第2話 狂い始めた計画
俺の復讐作戦はこうだった。
まずはネカマプレイヤーと仲良くなってオフ会へ誘い込む。
そして、女装した俺としばらく遊び焦らした所で自分の家に呼び込む。
男が性欲のままに脱ぎ出したところを催涙ガスで弱らせ捕縛。
俺と同じことをネカマにもさせる訳だ。家にはもう監視カメラも回している。
この作戦はいけるはずだった。自分の中では完璧だったはずだった。
しかし、いきなりの誤算。
来たのが男じゃなくて本物の女の子……!
しかもかわいい。
身体全体は細い線なのに、付いてる所は付いている。肌も絶対柔らかてぷにぷにしてそう……。
髪型は肩くらいまでの長さ。前髪は目が隠れるほど長く、うつむいてるから余計に隠れている。
例えそうだとしても眼鏡をかけているのは分かる。メガネ女子だ……。
(いやどうしよ⁉︎ 女の子のパターンは考えてなかった! このまま帰すのもあれだから、適当に遊んでから帰すか……。つかこれじゃ俺が悪いネカマプレイヤーじゃねーか!)
俺がうろたえていると、女の子から話しかけてくれた。
「あのぉ……」
「はい⁉︎」
声が裏返るが、そこまで問題ではない。
本当に問題なのは、女の子と話すことが久しぶり過ぎるのだ。
大学もろくに行ってない。年頃の妹がいるが、家族とも全然連絡していない。
せいぜいここ最近で話したのは、コンビニの店員だ。しかも結構歳いってるおばあちゃん。
これは、ボロが出るのは間違いない……。
「し、しらひめさん。これからど、どうしますか……」
「え、あ、そうですねー……」
しかし今のセツナの様子だと、自分が本当は男だとはバレていないようだった。
とりあえず一緒に行動して、いいぐらいの時間になったら家に帰そう。うん。
「じゃ、じゃあちょっと場所を移動して、アニメショップでも回りましょうか……! セツナはアニメとか好き?」
チャットの女性らしい喋り方を意識する。
こちらに意識飛ばせば、女の子と喋ってるという緊張は幾分かマシになった。
「は、はい。大好きです。特に、私百合が好きで……!」
「私も」
「そうなんですか……⁉︎ あまり周りに百合好きの女の子がいなかったので、嬉しいです……!」
百合好きの女の子。これは性別関係なく仲良くなれそうな気がした。
昔はエロ漫画とかAVとか見漁っていたが、まぁあの事件があったせいで、男のあそこが無理になってしまった。
時折、トイレとかの際に、自分の身体でさえ嫌悪感を覚える。
だから復讐の時にはネカマがパンツを脱ぐ前に決着を付けなければならない。
脱がれたら負けだ。
「じゃ、じゃああまり大阪詳しくないので、お、あ、案内お願いします……」
セツナはピッタリとくっ付いてきていた。
「あんまり大阪来たことないんだ?」
「はい……私奈良に住んでいまして、その、家からあまり出なくて……」
引きこもりか。俺も引きこもりがちだから、やはり親近感を覚えるな。
「電車を乗り継いで来たので、ちょっと疲れがもう……あ、別にそんなしらひめさんと会うのが疲れたとかそういうのじゃないですよ⁉︎」
「大丈夫大丈夫。おれ──じゃなくて、私も結構そういうことあるから」
セツナはホッと息をついた。
大阪に慣れていないのだったら、俺が出来る限りのことをしよう。
そして日本橋に行った──まぁ、ちょっと遠いがここぐらいしか今では外出しないから。
少し遅めの昼ご飯として、メイドカフェへと行った。
「「おかえりなさいませ! お嬢様!」」
「わ、わぁ〜、ほ、本物のメイドさんだ!」
「メイドカフェ行ったことないんだ?」
「はい、メイドさんを見るのも初めてです。私田舎の方に住んでいるので……」
「冥土に召される高齢者ばっかりなんだろうな」
我ながら死ぬほどつまらないことを言ってしまった。
「ふふ。……あ、あわわわわ。私ごときがそんなことを笑っちゃう立場じゃないですよね……! それに私の周りの人はみんな優しい人ばかりなんです……!」
