第9話

「誰も来ていないか……今日は本当に疲れたねぇ」


 草履なので、砂利道でもそれ程音はならないと思っていたのだが、玄関先に一人誰かが座っている。それも、下宿では無く自宅の方の玄関にだ。


「誰ですか?」


「あの……」


 あげた顔を見ると、雪翔だった。家から距離があるのに裸足のままで、それも寝間着姿だ。


「兎に角入りなさい……こんな夜中にどうしたんです?喧嘩でもしたんですか?」


「違うんです。気づいたらここに……夢でおじいさんがここに来なさいって道案内してくれる夢を見て、気づいたら……」


 爺さんの仕業かと思い、囲炉裏に火をかけてから毛布で雪翔を包む。

 お湯を沸かしお茶を入れて、熱いから気をつけてと渡して座布団に座る。


「この家はこの囲炉裏しかなくて済まないね」


「いえ……あの、聞いてもいいですか?」


「なんだい?」


「この前も思ったんですけど、母は気付いてないみたいで聞けなくて。その……耳と尻尾が……」


 見えるのか!と立ち上がりそうになったが、イタコの血を引いているのだからその遺伝子が受け継がれているのだったと思い、どこまで話すか悩む。


「君には私がどのように見えるのか聞いてもいいいですか?」


「耳と尻尾は白色?銀色にも見えて、周りに小さな狐が今5?6位。でも、僕の方をすごく見ていて怖いんですけど……後、その狐達、半纏みたいなのを色違いで着ています」


「ほう……怖くはないですか?」


「怖くはないですけど、ポカポカする様な暖かい感じがします」


「私の周りの色が見えます?」


「え?何も」


 それじゃぁと、少しだけ妖気を出す。


「今……やっぱり銀色っぽいのが周りに見えます」


「あと一つ。君を連れてきたお爺さんは何か言っていませんでしたか?」


「この家の人を助けてあげてって。でも、大家さんですよね?」


 あのじじいと一瞬思ったが、こちらから何かをするでもなくこうなった事は有難い。


「私が人でないのはわかりますね?」


「はい」


「この下宿と家は、神社の敷地内にある。と言っても外れのほうですけど」


「はい」


「そして私は、その神社の狐だという事も理解して貰いたいんです」


「はい、他の方はみんな知ってるんですか?」


「知らないですよ?見えているのは君だけです」


「僕はどうしたら……」


「夢に出てきたお爺さんは私の知り合いです。そのおじいさんが言ったように、私を助けて欲しいんですけど……。まずは、引越しが終わってからですかねぇ」


「何をするんですか?」


「君には二月の終わりまで私のする事を手伝ってもらいたいんです。その間に何をするのかも話しますよ。

 今日はもう遅いから、狐に送らせましょう。腕のいいのがいてね」


 一匹出すとタクシーの運転手のような格好をして出てくる。

 運転となると張り切るのはいいのだが、元は狐だから顔まで完全になりきれていないのが残念なところではある。


「え?タクシー?」


「車があるからねぇ。私よりも上手いから安心していいし、護ってくれる。お前達もこれからはこの雪翔が相棒だと思って仕えなさい」


「御意」と狐たちが言うと、雪翔様こちらですと手を引いて車へと連れていく。

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