第4話

 こそこそとしてはいるが、こちらからは良く見えている。

 社の裏手を彷徨くモノ。

 珠を探しているのか、落ち着きが無い。


「何をしてるんです?」


 後ろからいきなり声をかけると、ただの悪孤ではあったが、どう見ても使い魔にしか見えない。


「主人はどこぞ?」

「珠はどこだ……」


「さてねぇ?兎に角捕まっておいてもらうよ?私は殺生は嫌いでしてねぇ。それにここを汚したくもないんです」


 そう言って動けないように術をかけて縛り上げ、木の上に吊るす。


 自分の影ならば、妖力で従えるため必ず取り返しに来るはずだ。


 しばらく待ちながらも何も現れないので、そのまま放置し、社の中で寛ぐ。


「全く……見た目は小さい神社だが、妖気でどのような狐が守っておるかぐらいは分かるであろうに……」


 ふと、風を感じたと思ったら隣町の神社の狐がやって来た。


「珍しいですねぇ」


「悪孤は来たか?」


「今吊るしてあります。見ます?」


「吊るしても目を離せばすぐに逃げられる。臭いを追いかけてきてここに着いたんだ」


「ほら、あそこ……見える所に吊るしてあるから、君もどうですか?」と酒を勧める。


「冬弥さん、ここは春の神社だ。俺の所は秋。冬の爺様は……」


「知ってます。私が最後まで看とりましたから」


「悪孤や野孤が集団で珠を狙ってきてるのは知ってるのか?」


「知りません」


「この辺りの小さいところはみんなやられてしまったぞ?それを知らんとは……全く。のんびりし過ぎ」


「夏はどうなってます?」


「結界で強化しているらしい。罠もかけてるから近付いたらこっちがやられるよ。それになんだか様子もおかしいんだ」


「結界とは那智 なちらしいですねぇ。そうだ、那智の名前知ってました?」


「何?」


夏智 なちです。何故か春夏秋冬が揃ったら嫌だと抜かして変えたんですよ。本来の名は夏智だから、字を変えても無駄なのにねぇ。それに、何者かが珠を狙ってるってのは噂だけじゃなかったんですねぇ?」


「最初は那智さんも色々と探っていたみたいだけど、あまり情報がなくて一度やめたらしいんだ。爺様の珠が無くなってたから、取られたんじゃないかと思ってさ……」


「私が預かりましたよ。次のものに継がせろと頼まれました。いつ降りてくるのかはわかりませんけど……爺さんはそれなりに強かったですが、妖気が少なかったから体内に隠してなかったんです。ただ、千年以上分の力がこの珠にはちゃんと宿ってる。爺さんのその前の代の分もありますからねぇ。秋彪 あきとら、お前はまだ小さい。余り首を突っ込まないほうが良いと思うんですけど……」


「小さいって言うなよ……もう半分には達した!」


「そうでした。あの神社、今私が三匹に守らせてますが、手を貸して貰えます?」


「勿論だ!アソコは尾の部分だから……」


「今、人間達が取り壊そうとしてます。古墳があるからまずそのままにしておくと思うんですけど。念のために聞きますけど、余り体から影を離しすぎるのも良くないのは知ってますよね?」


「今、何日だ?」


「まだ半日ほどだから、私は半月は大丈夫ですけど……秋彪は2匹ほど守りに出してくれます?」


「2匹か……交代で出せば大丈夫かな?影も俺より小さい……くそっ!小さいって言っちゃったじゃないか!」


「頼りにしてるんですよ?私も半月で交代させるから、那智にもその事を伝えておいて下さい」


「分かったよ」


「後、落ち着くまで社は離れない方がいいと思いますよ?__っと、お客さんです」と吊るしてある木の方を見る。


「ちょっと此処で待ってて下さい」


 木の上に立ち、袖に手を通したまま相手を観察する。


「悪孤じゃぁないようですねぇ?野良ですか?」


「……」


「最近の神社の狐狩はあなたの仕業ですか?」


「……だったらどうする?」


「ここいらの神社は渡さないからってあなたの雇い主にでも伝えておいて下さい」


 そう言って、野孤が影を連れていくのを見てから、秋彪の方へと戻る。


「なんで倒さなかったんだよ!」


「一匹つけました。ある程度までは追ってくれると思います。那智にも伝えておいてください」


「もう、いつも飄々として何考えてるか全然わかんねぇ。一応伝えておく」


「お願いします」


「那智の所に行ってから俺も戻る。何かあったら教えてくれ」


 そう言って帰って行くのを見て、勝手な行動をしないといいのだがと思いながらも、そろそろ配達が来ると思い下宿に戻ることにした。

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