第40話

「紫狐?」


「あ、毎日じゃないです。出てきてもらって話し相手になってもらってるだけなので怒らないであげてください。それで、しーちゃんと蛍ちゃんが書いた絵なんですけど、梯子までとは行かないんですけど、横に壁があれば邪魔されないかもねって話しになって」


「壁ですか?」


「しーちゃんの話だと、悪いものが冬弥さんの邪魔をして階段を上らせないようにしてくるって言うから、それで壁の話が出たんですけど」


「それなら横からの邪魔は入らないですね。ですが上はどうするんですか?」


「私が飛ぶ方にこられると、困るんですよ。一番に飛ばないといけないこともありますし、踏み台にされるのはごめんですし。それを皆さんで止めて貰う計画なんですが」


「それで僕たちが考えたのが、トンネルにしたらどうなのかなって」


「それはダメでしょう。上に行くのにトンネルだと飛べません」


「だって。しーちゃんから話す?」


「はい。昨日確認したのですが、蛍さんの術は収縮します。なのでと、とら?なんとかのように階段を作り、跳ねるようにしてジャンプ力をあげると言う作戦なんですが」


「その『とら』なんとかがとても気になるのですけど?」


「トランポリンです」


「あぁ。ですがあまり跳ねても困りますし……敵が来ても攻撃できないと困りますからねぇ。とりあえず一回小さいのでいいので作ってください」


 その後にみんなで片付けをしてから、雪翔以外姿を消して社へと向かう。


 蛍と紫狐で小さい階段になる元を作って貰い上に乗ると、程よい弾力だったので、横に壁をつけたものにしてくれるように頼み、改めて社を見上げる。


 祭りに向けての準備が始まり少しずつではあるが社にも良い気が集まりだしてきている。


「何故普段でも鳥居の上には乗れないようになっているんでしょうかねぇ?」


「それは私にもわかりません。社の屋根には乗れるのですけど」


「それなんですよねぇ。それにしても、数日でまた高くなったような気がします」


「私はこれより高いものは見たことがありません」


「ですが、飛んできたでしょう?」


「狐によって違うのでしょうか?七尾なのに力も少ない気がしてなりません」


「性格もあるのかもしれませんよ?冬の爺さんはどちらかと言うと治癒の方が得意でしたし、那智は攻撃系ですけど、秋彪はああ見えて器用でしてね、俊敏さと攻撃、多少の治癒もできますからねぇ」


「すごいですね」


「なので秋彪の兄の能力がどれほどの物なのか気にはなりますが……」


「それでも、冬弥様は何でもお出来になるでしょう?」


「無難なだけです。それなりに長くいますから知識だけはあるつもりですが」


「雪翔君なんですけど」


「雪翔がなにか?」


「今は狐だけでしていましたけど、彼だけでもできるのではないかと思いまして」


 狐と遊んでいる雪翔を見るととてもそうは見えないが、栞の言っていることはわかっている。

 彼はとても人とは思えない力を持っている可能性が高い。それに、だんだんと悪いモノを自分で弾いて行っている。

 短期間でここまでなることはまずない。


「雪翔、ちょっと自分なりにでいいのでさっきの階段のもとになるものを作ってみてくれませんか?」


「僕まだ……」


「大丈夫です。強くイメージしてください」


 目を瞑り集中しているだけのようだが、思っていた通りに、大きな階段が上の方まで延びていく。


「見てください」


「え?これ……」


「雪翔の作った階段です。力を抜いてみてください」


「はい」


 ふぅと息を吐き出したとたん階段はなくなり今までと変わらない風景が見える。


「これでわかりました。雪翔が狙われたら終わりですね……維持ができない。イメージを強く持っていてもらわないと階段が崩れてしまいます。紫狐、蛍、雪翔を誰かが庇いながら、雪翔達には集中しておいてもらわないといけないと言うことです」


「登った階段から消していけば力を使うのにも無理がなくていいのではないでしょうか」


「ええ。なので毎日ここでイメージトレーニングをしてくださいね」


「わかりました。今日はお昼から宮司さんに呼ばれてるんですけど」


「行ってきてください」


 お昼を済ませてから雪翔は宮司の所へと手伝いに行き、栞と二人になったところで今日の用事を済ませてしまおうと言うことになった。


 まずは海都の部屋。


 せっかく片付けをしたのに本が散らばっているので隅にまとめ、布団の毛布とシーツを全部剥がす。


 二つある洗濯機に、毛布とシーツを分けて入れて洗い、その濁った水を見て栞が「良くこんな布団で寝てましたね……等と肩を落としている」


「あの子は運動部ですからねぇ。汚れるのは仕方ないとしても、こまめに洗濯しないんですよ」


「朝から洗えたら良かったんですけど」


「天気もいいので日暮れまで外に干して、夜は廊下に干し直しますから。明日は布団を干します」


「あの本は片付けなくていいんですか?」


「部屋の掃除は自分でと決まりがありますからねぇ」


「他の方のは?」


「みんな出してくれるんで、その時に洗いますよ?服などは自分でしてもらいますけど、部屋に入っても、シーツを置いてくるだけなので、誰も文句は言わないですが、海都はまだ慣れないみたいですねぇ」


「あの、冬弥様はご自分で?」


「毎日陽に当ててますよ?折りたたみの布団干しが家にあるので、縁側で朝起きたら干すのが日課ですね」


「私の方が雑なのかも知れませんね」


「週一回洗ってる方はいないと聞きます。なので気にする事はないと思いますが」


「ええ……」


 シーツを干しながら、せめて薄いものは乾いて欲しいなと思い、日の当たりやすいところへと干す。


「竿4本で足りないんじゃないですか?」


「だから大物は交代で洗うんですよ。南向きなので、みんな布団を干してくれると楽なんですけどねぇ」


「下宿とはここまでするものなのでしょうか?」


「しません。もう、趣味です」


「私もお手伝いしますので……」


「できる範囲でお願いしますね」


「さてと、今宵の夕餉は何にしましょうかねぇ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る