第九話:魔王城へ……2

 そして翌日私達はこのアイザスを発つ。

 そこには勇者様と親友レミアともやもやしたままの私。

 渇きはすでに口の中すべてを支配している。汗は言うまでもなく、歩みを進める足取りはどこまでも重い。

 それでも、もうじきに見えてくる。


 人と敵対する魔族の長が待つはずの、魔王城が。

 そしてこの先、私を待ち受ける逃れられない運命が。


「静かだな。リュカ、元気なら何か話でもしてくれないか?」

「はあ、そうですか……? わかりました、まず初めに魔術構造についてのお話ですが魔術と言うものは遠く古より」

「すまない、やはり話さなくていい」

「ええっ……」


 少し離れた位置にレミアがいて、その表情はすごくにこにことしていた。

 でもごめんね。口を開くのがやっとでそれどころじゃないんだ。

 私達は静かに目的地へとまっすぐ進んでいく。


「場所はここだったのでしょうか? 別に疑うわけではありませんが……それが本当なら信じられないです」

「いや……ここで合っている。俺は一度そこへ入っているんだ。だから間違えようがない」


 背後から二人の声が聞こえると私はそれに気づく。


 ――――私の城はどこにもなかった。


「リュカ、レミア、二人の魔法で何か掴めないか? 何かしらの反応があったらすぐに教えてくれ」

「あ、はい……これといってありませんね……」

「こちらも何も感じませんね」


 私達はただ呆然と立ち尽くしている。

 私は眩暈が起きたかのように視界がぐらぐらとし始めていた。

 城には配下達がいたはずだ、それなのに――


**


 ――ドクン

 突然の大きな反応が心臓を打つ。


「大きな魔力反応が近付いています! 気をつけてください!」


 前方にいた勇者様は剣を鞘から引き抜いて応える。隣のレミアは感知できなかったのか周りを見回していた。


 大きな地響き。立ち込める暗雲。痛いほどピリピリとした空気。ただならない事態が起こりつつある。

 続けて何かが虚空を引き裂くと、打ち砕いた。空間が割れてそこからは大きな影が一つ姿を現していた。

 これは人などではない。

 ――魔族だ。


『グワッハッハ、ようやく目覚めの時がやってきたか。我は魔王、ザンデなり。憎き人間どもよ、今こそ……!』


 魔王。

 私の他にも魔王がいる……!? どういうこと? こんなの私は知らない、聞かされてない。

 じわりと蝕むような未知の感覚に頭が割れそうになり、段々と立っているのも辛くなる。頭を抱えて膝をつくとすぐにレミアが駆け寄って来た。


『ほう……? そこにいるのは人間ではないか……! 力を行使するのは久方振りだが丁度良かろう!』


 魔王と名乗ったその魔族に気づかれたみたい。

 勇者様は私達の方を振り返ると何か叫び、レミアとやり取りをしている。

 仕草から何となく口論をしているように感じた。

 私には二人の声や音を判別することができなかった。


 私の顔を覗き込んだレミアが、何か口を開いたところで私の意識は途切れた。


***


「リュカちゃん、わたしは隣の部屋にいるからね。何かあったらすぐに言うんだよ?」


 扉の閉まる音に気がつくと宿の部屋のベッドの上にいた。

 私は彼女の声に反応することができなかった。今は何も考えたくない。ただ眠りたい。これが夢なら覚めて欲しいとさえ願う。

 ――瞼が閉じてしまう直前。

 ふと視界に入った窓の外の空が、元の明るさを取り戻しているのがわかった。

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