第11話 お弁当大作戦

 あたしだって作れるんだ。栞は決心した。明日からパパもお弁当派にする。毎日あたしの分だけ作ってくれていたけど、そうそう甘えられない。由良さんを超えなきゃ。だからキャラ弁だ。家の財布も任されるようになった栞は、クックパッドをリサーチする。山ほどレシピが出てくる。由良さんに作れない奴、キティちゃん。かっわいいー。いやいや待て栞。パパは確か課長とか言ってた。大人の男性がキティちゃん弁当って、出せないだろ。


 じゃ、男子高校生向けキャラ弁・・・っと。おお、くまモン。これならいいんじゃない?熊本出身でもないけど、ひいお爺ちゃんが熊本ゆかりで・・・とか誤魔化せる。よし。


 キッチンを探すと栞用以外にも弁当箱が見つかった。佳那さんの趣味だったのかな?柔らかいレモンイエローの2段重ね。悪くない。ってか大好きこの色。あたし佳那さんと似てるかも。ごちゃごちゃ考えながら弁当箱を洗う。そして材料買わなくちゃ。焼き海苔は必須だ。目とか口の周りの白いのは、うん?チーズか。ほお、じゃほっぺの赤いのは・・・カニカマなのか。へえ。1段目はおかずだから、卵焼きとかタコさんウィンナーとか、いざとなれば弁当用冷凍食品で何とかなる。よし、栞はスーパーまで往復し夕食の食材とともに材料を揃えた。


その日の夕食時、栞は宣言した。


「パパ、明日から栞がお弁当作るよ」

「え?栞が?」

「うん。パパの分も一緒に作るから」

「え?パパのも?」

「うん。だからお覚悟召されよ」

「ああ・・・、ありがと」


 翌朝、宣言通りに栞は早起きし、お弁当を二人分仕上げた。おソロのくまモンだ。我ながら上出来である。


「パパ、お弁当箱、これ見つけたから使っちゃったけどいい?」

「おお、懐かしい。新婚時代に持ってた奴だ」

「ふふん」

「何だか得意げだな」

「うん。我ながらよくやった」

「はは。期待しとくよ。有難う」


 その夜、帰って来た左門は笑顔だった。


「栞、サイコーだった。くまモン」

「でしょでしょでしょ」

「明日から三人前頼むわ」

「へ?」

「冗談だよ。でもそれ位ウケた」

「えへん」

「ひょっとしたら会社にキャラ弁ブーム到来かも」

「へっへー、明日はね・・・ おっとヒミツ」

「はは、本当にありがと」

「パパ。あたし、由良さん超えた?」

「由良さんって山室さん?」

「うん」

「そりゃ較べられないなあ」

「なんでよ」

「何て言うのかな、大人と子ども?」

「あたし、子どもじゃないじゃん」

「いや子どもだけどさ、山室さんはウィンナー、タコにしないよなあ」

「どっちがいいの?タコとnotタコ」

「ん、まあ、タコ・・・かな」

「でしょ!勝った」

「まあいいや、とにかく有難う」


 ようし、大成功だ。こうして栞のお弁当大作戦が始まった。


◆エピソード1

 

 栞は総合スーパーを歩いていた。キャラクタショップにはムーミングッズが溢れている。ムーミンか。でもムーミン食べるって抵抗がある。

 そうか、ニョロニョロならいいか、いっぱいいるし。翌日はニョロニョロ弁当に決まった。

 ニョロニョロの身体は白いウィンナーにした。厳密には若干褐色だが日に焼けした事にしよう。北欧生まれだからお肌が敏感なんだ。しかし白いウィンナーってそのままだとナマコみたいで気持ち悪いなあ。


 帰宅後、左門は言った。

「可愛いけど可哀想で食えねえよー。目で訴えてくるんだ」

「でも食べたんでしょ」

「まあな」



◆エピソード2


 キャラクタと言えばアニメキャラクタだ。でもあたしの好きなセーラームーンは難しすぎる。プリキュアやラブライブを食べるってのもどうかと思う。そうだ、マドマギのキュウべえならいいか。ちょっとウーパルーパーっぽいけど、確かウーパルーパーって食用にもなるって聞いた。

 キュウべえの顔はおにぎりでいいや。栞は耳を餃子の皮とニンジンで作り、耳から生えてる羽も餃子の皮をなびかせ、羽にはまってるリングはレモンを輪にして嵌めた。


 帰宅後、左門は言った。

「あれ何? みんな知らないんだ」

「えー、苦労したのに。マドマギだよ」

「は?ドギマギ?マドギワ?」

「何言ってるの」



◆エピソード3


 今日は普通のお弁当にしよう。こう毎日じゃ考えるの面倒だ。でもパパこの頃「しんどい」を連発してるし、メッセージ位つけてあげよう。

えーっと 『し ん ど い の は き の せ い』  これでいいや。

パパ!お弁当置いとくよ。


 帰宅後、左門は言った。

「何だよあれ」

「大阪マラソンの中継見てたら沿道のおばさんが掲げてたの。いい言葉だなあって思った」

「まあな、いい言葉なんだけどさ、チョコでご飯に描くのはやめてくれ。せめてケチャップにして」

「ほう・・・」



◆エピソード4


 うーん、サラダ入れる時間がない。でも野菜は大切だ。しゃあない、2段目に野菜生活1本!


 帰宅後、左門は言った。

「手下に1本取られたよ。丁度飲みたかったんですぅとか言って」

「あら。じゃ、1段目にも入れようか?」

「それじゃもはや弁当じゃねえ」



◆エピソード5


 栞はテレビのニュースで『パンダの赤ちゃん誕生!』を見た。可愛いなあ。明日はこれにしよ。栞はスーパーで材料を探す。和菓子屋さんか。お!色も形もぴったりだ。栞は紅白饅頭でパンダとピンクパンダを作ることにした。耳や目の周りなど黒い所は焼き海苔を貼ればいい。しかし大きいからきっと1段目はこれだけで一杯だ。2段目にはパンダの好物を入れてあげよう。ちょうどほら、竹が売ってるよ。2段目には、竹筒に入った水羊羹みずようかんが入った。ベストマッチング!


 帰宅後、左門は言った。

「シオリさん、あれってご飯?おやつみたいに甘いんですけど」

「だって糖分取って頑張らないとねー」

「勘弁してくれ。午後からずっと胸焼けだよ」

「ふうん、ムネヤケ?何だか判んない」


 翌日、栞は焼いたトリ胸肉を入れた。ムネヤケってこのことかな。



◆がんばるぞ


 栞がスーパーでキョロキョロしてたら声を掛けられた。

「あーら、栞ちゃん、お買物?」

うおっ、宿敵・由良さんだ。しかし栞は顔には出さずサラっと躱す。

「はい、主婦代わりですから」

「へえ、ご出世ねえ」

「あたしがいないとパパがご飯食べられません」

「おやおや。子どもに戻った方がいいと思うけどねえ。ま、精々頑張って」

 由良はつーっと行ってしまった。くそ、何?あの余裕の態度。


 よーし、明日は気合のお弁当だ。


 帰宅後、左門が聞いた。

「俺、今日何かあるって言ったっけ?」

「ん?」

「だって、カツ丼にケチャップで、必勝!気合いだ! って」

「ああー、あれパパじゃなくてあたしの話」



 こうしてキャラ弁の達人になって行く栞であった。

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