僕のCDが全然売れない

三文士

第1話 オリジナルCDを作ったけど全然売れない

最後にカクヨムで文章を書いたのはいつだったか。


ずいぶんと間が空いてしまった。お久しぶりの方はいらっしゃるだろうか。文章の書き方もたどたどしく、うっかりすると忘れてしまいそうだ。


ここ最近はずっと別の場所で活動していたので小説を書いている余裕がなかった。己の許容量の少なさに驚愕する。


私の大きな趣味のひとつは小説を書くことであり、もうひとつは音楽である。その音楽の方でしばらく活発に動いていた。


先日、十年ほどの活動していたバンドで初めてのアルバムを作った。十年でようやく一枚である。もちろんデジタルでなく現物のプレスCDである。歌詞カードやケースも作った。


十年分の集大成と言えば聞こえが良いが、もっと出すべきタイミングが他にあったとも反省している。


恥を恐れず正直に言うが、作ったはいいがてんで売れていない。生産数は三百枚。決して多くはない。バンドメンバー全員が、作る前からいかに弱腰だったかがうかがえる。いや、弱腰だったのではない。初めからこれで収益をあげようとは誰も思っていなかったのだ。弱腰ではない当然の判断だと言える。


十年間のせめてもの思い出作りにと始めたことだった。三百枚を多いととるか少ないととるか人それぞれだ。果たして名もないラップバンドのオリジナルアルバムを買う人が三百人もいるだろうか。純粋な販売数だけで言うと、まったくもって否。である。はっきり言って三百枚を売る自信はなかった。


百枚は友人や関係者に配ろうと思っていた。ある意味「今までありがとうございました、その節は支えていただきました」的なお礼状の役割も果たしている。それで百枚はなくなる。


残るは二百枚。レコーディングやミックスマスタ、プレス代やジャケット代など製作にかかった費用は私の計算でいけば百六十枚売れればペイできることになる。百枚配り百六十枚売る。それで大団円。あまりの四十枚は細々配ったり売ったりできればいい。これにて我が音楽人生の一幕目もめでたく終演となる。


予定だった。


ここに来て予想外の出来事がおきた。まず、五十枚も売れていない。要因はいくつかあるが一番大きかったのは本来ここで一番売れるだろうと見込んでいたイベントでたった八枚しか売れなかったことだ。五十枚は持って行った。そこで八枚。


挫折。圧倒的敗北。恐ろしいまでの現実。


完売確実だとまで思われていたイベントでこの枚数である。私は驚愕を隠せなかった。


予定通り関係者に配ったり前々からtwitterなどで購入を予約してくれた方々への発送も終わった。


後には二百三十枚ほどの在庫が残った。


どうしよう。


私は頭を抱えた。


メンバーは皆さまざまである。


「まあ、作ったことに意味がある」


という者もいる。


「ある程度は売るけど三十枚くらいかな」


という者もいる。


私は音楽を仕事とすることを諦めてからずっと商売に携わってきた。自然と頭でそろばんを弾いていしまう。


ダメだ。こんなことでは。なんとかしなくては。


そう思った。


少なくとも元手にかかったお金だけはプラマイゼロにしたい。そう考えた。


値段を下げて売るか?いや、それは定価で買った人々に申し訳ないし、それこそ元手回収にも時間がかかってしまう。第一、在庫処分をしたいわけではない。単純になくしてしまいたいなら無料で全部ばら撒いたりだのやり方は色々ある。


私は元手にかかったお金を回収したいのだ。


今後死ぬまで商売に携わっていく人間として考えた。


仮にも自分の十年間の集大成を、である。売れ残すわけにはいかないだろう。マイナスで終わらせるわけにはいかないだろう。


そう思った。


とにかくCDを売らなくてはならない。


音楽家として、自分の音楽に誇りを持ちたい。


商売人として、自分の戦略が通用するのか試してみたい。


人間として、十年間わき目もふらずひたすら打ち込んできた物を人様に評価していただきたい。


これらの熱く青臭い気持ちとともに、部屋の片隅で早くも埃をかぶり始めている集大成たちをなんとかしないと、嫁に何を言われるか分からない恐怖が私を駆り立てる。


幸いなことに世はネット時代。パソコンとスマホがあれば不可能はないと言われている。


そんなこんなで、私は自らの名も無きラップユニットのCDをあの手この手で売る手段を考え始めた。


毎度のことでお気付きの方もいると思うが、このエッセイもその販売促進のひとつである。


まず手始めに私のtwitterにネット通販サイトのboothのURLを埋め込んでみた。


これから苦しい戦いになる。色々やっても売れない可能性のが高い。


やってもおそらく3パーセント。


しかし、


やらなければ絶対0パーセント。


これが今回の勝算である。


もし興味のある方がいれば、いきなり買ってくださいなぞとは言わない。


だが良ければこのエッセイにて私の集大成の行く末を見守って見てほしい。


それでは終わりの始まり。スタート。




◆在庫数 残りあと 237 枚

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