セツナはとても優しい子だった。
いや、優しいというよりかは自分を卑下しすぎな気がする。
「ゴメンゴメン。冗談だよ」
「……なんかいつもと逆ですよね。キャラと真反対です」
「確かに。こういう感じのことはセツナが言うよね」
「そう、ですよね。や、やっぱりリアルの私はガッカリしましたよね⁉︎」
「いや、全然。リアルとネットで違ったっていいじゃん。ネットはリアルとは違う自分になれるところが良いんだからさ。リアルでもネットでも、それは自分に変わりないんだから、気にしなくていいよ」
俺の場合は今性別変えちゃってるしな。
「あ、ありがと──」
「お待たせしました! 産みたて卵のオムライスです!」
席に案内され、ちょっと会話しているとオムライスが出てきた。
なんだかツッコミどころがある名前だが、ふわふわで美味しそうだった。
「じゃあ食べようか? セツナ」
メイドカフェならではの掛け声の後、セツナは見た目に似合わず大きく口を開けてオムライスを頬張った。
「お、美味しいです……!」
単純な感想だったが、本当に美味しそうに食べるのでこちらも嬉しくなった。別に自分は連れてきただけなんだが。
その後、アニメショップ巡りをした。
「こ、こんなにグッズが……! 人もたくさん! あ、ここ、しらひめさん! 百合本がたくさんありますよ!」
遊園地に来た子供のようにはしゃぐセツナ。そんなに大声を出すような場所ではないため、凄く注目を集めている。
デート──とは誰も思っていないだろうな。そもそもここまで女装だとバレないことには驚きだ。
どんだけ他人をみんな見ていないんだよ。
「たくさん買ってしまいました……帰りの電車賃しか残ってないです……」
「両手一杯の百合本だなぁ。少し持つよ」
「ありがとうこざいます……」
「じゃあそろそろ解散にしようか。遠い所から来てるんだよね?」
オレンジ色の空は暗い夜の色に染まり始めていた。
大阪のあちこちで汗水流して働く大人たちによる、残業の光で街が照らされ始まる。
『──全線で運転を見合わせております』
「え……」
梅田駅で別れようとした時だった。
駅は人で大混雑。
駅員に当たるように怒鳴りつけるおっさん。今日は帰れないかもしれないと連絡しているお父さん。この状況をSNSで呟く女子高生。
反応は様々だが、いつものレベルでのダイヤの乱れではないらしい。
後にニュースで知ったことだが、人身事故に停電。急病人や、安全装置が誤って起動するなど。電車が止まる要因がタイミングを合わせたのかと言いたいほど同時に各地で起こってしまったらしい。
「ここまで大規模なのは地震以外初めて出くわすなぁ」
「──帰れないです」
「え?」
「私の使ってる沿線も止まってるみたいで……。今日、復旧するのは難しいらしくて……」
「え、大丈夫なの⁉︎ タクシーとかは」
「さっきのでお金が……。電車以外での帰り道が分からないですし、それでも結局お金が……クレジットカードも持ってないので……」
「じゃあ私──」
俺もお金ねぇや。
「安いホテルも探してみたんですけど、なくて……」
「まぁ外国からの観光客増えたし、それに真っ先に帰るのを諦めた人たちがもう取ってるのかもな……」
「しらひめさんって、この辺に住んでるんですか?」
「いや、西宮の方。阪急は……動いてるみたいだな」
「今晩……泊まってもいいですか……?」
え?
◇ ◇ ◇
西宮市内にあるアパート。
その一室に二人の男女が入っていく。お互いたくさんの荷物を持っている。
「ど、どうぞ……」
「お、お邪魔します……」
……え? 俺の部屋に女の子? ネカマを呼び込むために部屋を片付けした俺の家に、かわいい女の子……。
狂い始めた計画は思わぬ結末へと辿り着いたのだ。
──どうしてこうなった。
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