第23話 神菜の誕生日会
「よっ」
「よう」
「じゃあ誕生日会しますか」
「おう……」
大学の授業終わり、待ち合わせ場所として指定された図書館前に俺は来た。
図書館なんて入学して以来ほとんど使ったことはないが、時計台の裏手にあるから迷わず来れた。そもそも今日久々に大学の授業に全部出た。
「いやー、一週間遅れの誕生日会だねー」
「お酒飲む?」
「あぁ」
「俺も飲むぞ!」
「──神菜」
「……何?」
「聞きたいことあるんだが」
「何となく予想はつくけど。どうぞ」
「何でこいつらもいんの!?」
「ひどいなー、神菜ちゃんの誕生日会なんでしょ? 人が多い方が楽しいじゃん」
神菜と共にやって来たのは、かつて池の取り巻きであった人達。小さい女は織部サツキ、クールっぽい女は長峰美来という名前だったはず。後は男二人と──
「なに」
「いや、あ、うん」
卯堂美月を加えた五人だ。こいつだけこれから誕生日会とは思えないほど何故か不機嫌だった。やっぱりまだ引きずってるのか。まぁ、そうだろうな。
「どこで知ったのか、誕生日会に来るって聞かなくて」
「それで押されたというわけか」
「え〜神菜ちゃんったらひどいなー。さっき私一人じゃ緊──」
「えぇ!? なんのことですか織部先輩!?」
神菜は慌てた様子で織部の口を押さえた。
「さ、さぁ! お店に行きましょうか! 人数変更になることお店に伝えないと……!」
あ、店は予約してるのか。てか、人数変更って三倍以上増えてるけど、行けるのか?
距離を離して先導する神菜に置いてかれた俺は一人でそう思いながら黙って付いていった。だって、神菜以外で話せる人いねぇし。かろうじて少しだけ話した女子たちは前行くし、男だけ残されても話すことなんて出来ない。
「人数変更出来たよ」
行けたらしい。
ていうか、予約していた店とは池と二人で飲みに行ったとこじゃねぇか!
怖い目にあっておきながら……あ、眠らされたからよく覚えてないのか。
前回と同じ店員さんに案内された広めの個室。そこで、誕生日会が始まった。
席は俺を気遣ってか、神菜の隣にしてくれたが何故か俺が一番の上座だった。
逃がすつもりはないなこいつ……
後は俺の前にうるさそうな男、その隣に静かな男。そして一番端に長峰。
俺の列は上座から、神菜、織部、卯堂の女子三人。俺の列側を人数多くしやがって、逃亡不可能じゃねぇか。
……まぁ、目の前の男がガタイがいいせいで狭くなるからだろうけどさ。悪かったな、俺がヒョロヒョロで。
ちなみに、いや当然というべきか、テニサーの会話に入れるわけなく、30分くらいはほぼ食い尽くされた皿が上座に回されるのものを処理していただけだった。
俺はコミュ障、いや一対一なら割と話せるが、一対多での会話が無理だ。相手は年上で、俺よりも遥かにリア充という別世界に住んでいるせいもあって、返事も2,3文字しか口に出ない。どうしても敬語で話すことになるから俺と周りに壁が何十枚も立ちはだかっている感覚になる。
唯一の助け舟、主宰で主役の神菜もずっと先輩らと喋ってるし、この場は完全にアウェイ。俺は借りてきた猫のように大人しく、空気にさえならないように過ごすしかなかった。
……帰りたい
「そういえばさ、神菜ちゃんと如月君って幼馴染みなんだよね?」
織部がそう質問した。が、神菜が話すだろうと思い、俺はオレンジジュースを飲んだ。当然、お酒は神菜によって禁止されている。
テニサーの連中はみんな二十歳を超えているから飲んでいるのに。俺は親族の飲み会に無理矢理参加させられた子供か。
まぁ、神菜も前回の反省を活かしてかソフトドリンクしか飲んでいないが、
「二人って付き合ってるの?」
「「ブフッ!!」」
口に含んだオレンジジュースを前の男にぶっかけてしまった。
「あ、す、すいません」
「気にすんな!」
笑顔で許してくれた。聖人か?
「な、ななな何を言ってるんですか!? 織部先輩ったらもう……!」
「ええー違うの? え、え、じゃあヤッた?」
「やっ……してないです!」
なんだこの織部という女は!?
ズカズカとそういうプライバシーのことを聞きやがる!
そんな織部は質問するたびに酒をグイグイ飲んでいく。
「えーじゃあ、キスは?」
「キ、は。え、してないです……」
「ほほぉ」
この女、勘付いてやがるな。
「そんな話、男の人もいるので……」
「気にするな! 織部はそういう人間なのは知っているからな! だから俺たちは気にしないぞ! なぁ如月くん!」
「……そっすね」
「お、やっと喋ったなボッチボーイ」
神菜から聞いたのかそのニックネーム!?
