第八話:魔王城へ……

「ありがとうございます。無事、成し遂げたようですね。こちらからの協力は惜しみません、どうぞなんなりと」


 翌日、魔術師ギルドにて。依頼を終えた私達はその完了報告をしていた。


「では障壁の解除ができる術師を一人連れて行きたい」

「はい、かしこまりました。それでは――」


 と、受付の人が言い掛けたところで私は割り込んだ。


「はい、あの! これって私が行ってもいいんですよね?」

「そうですね。リュカさんが可能であれば……こちらからもお願いしようかと思ってはいましたが、これは大変に危険なものになりますよ。それでもよろしいので?」


 そう言い終えると初めに私へ、続けて勇者様の方へと視線を送る。一方の彼は考えるような素振りを見せている。


「あの、同行は二人じゃダメでしょうか?」


 背後からのその声はレミアだった。彼女は私達に小さくお辞儀をすると微笑んだ。


「あ、レミアだ!」

「ふふ、上手くいったみたいだねリュカちゃん」


 レミアと両手を繋いで高くあげるとわいわいと喜ぶ。

 横目で様子を伺うと、その間もずっと勇者様は考え事をしているみたい。


「あの! いいですよね……?」


 私は勇者様の正面にひょいと躍り出てじっと見つめるけれど、彼は顔をふいっと顔を背けてしまった。あれ、もしかして私嫌われてるの? 今のはちょっとショックだったけどめげない。

 再び視界に入る場所に移動して何も言わず目だけを凝視する。またもやふいっ。くくく勇者よ、魔王は絶対に負けないから!

 この魔術師ギルドで、今まさに『ふいっ、ひょい』の戦いが始まりを告げる――!


「おおーい、何をやってるのかなリュカちゃんは……? ええと、この子のサポートとしてわたしも連れて行ってください。ランクは及びませんがきっと役に立ちますから、どうかお願いします」

「こいつを見ていると、何か調子が狂うんだよな……。ああわかった。二人ともよろしく頼むよ」


 最後はレミアのお願いにようやく頷く形になった。

 これで何とか同行できるようになったみたい。

 私達はほどなくしてこのアレクシアンを出発したのだ。

 ところでこれって――


***


「あの……そういえばどこへ向かっているのでしょう?」

「魔王城だが。何だ、話を聞いてなかったのか?」

「と、当然……知ってました! 聞いてましたね……」


 そうだよね、勇者様は私のお城に入ろうと頑張っているはずだもの。すっかり忘れていたけれど私達は敵同士なのだ。急に現実を思い出してへこんでいる。


「どうした? 顔色が優れないようだが、少し休んだほうがいいか?」

「本当。リュカちゃん何だかすごく汗をかいてるね……大丈夫?」


 二人が私の様子を見て心配していた。


「だ、大丈夫、大丈夫です……」

「仕方ないな、アイザスまでは何とか頑張ってくれ。そこで一度宿を取ろう」


**


 ――静けさに体を起こすと外はもう暗く、私はずっと眠っていたようだ。

 二人に気を使ってもらって今アイザスという街の宿にいる。

 確かここが一番私の城に近いと言っていた。

 目を閉じて明日と言う日を待とうとしたけれどもう眠れない。

 外の空気でも吸おうと部屋から出る。


 ――ブンッ、ブンッ

 窓の外からは何かの音がしている。そっと覗いてみると――勇者様が木の棒のような物を持って素振りをしていた。

 あれだけ強いのに夜遅くまで鍛錬を欠かさない彼の姿。どれほどの思いでここまでやってきたのだろう。

 私は自分がどうすればいいのか、わからなくなりかけている。


「レミア、ちょっと入るね。何かしてた?」

「どうぞ。リュカちゃん、今日は様子がおかしいから……。何かあったのかなってずっと考えてた」


 ベッドの上に座り彼女と向かい合う。

 何から話せばいいんだろう。――どこまでが話していいところなんだろう。

 じっと見つめていると心配そうな表情のレミアが小さく笑う。


「話したくないなら無理しなくて大丈夫だよ。ただ悩みがあるのなら、その一番の助けになりたいなって……思うよ」

「えっと……ね。もしもだけど、友達に隠し事をされていたらレミアは怒る?」

「隠し事……かぁ。――あ、もしかして!」


 レミアは何かに気づいたかのように、ハッとしたような顔をしている。


「え、何? ……何?」

「何となくだけど。彼のこと気になってるんでしょ?」

「ええっ!?」


 どうしてそれを。じゃなくてそれも隠してはいるけれど今だけは違う。


「やっぱり、怪しいと思ってたんだ。向こうも何かね、リュカちゃんのことじっと見てるし……これは! ってね」

「え、嘘、そうなの!?」

「ふふ、任せておいて。ああ……なんだ。そうか、そう言うことかぁ! わたし色々頑張るからね!」

「あ、いや、え、ちょっと待っ……」

「そろそろ寝ないと明日起きられないから。じゃあね、おやすみリュカちゃん!」


**


 バンバンと両肩を強く叩き、得意げにレミアが向けた表情が忘れられない。私は彼女の勢いに押されてついには何も言うことができなかった。


 部屋の窓の外からはもう何の音も聞こえてはこない。静かな夜だ。

 ――このまま終わってしまうのは嫌だな。

 シーツに包まったまま、私は一睡もできなかった。

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