スプリング・ガール ~走り高跳びの少女~

星浦 翼

第1話 

 夕暮れの近づいた運動場。


 その端で、高校指定のジャージを着た女子生徒が息を整えている。乾いた土を踏みならすと、小さく砂煙があがった。彼女は慣れた感覚に満足して顔をあげる。彼女の見つめる先には、自己ベストを超える高さのバーがセットされている。


 彼女の名前は加奈。加奈は陸上部員で、走り高跳びの選手だ。


 加奈には悩みがあった。


 これまでは何も考えずに跳ぶことができた。バーをまっすぐに見つめて、筋力をつけて、より高さを求めてきた。練習を続けるだけで、結果が後についてきていた。


 しかし、加奈の記録は2年へと進級した時期になって伸び悩み始めた。夏休みも後半に入り、後に東海大会も控えている。気持ちを一新するためにと、新しく買ったスパイクにも慣れておかなければならない。


 校舎の鐘が鳴る。


 下校時間が迫っていた。


 上体を反らすことを考える。自分が跳べるというイメージを持つ。


 加奈は緊張をほぐして走り始めた。


 右、左、右。両足が意思を持っているかのように動く。いまさら距離感に不安を持っている場合ではないのだと、頭の中では分かっている。久しぶりに、切れの良い感覚が体を流れた。最後のステップを超え、加奈は空中へと舞い上がる。視界が空だけに支配される。


 しかし、途中で加奈は気づいてしまう。


 ――無理だ。


 一瞬の金属音と同様に、加奈の体がマットに沈む。


 立ち上がる気にはなれなかった。


 何気なく眺めた空は、紅くて広い。

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