双子のようによく似ている
紬木楓奏
双子のようによく似ている
木曜日。一番中途半端な日。外は雨。天気予報はこんな時に当たる。
くたくたのシャツとハーフパンツ、ぼさぼさの髪。書きかけの五線紙。そうだ、昨夜は久しぶりに音楽に触れていたんだ。平凡な日常より鮮やかな、非日常。いつかギターをかき鳴らして歌うんだ、昔の夢が蘇って。
どうせなら、そのまま浸らせてくれればよかったのに。毎日、仕事仕事仕事。それを愚痴る相手はまだ寝ているだろうか。メールしてみようか、電話してみようか。きっと何らかのレスポンスはあるだろうが、無理をさせたくなくて気乗りがしない。大丈夫だよ、なんて言って、本当はまだ眠たいのを、隠してしまうから。
もうすぐ会う。相手……彼女はいつも言う。多少、重たくなるまで言う。大丈夫だよ、愛してるよ、隣にいるよ、御免ね。そんな彼女が、もうすぐ自分と同じ姓を名乗るのかと思うと嬉しいけれど、少し緊張する。抱えきれるか、あの自虐的なまでに重たい彼女を。
彼女は俺の日課を知っている。たとえ起きていても、朝五時前にメールを入れることはしないだろう。少しばかりの常識はもっているはずの人間だ。
段々、闇夜が開いてきた。雲間から僅かばかりの光が差し込む。今日は嫌だ、空が低い。でも仕事にはいかなければいけない。板挟みは実に辛い。
ふと時計を見ると、あと数十秒で五時になる。今日はどんな挨拶をしてくるのか。ローテーションがあるわけではないが――
“おは”
お、今日はフライング気味だ。
おは、の二文字。毎日、連絡を取っているんだ、これがどんな感情を孕んでいるのかは想像がつく。ただでさえ、馬鹿みたいに正直な女だ。今日は、ご機嫌ではないらしい。
“おはよー”
差しさわりのない三文字で切り返す。これで会話が成立するから不思議なものだ。
“調子悪い?”
鋭いな。
“私も頭、痛い笑”
笑えないぞ、頭痛は全てをダメにする。
“少し寝ろ”
これで素直に寝るかは分からないが、的確なアドバイスと会話の路線変更だ。
“君もね”
――してやられた。
“いつも話してるもん、分かるよ”
そうだな。強がりのくせに弱くって。そういうところが双子のようによく似ている。まだ出会って間もないのに、惹かれているのは、そういうといころが分かってしまうからだろう。
“無理しないでね。わたしには、なにしてもいいんだから。少し寝る”
子供か。生きているだけ良しとするか。
愛は永遠に高かもしれないけれど、感情の起伏はどうにもならない。誰だって暗くなる時はある。生きているって、きっとその連続なのだろう。
“おやすみ”
さあ、今日も仕事だ。
大げさに背伸びをして空を見る。曇天変わらず、でも今日を乗り越えたら何かが違うかもしれない。
それも、生きているってことなのかな。
双子のようによく似ている 紬木楓奏 @kotoha_KNBF
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