にじいろRevolution
紬木楓奏
プロローグ 明日も分からぬ星
地表の環境が壊滅して、数十年。人類は有毒酸性雨から逃げるため、地下世界に逃げた。開発途中の暗い世界で、醜く下らない領土争いが絶えなくなり、世界から平和と国交が崩壊してしまう。人類滅亡の門が見え始めた時、再生の白い旗を振りかざしたのは、平和組織・国際連合宇宙開発部から独立した、国際宇宙開発連合、通称“国宇連”。世界を三つの区域に分け、細切れになった平和への希望をつなぎ、人類の生をギリギリのラインでつないだのだ。
生き場所を探すことは、星を知ること。星を知るには、宇宙を知らねばならない。それだけで、国宇連が管理する側に回ったのだ。
「限界、か」
国宇連代表・湯浅
「もう、この星は限界です。勿論、そこまで追い詰めたのは我々ですが」
自虐的に語るのは、国宇連とは犬猿の仲である、東アジア宇宙軍将軍・伊達
「南ユーラシア圏の総意としましては、他の星に移り、新たな道を築く方針で固まりました。必要最低限の有能な人間を詰め込めば、再興も夢でないはずですから」
「我々西ユーラシア圏は、世論調査で九割がこのまま地球と共に生きるという結果が出ています。このまま、この地下世界で生きることを、早々に宣言したい。湯浅代表、我々は、その許可を得るために、この会議に参加しています」
まだ環境さえ不確かな星への移住を決めた“開拓精神”を掲げる南ユーラシア圏と、地球とともに最後まで生きる“慈愛精神”を主とする西ユーラシア圏は、軍の力が強く国宇連の権威の弱い、東アジア圏の出身である湯浅との関係が良好である。自分の力が及ぶのは祖国以外だと、湯浅自身も知っているのだ。
伊達陽光将軍率いる“開発精神”東アジア宇宙軍が統治している東アジア圏は、国宇連とは冷戦状態にある。一般市民の絶大なる支持と、それに応える確かな実力が軍にあるため、国民誰もが一様に、国宇連に助けを求めていない。代表が同郷だという理由で、今まで平行線をたどってこられたのだ。
「宇宙開発に明るい我々東アジア圏の、この伊達が明言しよう。まず、滅亡が決まっているこの星にとどまって共に滅びる理想論は論外だ。そして、ろくに調べもしない他惑星への移住は危険だらけだ。奇跡的に移住が成功しても、そこでどれだけの犠牲がでるか分からない。よって我々は、止めはしないが助けもしない。我々の提示する“未来”への準備にも、決して時間に余裕があるわけではない。湯浅代表、東アジア宇宙軍は、国宇連を脱退します。根拠のない未来に夢を見て、大仰に語るのは子供のやることだ。そんなものに付き合っている時間はない」
「後ろ盾をなくすのだぞ、伊達将軍」
「元々ないも等しいものでしょう、後ろ盾なんて。一週間後、国営放送ですべてを明かします。戦いを忘れたら、いつまでたっても負けたまま。そんな時代は、終わったんだ」
一週間後、東アジア宇宙軍将軍・伊達陽光の名の下、東アジア圏の国宇連脱退、そして軍が準備してきた“未来”が正式発表された。
『皆さん。母星に残り死を迎えるのも、命を懸けて途方もない星へ行くも結構ですが、我々とともに、東アジア宇宙軍の有識者が総出で作った、この世でいちばん生命の安心度の高い新たな故郷――東アジア宇宙第三ステーションへの移住してみませんか』
東アジア圏が独自に作った、最高傑作と呼ばれる広大な東アジア宇宙第三ステーション移住計画――通称サード移住計画が、幕を開けた。
◇◆◇
「私が、本隊長ですか?」
「文句あるか?」
「疑問ならあります」
「君にしか任せられないんだ。技量もなにも、軍立宇宙大学首席卒業で、三十にして」
「二十五です」
「失礼。まあ、若くして戦略隊隊長の信頼を得ているんだ。人類を救うコンパスになる器を持つ人間は君しかいないんだよ。戦略隊副隊長、凛田
◇◆◇
「確かに東アジア圏担当ですが、聞いていません」
「言ってないからねえ」
「何が嬉しくて橙子が宇宙軍の作戦にのらなきゃいけないんですか。なんか仕組まれてますよー?」
「上の決定だ。君以上に情報分析学に明るい人間はいない。拒否権はないんだよ、東アジア圏解析部、
◇◆◇
「そういう計画がたっていたのは知っています。でも、何故に僕が選ばれてるんですか!!」
