時には、私の心臓は一本の矢で串刺しにされており、さらに黒い靄がまとわりついていた。


 私は鉛のような飯を口に運んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る