第17話 石の意味
月曜日、栞は大学の帰り道、またあの河川敷公園にやって来た。昨夜は一晩中、どうやって石を探すか考えたが妙案が浮かばなかった。やはり地道に、区画を切って探すしかないか。周囲は既に薄暗く、昨晩降った雨にまだ川原は濡れたままだ。草むらから探し始めた栞のスニーカーも足首も濡れていた。
探し始めて2時間、空には月が上がっていた。スマホの明かりに月が加勢してくれているようだ。しかし足元はスマホライトでないと見分けられない。区画に切って歩いてるつもりだが、目印はないので正確ではない。腰、痛っ。
栞は背伸びした。月の光に川の水面もキラキラしている。ん? 栞はスマホライトを消した。これがあるから余計に見えないのでは? そのまま栞は腰を落とし川原を見渡してみた。うん、きっとあの石は月明かりに応えてくれる。
そーっと目線を回しながら静かに進む。すると川原と草むらの間で何かが光った。栞には見えた。もう一度目の高さを合わせる。
あった!きっとあれだ!
月の光に淡いブルーが一点反射している。栞は見失わないようゆっくり近づく。
川原の石の間にそれはあった。ブルーレースアゲート。ラベンダー色のメノウ。割れないで丸いままだ。栞はそっと指でつまんで掌に載せた。
ごめんね、
栞の目から涙が
その夜、髪をバサバサにして栞は家に戻った。
「お帰り、栞、大丈夫か?心配したよ、LINEもスルーだし」
「パパ・・・」
栞の目が左門を見上げた。
「みつけた」
「え?みつけた?石?」
「うん」
栞はスニーカーを脱ぎ捨て、ティッシュに包んだラベンダー色のまあるい石を左門に見せた。
「そうか。これだ。有難う。済まなかった。本当に済まなかった・・・」
左門は栞の肩を抱き寄せた。
「ううん、もういい。見つかったから。これでパパも安心」
栞が風呂から出てくると、食卓には左門が用意した夕食が並んでいた。その脇にはハンカチの上にあのブルーレースアゲートが鎮座していた。
夕食の後、栞は話し出した。
「由良さんって悪い人じゃない。それは解る。多分本当にパパの事が好き。でもね、あたしのお母さんと同じ匂いがするの」
「匂い?」
「うん。はっきりは解らない。でも同じ宝石を由良さんも付けてるの。あたし、小さい頃からその宝石が嫌だった。なんでかは解らない。でもお前はあっち行けって言ってるの、石が」
「そんな風に感じたんだ」
「うん。だからこの石をパパのサドルバックにこっそりつけたの。こんな話まともに聞いてもらえると思わなかったし、意識されても困るし、あたしの頭が変って思われたくもなかったし。この石はね、由良さんやお母さんの嵌めてる石の力を受け流すんだって。無力化するっていうのかな。あたし、調べたんだ」
「そうか。それでパパを守ってくれようとしたんだ」
「判んない。でもあの石の力は嫌だったから・・・」
「オーケイ、今度は由良さんには見つからないよう持っておくよ」
「うん。ごめんね、取り乱して」
「いや俺こそ。最初に栞に聞けばよかったんだ」
「でもそれじゃ信じてもらえなかったでしょ」
「んー、まあそうかもな。1gでも軽い方がいいのがローディだから、やっぱりポイってしたかもな」
「きっと仕組まれてたんだよ、こうなるようにって」
「うん。そう思っておこう」
この1件以来、左門は由良と距離を置くようになった。ショップのツーリングにも滅多に参加せず、もっぱら栞と走った。
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