第6話

 次の日は朝の9時から業者が来たので、二時間もかからずに荷物はトラックの中へ。

 母親と挨拶に来て、親の運転する車を見送ってから中に入る。


「さて、買出しにでも行かないと……」


 支度をしていると影の1匹が出てきたので、どうしたのかと問うと小狐の姿になる。


 影も出て来る時はやはり狐の姿で出てくる。

 人のいない山里ならば、出して世話をさせるのだが、見られても困るので自分の影に隠しているだけだ。


「なんだい?」


「冬弥様、神社に何かおります。我々が影の間はそこまでしか分からないので……」


「ありがとう、見てくるよ。後でみんなで台所の稲荷を食べるといいよ」


 そう言い、姿を消し神社へと向かう。


 社務所に若い夫婦がお守りを買いに来ているのが見え、宮司にもその家族にも目には見えないが、守の札は貼ってあるので問題は無い。


 木の影から周りをよく見ると、参拝している老夫婦に見えるものが狐だとわかる。


 しばらく様子を見ていると、参拝の振りをしながら何かを探しているような、誰かを待っているような動きをしている。


 うまく隠してはいるが、こちらから見れば耳としっぽが丸見えだ。

 そっと、背後に周り首根っこをつかむ。


「何をしてるんですか?ここは私の神社なんですけどねぇ?」


「離せ、我々は那智様の使いである!」


「あぁ、私が見えるようにしてもらってるんですねぇ。生意気なところがそっくりですねぇ?那智に!」


 少し怒りながら言うと、「伝言を預かって参りました」と、もう1匹の狐の方が分を弁えて居たので、仕方なく離す。

 最初の1匹はまだ文句を言っているが、影程度どうとでもなる。

 力の強い狐の眷属になればなるほど強いが、この四社の中では私が一番年上となり力も強い。


「して、伝言とは?」


「秋彪様の影2匹、冬の社にて応戦するも深手をおったため、我等那智の影2匹が変わりに行くこととなりました」


「私の影からは報告はなかったんですけど……」


「悪狐の襲撃に応戦したものの、怪我はなく、報告に散ったものと、介抱に1匹。すぐに連絡は来るかと思います」


「ふぅん。分かったと那智に伝えておいてくれますか?詳しい事は今宵そちらに聞きに行きますから、美味しい酒を頼みます」


 そう言ってから、神社を出て通りを進み、人影のないところで姿を現す。


 買い物に八百屋・魚屋・肉屋と周り、日用品も買い足して帰ろうとした時に、コン!と後から声がした。


「風邪かい?何ならまとめて持って行ってあげるけど」


 勘のいい人なのだろう。

 狐の声を私の咳だと勘違いしたようなので、夕方にお願いしますと言い、お金を払って配達を頼む。


 持ち物もなくなったので、そのまま自宅に帰り、全ての狐を出す。


「お前達、感のいい者もいるんだから気をつけなさい」


「すいません。我等3匹、一旦爺様のところから戻りました。交代を……」


「何があったんですか?」


「悪孤が来たのです。それを秋彪様の影が最初に応戦したのですが、数が多く、我らも戦ったのですが、那智様の影は手を抜いていたように見えました……問い詰めようとも思ったのですが、それも叶わず、悪孤は倒して跡形もなくなったのですが、秋彪様の影の手当と、報告を優先したので遅くなりました」


「そうでしたか……影は運んだんですか?」


「既に」


「御苦労様でしたねぇ。今日はみんなが帰るまでここでゆっくりするといいです。神酒も揚げもありますからね。私は昼から野暮用だから、下宿には来ちゃぁ行けませんよ?」


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