「国語を学べ!! 上官に対して使う言葉じゃないだろう!!」
「僕が国語弱いの、知ってるじゃないですかっ!! 絶対、足を引っ張りますよ!!」
「もう了解しましたと言ってあるんだ。自慢のポジティブさをフルに活用して、医術を磨いてこい!! そして国語を学べ!! 空間医療隊副隊長、
◇◆◇
「……」
「弟さんにも話がいっているようだけど……断ってくれてもいいんだ、昔からうちと軍は反りが合わないから……」
「選ばれしメンバーってやつですよね。人類を救う、大きなプロジェクト。面白いじゃないですか」
「やってくれるか」
「至急、後任の秘書を見つけます」
「あ、ありがとう!! そういってくれると思っていたよ、代表第一秘書・坂登
◇◆◇
「と、いうわけで、君の先輩のサポートだと思って引き受けてくれないか」
「サポートって言うより、お世話でしょう? いつも私が尻拭いさせられて、いい迷惑なんですけど」
「引き受けてもらえないか、この通り。軍で有能な実績のある女医は君以外にいない」
「……終わったら、ちゃんと国宇連のいい相手、探しておいてくださいよ」
「前向きに検討するよ。空間医療隊、西谷
◇◆◇
「女性もいるんですか?」
「候補に三人程……」
「やります」
「……君さ、本当に宇宙科学研究の異端児で間違いないよな。宇宙科学隊、伊東
◇◆◇
「見つけたぞ!!」
「あ、人事部の皆様。暇そうですね」
「お前と一緒にするな。お前がいるのはたいてい実験室だろう、科学馬鹿が」
「軍人たるもの、最後の言葉はどうかと思いますよ。それに、居場所は黄河あたりに聞いたんでしょ。俺も幽霊ながらに隊長ですし、上層部でそういう動きがあるって聞いたから、逃げてたのに。みなさんはは目がないな。計画には興味がありますが、俺に要職は無理無理」
「俺たちもそう思うがな、科学分野に非常に精通している若者と言ったら、お前しかいないんだ。拒否権はない」
「はいはい、分かってますよ。見つかったんならチェックメイトだ。いいんです。俺は、実験できれば」
「頼むぞ、隊の評価だけは下げないでくれ……宇宙科学隊隊長、向井
◇◆◇
「全員承諾、結構だね。国宇連の二人も引き抜いたの。やるねえ」
「それが持ち上げ続けたら、予想よりスムーズに了解していただけまして」
「うん、よくやった」
伊達は円卓会議室のパネルを見ながら、満足そうに頷いた。選ばれし若者七人、共通点は東アジア圏出身というだけで、専攻も経歴も違う。しかし、伊達は国宇連に籍を置く二人の存在も知っていた。二人がどうやって生きてきて、国宇連に就職したか、それも熟知している。現状維持も難しいこの星で、若者は希望の光であり、その中でも何かの能力に精通する者は、人類存続のカードであると理解している。そういう人間味と残酷さを兼ね備えた伊達の性格が、東アジア圏の住民から支持され、将軍の座を不動のものとしているのだ。
「ま、こんな感じでいいんじゃないかな。大義名分を気にするような人間じゃないと思うけど、一応作ってみた」
「……早めの対応、助かります。三十分後の国営放送で発表します。顔合わせは、明日午後に設定していますが」
「結構、結構。伝令も大変だね。ちゃんと寝なよ」
「自分は広報です。では」
ここ数日の激務で寝ていないのは伊達も同じだ。国宇連同様、軍も、生き抜くために必死で脳細胞を動かしている。
『サード移住計画に於いて、実行部隊を結成しました。軍を率いて活動する、各分野幹部を発表いたします』
―東アジア宇宙第三ステーション移住計画隊 幹部―
本隊長 凛田紅莉 (東アジア宇宙軍 作戦隊副隊長)
科学隊長 向井紫恩 (東アジア宇宙軍 宇宙科学隊隊長)
科学副隊長 伊東 蒼 (東アジア宇宙軍 宇宙科学隊副隊長)
医療隊長 坂登黄河 (東アジア宇宙軍 空間医療隊副隊長)
医療副隊長 西谷水香 (東アジア宇宙軍 空間医療隊)
解析隊長 坂登 翠 (国際宇宙連合 代表第一秘書)
解析副隊長 萌田橙子 (国際宇宙連合 東アジア圏解析部)
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