第14話 純粋な復讐心
「ふざけるな……ふざけんなよ! どうして俺がてめぇみたいな陰キャに嵌められなきゃいけねぇんだよ! てめぇらもそうだ! 黙って俺にくっ付いて来てたくせに、陰キャの言うこと信じて俺に歯向いやがってよぉ!」
「
「黙れ裏切り者! くそ、こんなはずはないんだ……! 美月ぃ、お前があいつとフレンドになったからこんなことになったんだ!」
一向に自分の非を認めない池。
こいつはネカマとして数々の女を騙してきた。
全部自分の思うように行くと思っていたのか。誰もが自分に従うと思っていたのか。
もう他のメンバーは怒りを通り越して、呆れさえある。
「わたし……私ホントに
「お前が勝手に盛り上がってただけだ」
その言葉を聞いて、何かが吹っ切れた。
いつもは決してすることがないのに、気付いた時には池の顔面に拳を入れていた。
「てめぇ何しやがんだ!」
「勝手に盛り上がって別にいいじゃねぇか。好きってそんなもんだろ! 好きな人のために尽くしたいと思うだろ! そんな好きな人から裏切られるのがどれだけ辛いか……お前には分かんねぇのか!」
頰を殴った右手が痛い。
相手は全然効いてないようだが、言いたいことは言った。
俺だってゲームの中でだが、好きになってしまった人がいた。レアアイテムをプレゼントしたり、戦闘で助けてあげたりもした。
が、相手は男で、俺のあられもない姿を撮られてしまうという裏切りをされてしまった。
そんな経験を卯堂の気持ちと勝手に重ねてしまった。でもこの苦しさがよく分かるんだ。
他のメンバーもさすがに手が出るとこだったみたいだが、俺が出したことによって引っ込める。
「んなもん分かるかよ、分かりたくもねぇよ! 女は俺の言うとおりに動くに決まって──」
その言葉で引っ込めた手をやっぱり出すテニサーのメンバー達。
「脅迫すれば女の子は黙り込むと思ってんの? あまり女をバカにしないでよね!」
「君も一発殴ってやれ」
「え、あ、はい!」
そして、セツナも一発、鼻めがけて殴った。
「んぐっ……⁉︎ く、くそ、覚えてやがれよ……。俺にしたようにお前らにも必ず復讐してやる! お前らくらいなんとでも──」
「お前忘れてんのか? これは全部動画で撮ってるって。生中継中だ、お前の所属するサークルにな」
「……は?」
池は男二人に無理やり連れられて、家を出た。
外には何と多くの大学生が。クール系の男が呼んだようだ。
「みんな部長のために駆けつけたんだ。どんなクズが俺たちの部長だったのかを見にな」
「へー、これが俺たちの部長だったのかぁ」
「ちょっと話を聞いてみたいな、色々と」
「部員一人につき一発、殴ってもいいよな?」
「お前らまで……! クソがぁ!」
こうして集まった部員によって池はボコボコに、そしてどこかに連れて行かれた。
これからどうなるのかは知ったこっちゃない。
「はぁ〜まさか本性があんなにヤバイ奴だったはね〜」
「そうだな」
だが、卯堂の表情が晴れることはなかった。
そして友達を置いて、一人、家から走り去って行った。
「美月……! ごめん、色々伝えるべきことがあるはずだが、それはまた後日で」
「あ、あぁ」
「あ、そうそう! 私たちが
「え、あ、ありがとうございます!」
こうしてクール系の女とちびっ子は美月を追いかけて同じく家から出て行った。
残ったのは家主の俺とセツナだけ。
「これで、復讐完了ですかね……」
「とりあえずは……」
「「はぁぁぁぁ……」」
お互い緊張の糸が切れて、その場にヘタレる。
何とか復讐は成功という形で終わったのだ。
「よかった……です……」
セツナは心の底からの安堵によって、言葉が漏れ出た。
「ありがとな。俺の勝手な復讐に付き合わせて」
「いえ、こちらこそありがとうございました……! それに、しらひめさんがいたからこそ復讐が出来ました」
「でもなぁ、俺一人じゃ結局は無理だったんだよ」
セツナも、卯堂もテニスサークルの人も。
そしてこちらからは何も伝えず、むしろ被害者になりかけた神菜も、これら皆の協力がなければここまで上手くはいかなかった。
