第10話 神々の狂宴 4
この島は第二次世界大戦の頃、たくさんの防空壕、地下大本営が掘られ、表面は埋め直されたりしても、まだまだ中ではつながっている。そういう都市伝説だと聞いていたが、本当だった。
「よくもまあ、人力でこれだけ掘ったもんやなあ」
明良が感嘆の声を上げる。
「崩れないと言うのがすごいですわ」
「今大地震が来たら怖いけどな」
萌香が言うのに、砂田がビクビクとして言う。
地下の穴を通って教団の真下に行き、つながっている枯れた井戸から侵入しようという作戦だ。
なぜこれを知っているのかと訊くと、昔は観光で、少しは入れたそうだ。
辺りを窺って、まず、那智から出る。危険だからどうのこうのと言われたが、男女関係なく考えて、一番素手で強いのは那智だ。
次いで、明良、加賀、氷室、伊丹、砂田、萌香、樹里だ。
「良し、いいかーーヒッ」
最後に樹里が出て来る時、有名ホラー映画の如く出て来たのには、全員が背筋を凍らせた。
「ビ、ビックリした。よし、行くぞ」
気を取り直して、進む。ここは裏庭の人気のない所だが、いつまでもそうとは言ってられない。古井戸に元通りに見えるように金網の蓋を被せ、静かに行く。
が、建物に入ると、やはり見つかってしまう。見るからに鍛えられた筋肉の兵士6人が、バラバラと行く手を塞ぐ。
「フンッ」
構えるのに、明良が笑う。
「おっちゃんら、暑苦しいねん。筋肉は、観賞用ちゃうで」
言うや、足元のベンチを軽々と持ち上げて、ポイッと放って渡す。
兵士の1人が余裕の表情でそれを受け取り、次に、「エエッ!?」とか言いながら、意地で抱え込む。が、既に明良は次の獲物を抱えて、ブンブンと振り回していた。転がっていたパイプだ。見た目は軽そうだが、フォークリフトで運ぶやつだ。
6人は驚愕の表情で、アッと言う間に倒された。
「雑魚っぽいなあ」
「いや、普通は苦労するからね」
砂田が言う。
先を急ぐ。
次に出て来たのは、空手などの構えをする奴らだった。
足を止めることなく那智が突っ込んで、抜き手で1人の喉を付き、同時に蹴りを1人の側頭部に叩き込み、1歩進んで、顎をムエタイの要領で膝蹴りして砕く。浮足立ったやつの攻撃を楽に躱すと肘を逆に決めてへし折り、蹴りを放って来る相手の軸足の膝を蹴り砕く。
「怖えええ」
砂田と伊丹が震えあがった。
「急ぎましょう」
「はい!はい!」
階段を上って奥に進むと、大学の廊下とかそういう雰囲気の所に出る。
「確か前に見学に来た時は・・・」
伊丹は言いながら、キョロキョロと辺りを見廻し、1つのドアを開けた。
「幸子!」
「お兄ちゃん!?」
白衣の女の子が、パソコンに向かっていた。
「帰ろう。だめだよ、こんなの」
「どうしてよ。人類は勝手で、ずるくて、滅ぶべきなの」
「本当にそうか。お前が滅んで欲しいのは、人類全体か。グリーンハピネスのいう事が真実か、本当に」
「うう・・先輩が、来世で一緒になろうって・・」
「何も悪くない人も巻き添えにして、人質を取って、これが正しいのか。その先輩は幸子を本当に愛していて、幸せにしてくれるのか」
兄弟で話している間に、氷室と加賀はパソコンに取り付き、なにやらしている。
ちょうど幸子が言い負かされた時、氷室と加賀も作業が終わったらしい。
「よし。人工衛星とかはこれで心配ない」
「警備ロボットをいじった。攪乱させるぞ」
「幸子、ウイルスは」
「この液体を混ぜたらアルカリが強くなって死ぬの」
ポチッと、何か操作する。
「でも、ミサイルはどうするの」
「ミサイル?」
「衛星軌道上から、大都市に向けて発射するとか聞いたけど」
「えっ」
「スタンドアローンで、ここからは何もできないらしいわよ。撃てって命令するだけって先輩が。止めるのは、専用のキャンセルデータを使うんだって。これ」
ケロリと言う。
「とにかく、ここを脱出しよう。これ以上ここにいても、できる事はなさそうだ」
「あ、待って。資料を持って行く。役に立つかも」
幸子はディスクを何枚かまとめ、ポケットにつっこんだ。
案外、情熱に燃えてここへ来たものの、先輩に冷め、ここを出る機会を窺っていたいたのかも知れない。
まず、警備ロボットを先に出すと、それは教団員を敵と認識し、他のロボットにも指令を送って攻撃を始めた。
「うわあ、何でだ!?」
「こっちに来た!」
さっきの明良や那智に向かって来たやつらには歯が立たないだろうが、研究者や、ただの教団員ならどうという事は無い。
彼らはギャーギャー言いながら、逃げ惑っているようだ。
「よし」
それを横目に、その辺の白衣を引っかけて逃げ出す。
「さっき、筋肉自慢のグループと格闘集団がいたんだけど」
「ああ。カオスからの借り物の兵隊ね」
「テログループのカオスか!?」
「そう。人工的に戦闘力を上げられないかの実験をしてたから」
「そんな事まで・・」
愕然とする伊丹に、
「この教団、正真正銘のテログループやな」
と明良が言った。
阿鼻叫喚の騒ぎに便乗して外に出たところで、ライフルを持った兵士に見つかる。
とっさに物陰に飛び込み、明良がブロックの塊を投げつけて兵士にぶつけた。
兵士は失神したが、砂田が最初の斉射で肩を撃たれている。
「足じゃないから走れるな」
氷室が言って、容赦なく走らせて井戸に突き落とした。
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