第32話 秋のスピネル

 そうだったのか。忠興は二十年以上前のルインの予言を思い出した。当たったじゃないか。あれは駈け出しの山師として派遣された東南アジアで、壁面の鉱床からたまたま見つけた石だった。褒美としてもらった二つの石を土産として持ち帰り、砂織は青い石を選んだ。赤い石は後に佐和へのリングに加工した。その後それがどうなったか知らなかったが、由良の手に渡っていたとはな。坂東さん、上手く言ったもんだよ。結果として赤いイトならぬ赤いイシになったんだから。

 どちらもスピネルだ。混ざりものが違うだけでこんなに違う色に輝く。昔、遠くの国で両手で掴んだ二つの石が、回り回って再び揃ったんだ。ルインが言った通りに。

 それが妻と娘の胸に輝くようになろうとはな。本当に不思議なものだ。忠興の思いは口を突いて出た。


「流石は宝石神社の宮司だよな」

「みんな見通してたってこと?」

「さあどうだろ。若干暴走されたんじゃない?でもな」

 忠興は由良の首にペンダントをそっと戻した。

「あの人、いい山師になれるんだけどなあ、惜しいなあ」



 その頃の宝石神社。

「ふえっくしょい!!」

「あらー、坂東さん、風邪ですか?」

 沙良が笑った。

「ううむ、この頃、身体も石も言う事聞かんでなあ・・・」

「ふふ。そんなんじゃ栞ちゃんが来たら踏んづけられちゃいますよ」

「ああ、ま、栞ちゃんになら踏んづけられてもいいか・・・」


 坂東さん、栞ちゃんのことを孫娘と思ってる。沙良は知っていた。坂東の引き出しには、砂織の青い石に代わって、いつかの七夕に栞が書いた短冊が大切に納められていることを。


 季節は秋に移ろっている。


 宝石神社の紙垂しでを一陣の風が揺らしていった。その風は左門のマンションのベランダで、丁度洗濯物を取り込んでいた栞の髪を揺らし、そして駅で電車を待つ由良のスカートを揺らした。


「みんな、見えないもので繋がってるんだよ・・・」

 

 坂東は神官装束のえりき合わせながら独り言ちた。


                            【おわり】

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