「セツナと神菜を危ない目に合わせてしまった。人を殴ったことなんかないからさ。全然あいつ効いてなかった。改めて自分は弱いと分かったよ」
まだ、殴り慣れない拳が痛い。
「俺には何の力もなかった。勝手に復讐することに盛り上がってただけ。結局俺はか弱い女の子を助けてイキがりたいヒーロー気取りなんだよ──」
「それは違います!」
セツナの声に振り向くと、彼女は前のめりの姿勢でこちらに訴え出た。
「しらひめさんはヒーロー気取りなんかではありません。本物のヒーローです──しらひめさんは以前聞きましたよね。どうしてネカマに騙されたのにまたネット世界に来たのか」
「あ、あぁ……」
「それは寂しかったんです。誰にも相談出来なくて、ずっと独りだったから、誰かに頼りたくてまたあの世界に入ったんです。仲間が欲しかった。今度は騙されないように私から話しかけました。またネカマだったんですけどね」
セツナは少し微笑んだ。
「けど、私の選択は正しかった。私を救ってくれるヒーローに出会えたから……」
「……でもさ、終わってから気付いたよ。俺なんかよりセツナの方がずっとヒーローだった。俺の方こそ感謝を──」
「俺の方こそが論、は飽きましたよ……!」
ついさっき居酒屋で言ったことをそのまま返されてしまった。
「彗司さんが何と言おうと関係ありません。私のヒーローには変わりないですから……」
セツナは涙を瞳に浮かべ、笑っていた。
初めて会った時の涙とは違う。彼女はよく笑顔を浮かべるようになった。
「──あ、すみません! 勝手に下の名前で呼んでしまって……」
「い、いいいや別にい、いいよ……。下の名前で」
「じゃあ私のことは弥生……で……」
「え、あ、そうなるのかな、うん。……や、弥生」
セツナ改め弥生は照れながらも、嬉しそうな顔を浮かべた。
やはり、池の野郎に弥生ちゃんと言われていたから上書きしたかったのだろうか。
これからはゲーム名ではなく、実名で呼ぶことになった。
「えーと、そうだ! も、もう解散するか。今ならまだ終電間に合うと思うし!」
「今日は帰らないともう言ってるので……」
「え、ああ、うん。そうだったな……」
えっと、マジか。
泊まるのはこれで二回目。でも、今までと違って復讐を共にしようという同士ではない。
何だかちょっと気恥ずかしいというか……。
「彗司さん」
「はい⁉︎」
声が驚きで裏返ってしまった。
「今日で終わり、ではなく、これからも泊まりに来ていいですか……?」
「え、あ、うん……。セツ──弥生がいいならだけど……」
「これからも彗司さんはネカマに復讐するんですよね」
「まぁ、そうだな」
「私もお手伝いさせてください。これからも彗司さんの
俺はこれから一人で復讐を続けていくかと思っていた。
けど、どうやら俺にはこんなにも頼りがいのある相棒が出来たようだ。素直に、心から嬉しかった。
弥生には純粋な復讐心がある。真っ直ぐな目でこちらを見つめていた。
断るわけにはいかない。
まず、純粋な復讐心って何だろ。
「分かった。セツナ、じゃなかった弥生。これからも一緒に、ネカマ共に復讐しよう……!」
「はい……!」
俺たちは強い握手を交わした。
この世に蔓延る悪のネカマ共を駆逐する組織が、ここに誕生した。
それがのちに大きくなり、ネカマ共と全面戦争へと発展していくとは、この時は俺も弥生も、誰一人として思っていなかった。
ちなみに、部屋に二人きりの俺たちはこの後──まぁ、何も起きなかった。
復讐の後の一種の賢者モードが出たし、さすがにそんな勇気は俺にはない。
あんなに弱音が出てしまったのも賢者モードのせいとしておこう。
「早速ネカマを探しましょう……!」
それに、弥生が張り切ってネカマを探すために、ゲームを始めたのもあった。
今日くらいは休みたかったな。
まぁ、いいか。
ネカマ狩りに休みなし。これが俺たちのプレイスタイルだ。
セツナとは
手を出すなんて有り得ないからな。
しかし、男女関係に縁のない俺が、あんなことになろうとは──
それは結構近々のお話。
ともあれ、紅蓮の女騎士を救うことが出来た。
これにて復讐完了
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