第44話
さっさとしてしまいましょうかと、米を研いで野菜を切る。
衣を作ってあとはみんなが帰ってくる時間に揚げるだけだと一息ついていると、「ただいまー」と元気な声で海都が帰ってくる。
予定時間よりも一時間も早い。
「お帰りなさい。早かったんですねぇ」
「うん、空いてたから早くついたんだ。その分寄り道しないで帰りなさいって。荷物置いたら銭湯行っていい?」
「じゃあ、雪翔も連れていってください」
「分かった!後、洗濯機空いてる?」
「ええ」
「浸け置きしたいんだけど」
「右側の使ってくださいよ?」
わかったと聞こえ、ガタガタと洗濯機に何か入れている音がするので、まただいぶ汚してきたのだろう。
雪翔を連れて銭湯に行ったので、またのんびりとテレビを見ながらお茶を飲む。
いつも見ているアニメだが……
「こういうのも見るんですね」
「商店街で言われたんですよ。若い子に付き合うのに見た方がいいと」
「でも、このキャラクター、薬屋の店長に似てませんか?ワンチャンもいるし」
「でしょう?それも店名が同じなんですよ」
「一度行ったことが有るんですけど、場所が変わったとか」
「ええ、ビルがたってました。その横のバーの奥にありましたよ」
「なら、覚えておかないといけないですね」
「今度から私の名前を言うといいです。少しは安くなると思いますよ?」
「いいんですか?」
「はい」
ちょうど、エンディングが終わり、次回予告をやっているが、玉藻の前がやって来るというところで終わっている。
なるべく会いたくないなと思いながらテレビを消し、天つゆを作ろうと席を立つ。
栞に大根おろしを作ってもらい、天つゆを鍋に入れておき、抹茶塩と、桜塩を出して小皿に入れる。
そろそろ本格的に動かないといけないなぁと思いながら、酒の用意をしていると、今日もダメですと取り上げられてしまう。
「栞殿、我らでいただくので少し徳利に入れて……」と漆が言うも、「みなさんもダメです!冬弥様のお力が戻られましたら存分に召し上がって下さいな!」と言われおずおずと影の中に戻ってしまう。
久しぶりの天ぷらにみんなが喜んで食べているが、酒がないのでちょっと不満だ。
ちらちらと栞を見るものの、酒はくれそうにない。自分の家なのだから好きにしたらいいのだが、怒らせると怖そうなので、素直に従っておく。
食事を終えて各自食器を洗い終わったところで、早々に自室へと戻ると、栞がお盆におつまみと酒を乗せてやってきた。
「少しだけですよ?」
そう言い囲炉裏の前に置かれた徳利は3合は入るもので、摘みは焼き揚げに大根おろしがかかっているものと、ししとう焼きだった。
ししとうには鰹節がかけられ、横におろし生姜が乗せてある。醤油をかけ生姜醤油で食べるのだが、いきなり3合の徳利には驚かされた。
「栞さんも飲まれますか?」
「漆様と琥珀様の分もありますから、分けて飲んでください」
「じゃあ、遠慮なく」
言うが早いか早速漆が出てきて御猪口を持っている。
「琥珀はどうしました?」
「昼に少し力を使ったのでな……もう寝ておるわ」
「何にです?」
「あの子供に決まっておるだろう!あまりにも力の制御ができておらんから、社の結界の強化をしておった。橙狐が見に行ったが、何度か結界は緩むだろう」
「漆は?」
「昼は手伝ったが、琥珀は雌だ。儂よりも頑丈にはできておらん」
「そうですか……。そうすると守られているとはいえ、紫狐が当てられてないのが気になりますよねぇ」
「最初から一緒におったから、波長が合うのだろう?」
「栞さんの狐も平気そうですけど」
「はい、仲良くやっているようで、今はなんの影響も。それに夜になると雪翔君と寝ると言って出ていくんです」
「懐きましたねぇ」
笑い事ではないと言われてしまったが、影響を受けるものと受けないものの差がはっきり分かれているのもわかり易くていい。
「明日から本格的に動きます。ここを入れて四社、全ての社に行かなくてはいけません」
「何をされるんですか?」
「神酒を置きに行くだけですよ。簡単に言えばですけど」
「普通に飛ぶ分には何もしなくて良かったと思いましたけど?」
「雑魚退治をお願いに行くんですよ。地域の社の結束が固いことに越したことはありませんから、小さな社まで回るんです。あの三社が付いていれば大丈夫なんですけど、また狙われる社があっても困りますからねぇ。全て東西南北の社についてもらおうと思ってます」
ピンポーンと玄関のチャイムがなり、誰だろうと玄関を開けに行こうとしたら栞が出てくれた。
「冬弥様、隆弘さんです」
「どうしました?」と玄関まで行くと、「冷蔵庫にジュース取りに行こうとしたら、洗面所で雪翔が倒れてたんだ、冬弥さん今日飲んでないから車出してもらおうと思って」
「すぐ行きます」
飲む前でよかったが、ちょっと後ろ髪を引かれる。
「後でまた温めますから。私も行きましょうか?」
「お願いします」
洗面所にはみんなが集まっており、おでこに手を当てるとかなりの高熱だとわかる。
「みなさん部屋に戻ってください。インフルエンザだったら移りますので……」
板の間に貼ってある連絡先を見ながら、休日診療所に電話をかけ、引き出しから保険証をもって車へと運ぶ。
手伝ってくれた隆弘に、連絡すると言い車を発進させる。
「ただの疲れならいいんですけどねぇ」
「毎日の階段の訓練の疲れでしょうか」
心配なのか狐達も顔を出しているが、全員戻りなさいと自分たちの影に戻ってもらう。
「冬弥様、私もですか?」
「紫狐もです。病院の機械は苦手でしょう?」
「はい……」
しゅんとしているが、紫狐のせいではないと言い、15分かけて診療所へとつく。
「電話した早乙女ですが」
「はい、まず熱を計ってくださいね。後、お父さん……にしては若いですよね?」
「下宿屋の主です。この子は下宿人でして」
「そうですか。問診票に記入してください。ご家族と連絡は取れますか?」
「取れますが、私が代理人をしてまして、このこの両親は県外にいますのですぐに来れないんです」
話してる間に栞が記入し、熱は39.8とかなり高かった。
診察でインフルエンザの検査をしたが陰性で、一緒に持ってきたお薬手帳を見せると、薬に対するアレルギーがあるので、あまり強い薬が使えないと言う。
「今なら、この近くだと総合医療センターが夜間で取り扱ってますので、紹介状を書きます。意識反応も薄いので急いだ方がいいと思います」
「お願いします」
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