いや、今の俺は事実その状態か。
ボソッと呟いた俺の返事に反応した織部は立ち上がる。
「フッフッフッ、どうやら彗司君は私のことをまだ詳しく知らないみたいだね」
急に俺のこと名前で呼んできた。
「私はね、下ネタ下世話大好きだよ」
「はい?」
「なんならセックス大好きだよ!」
「はい!?」
「ちょ、織部先輩!?」
俺と織部の間にいる神菜がまるで守るようにして立ちはだかる。織部は身長が小さいから神菜が膝立ちすると俺の所からは見えない。
「サツキ、一気に飲むから酔っ払ってきてる」
長峰がそう言った。
「何を言ってるんだー美来。私はシラフでもこの調子なんだから、何も変わってないよ。つまり私は酔っ払ってない!」
「一気飲みでいつも一気に酔うくせに」
「織部先輩、水を」
「いいかい彗司君! 私はね、そういったことのプロなの。抱かれた男は3桁超え! ほらよく言うでしょ、身長低い人は性欲が強いってね!」
自慢するかのように夜を共にした男の数を暴露しやがった。この女相当なビッチじゃねぇか! テニサー怖っ!
「もし、君さえ興味があれば私が今夜相手してあげようか?」
「いや……へぇ!?」
「ちょ、織部先輩!」
赤面の神菜はこの話を止めようとするが、うまくいくことはない。元々そういった話は苦手だったな。
つっても、俺も話相手がいなかったもんだから人前でどう反応していいのか分からねぇ。神菜と同じ色の顔してる気がする。
「冗談だってー。彗司君の相手はもう隣にいるもんねー」
「ちょ……!」
「彗司君ー。君から誘ってあげないとダメだよー。女の子はね、なんだかんだで性欲が溜まってるの。でも自分から決して言えないんだから、男から誘わないとぉ〜」
「は、はぁ」
「サツキ……このぐらいにしないと」
「美来だって溜まってるもんねー」
「なっ……お兄ちゃん私はそんなことないよ!?」
俺の知ってる応対と180度違う長峰は隣のクールな男のことをそう呼んだ。
「え、そこ二人って兄妹だったのか?」
「あれ、知らなかったの? そういや……二人って自己紹介した?」
「してないな!」
ガタイのいい男が元気よく答えた。そして間髪入れずに自己紹介を始めた。
「俺の名前は夏嶋大樹だ! 運動大好きだから今度一緒に何か運動しよう!」
「苦手なんでしないですけど。で、そっちが長峰──」
「秋也お兄ちゃん」
「妹が答えるのかよ」
長峰妹は兄の腕をガッシリと掴む。誰にも取られないように警戒している──俺のことを。
「お兄ちゃんは絶対譲らないから」
「いや取らないし!」
「念のため」
けれど羨ましいくらいだ。俺の妹もこんだけお兄ちゃん想いならよかったのに。
「美来は本当にお兄ちゃん好きでさー。愛妻弁当を作ったり、お風呂にも一緒に入ろうとするし、しまいにはタオルの代わりにパンツを渡すくらい兄好きなんだよ」
「末期のブラコンかよ。てか、これはブラコンなのか?」
「違う。お風呂に一緒に入ろうとしたわけじゃない。お兄ちゃんの残り湯を貰おうとしただけ」
「ヤベーやつじゃん! ラノベの妄想でしか見たことねぇよ!?」
「お兄ちゃん! 私の処女はお兄ちゃんのために取ってるからね!?」
長峰妹はクールそうに見えて、とんでもない性癖を持ち出してきた。俺こんな妹は絶対嫌だ。
「長峰妹は酔ってるのか……?」
「ううん。通常運転。秋也が隣にいるといつもこんな感じだよ」
頭のネジ全部抜けてるじゃねぇか。
てことは、もしかして兄もヤバいのか?
「──え、ごめん聞いてなかった」
「ガーン──じゃあもっと私のこと気付いてもらわないと」
「秋也はね、常にボーッとしてるから、なーんにも気付いてないんだよ」
あれってクールなわけじゃなくて、何も考えてないのかよ。どうりで全く話さないなと思った。
つーか、その性格のせいで妹の性癖拗らせていってるじゃねぇか。
ちなみに、長峰兄妹は一歳違い。兄は浪人した末に妹と同じ大学の同学年になったらしい。いや、妹が大学を揃えてきたのか。
「はっはっはっ! 秋也、ちゃんと妹のことを見てあげないとダメだぞ。俺も妹には昔心配をかけさせたからな。ちゃんとするんだぞ!」
「ああ」
夏嶋にバシバシ背中叩かれているが、それに対しての痛いしつこいの一言もなし。こいつ人形みたいになってるが、生きていけるのか?
あ、妹のおかげで生きていけてるのか。
「いやー、これで彗司君はみんなのこと知れたねー、うぶっ、飲み過ぎた、気持ち悪い」
「だから織部先輩言ってるじゃないですか! お手洗い行きましょう」
そして、神菜は織部をトイレに連れて行く。
なんだこいつら……
この感想しか抱かなかった。
確か、ここは男女トイレが別だったはず。俺は一旦そこへと逃げた。まぁ、トイレにも行きたかったし。
ほんと、そのまま帰ってりゃ平和だったかもしれないな。これから起こることを考えると……
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