子供

第49話

 雪翔が回復するまでそれなりに時間はかかったが、意識が戻ったので、毎日昼に面会に行き、洗濯などを持ち帰って洗ったり、食べ物も食べられるようになったので、ゼリーなど食べやすいものを持っていく日が続いていた。


 そんな中、お金が全く無いことに気付いた親は会社の資金ぐりに困り、いくつか銀行も回るが、預貯金もないので貸してくれるところはなく、新築の家を手放すことにし、二束三文で売り払い、6畳ひと間の安いアパートを借りたと報告が入る。

 会社も傾き、今まで不自由なく暮らしていたのと一変して、毎日の食事にも困るようになっていく様にしたのは勿論頭の切れる藍孤。狐の祟りというものだ。


 順調に回復していく雪翔に対して、子を捨てた罪は重いので、生活を一変させた上で、親に術をかけて雪翔の戸籍を抜き、下宿屋に全てを移す。


「やりすぎでは?」と栞にも言われたが、これでいいと言い張り、退院の日を待つ。


「退院おめでとう!」夕餉時にようやく熱が下がり退院した雪翔の祝いをしているときに、薬屋の店主を母親が来たときに呼ぶことを忘れていたと思い出す。


 何度も世話になっているが、薬屋の店主も人ではない。


 自分たちとはまた違うが、今いる子の人間の世界と繋がっているところにある幻界という所の姫と、いつも付き従っているユーリは姫の従者だ。

 怒らせてら怖いのはわかっているのだが、母親がいきなり来たのだから呼んでいる時間もなかったので、今度また書物でも貸し出せばいいかと、久しぶりの酒に舌鼓をうつ。


「やはり家での食事が一番おいしいですねぇ……」


「沢山食べてください。玉子料理は賢司さんがしてくれて助かりました」


 目の前のチーズオムレツを食べ程よい味加減に旨いと太鼓判をおす。


 栞の作ってくれたものは、厚揚げと鶏肉のすき焼き風煮込み。牛スジのポン酢和え。ポテトサラダにブリの塩焼き。他にも菜の花の和え物や茶わん蒸しなどたくさん並べられている。


「これだけ作るのは大変だったでしょう?」


「ほとんど本を見て作ったのでお恥ずかしい限りですけど」


「今までは食事はどうされていたんですか?」


「本当に簡単なものばかりで、よく豆腐など食べていました。それに、あまり買い物などは行かなかったので、山菜や木の実などが多かったです……」


「そこまで気にする必要はないと思うのですけどねぇ」


「私、あの社が初めてなんです。最初の頃は出ていたんですけど、町もかなり変わったので余計に出なくなってしまって」


「今は平気ですか?」


「はい。なので一人で病院までも行けました」


 話しながら飲み、たまには飲んでもいいのではないかと栞にも日本酒を勧める。

 雪翔はみんなから何の病気だったのか聞かれ困っていたが、同じ年ごろの子供が帰って来たことに一番喜んでいるのは海都かもしれない。


「楽しそうですねぇ」


「夕飯時になるとたまに海都君と二人の時もあってちょっと寂しい日もあったので。みんなが揃うとやはりいいですね」


「私もそう思います。毎日お弁当もありがとうございました」


 とんでもないと手を振るが、助かったのは本当なのだから、何かお礼をと栞に言う。


「皆さん食べたら片付けてくださいよ?大きなものは浸けておいてください」


「え?今何時?」


「もうすぐ20時になりますけど……」


「やべっ!俺、母ちゃんに電話しないと!」


「何かあったんですか?」


「この間数学のテストがあって、それが80点以上だったらバイトしていいって言ってくれたから」


「で?」


「堀内さんに教えてもらったから、ばっちし!87点だったよ」


「嘘だろ?いつも赤点なのに?」


「ふふふ!これテスト」そう言いズボンからテスト用紙を出して隆弘に見せつけているのを覗き込むと、今まで見たことのない点数が表れていて、87とちゃんと書いてある。


「真面目に頑張ってたし、やらないだけなんですよ。海都は。教えたらすぐに飲み込みましたし、漫画読む時間勉強すればもっと成績も上げると思いますよ?」


「これで賢司さんのところの居酒屋でバイトできる!」


「お母様にも言われると思いますけど、学業優先ですからね?」


 相当嬉しかったのだろう、喜んで電話を掛けに行き、笑顔で戻ってくる。


「良いって!賢司さん店長に話しておいてよ」


「おう!これで俺も少しは楽出来るかな」


「そんなにお店忙しいんですか?」


「店長復帰した途端、また混み出して最近満員御礼状態だよ」


「一度行ってみたいですねぇ」


「私も行ったことがないので興味あります」


「なら、みんなで行きましょうか。次にみんなが揃った時ですけど」


「俺がバイトしてる時に来てよね?」


「ダメだしいっぱいしてもらえ!」


「それはやだ!」


 みんながワイワイとやっているので、いらないお皿とお膳を下げて食器を洗ってから、新しいお酒を持って戻り、ほかの子もみんな洗いに行ってから、飲むものだけが残り、テレビを見ながら酒を飲む。


「22時には皆さん寝てくださいよ?特に高校生は」


「はーい」


 最近 居なかったせいか、みんながなかなか戻らず、お開きは23時を回っていた。


「楽しかったですが、疲れましたねぇ」

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