第74話『C国艦隊との決戦』

VARIATIONS*さくら*74(惣一編)

『C国艦隊との決戦』





 吉本艦隊が回頭運動を終えて並走したときには、領海まで1・5海里に接近していた。


「状況報告」


 艦長は、小学生に窓から見える空模様を聞くように確認した。


「警告は10回目。C国艦隊からの応答はありません」

「あと3分で領海に入ります」


 ここまでC国の艦艇が領海に接近したのは初めてだ。離島周辺では海警の船が短時間領海を侵犯することはあるが、三隻の駆逐艦が揃って本土の領海に接近することはなかった。


「C国艦隊の前に回り込みますか?」


 船務長が、自衛隊としては常識的な提案をしてきた。


「回り込んだときは、もう領海の中や。侵犯されてからダンスするのはボケや。いこま、かつらぎの管制とリンク」


 ボケという非軍事的な言葉を使ったが、艦長は国際的には常識的な行動を暗示する答えをした。


「どうします……」


 船務長が緊張した声で聞いた。いや、声こそ出さないが、わが吉本艦隊は全員が同じ緊張の中にいた。


「C国先頭艦の前方200に警告射……」


 艦長の命令の途中で電測員が叫んだ。


「C国艦隊全艦から射撃管制レーダー照射」

「我が方もATECSレーダー照射」


 自衛隊が訓練以外で射撃管制レーダーを照射するのは初めてだ。


「C国艦全艦、砲門を向けてきました」


「各艦、C国艦の主砲を射撃。ASM-2発射ヨーイ!」


 担当の主砲76ミリ速射砲の砲員が素早く復唱、オート発射の衝撃がCICにまで響いた。


「C国3艦の主砲を撃破」

「各艦反撃に備えよ。オールウエポンズフリー!」


 C国艦は対艦ミサイルを発射直後に発射したミサイルごとミサイル発射装置を、我が方の76ミリ速射砲を破壊された。一発だけがたかやすに向かってきたが、CIWSで、距離500で破壊された。その残骸が一部たかやすの艦体にあたったが、被害は無かった。


「C国一番艦、傾斜大。まもなく沈没します。残り二艦も炎上中」


「C国艦隊の救助に向かう。海上漂流者を優先。118番通報、救助要請。現在位置確認。C国艦隊発見から現時点までの接触情報を海幕に通報」


 C国艦隊は、一隻沈没。二隻は消火完了の上領海侵犯で拿捕。C国の艦長は公海上であると強弁したが、レーダーの記録を見るまでもなく、10キロの近さに迫った丘の景色をみれば領海侵犯は明らかだった。空には、自衛隊、海上保安庁、米軍、マスコミのヘリコプターが一杯だった。

 海自は救難艦を派遣し、沈没したC国艦の艦内生存者を海保と共に12名救助。多数の死者を収容した。これに要した時間は12時間余りで、あまりの手際の良さに、C国は、日本によって仕組まれた海戦だと主張したが、非難を通り越して世界中から笑われた。


 タブロイド判などは『佐世保沖海戦』と書いたが、政府の発表は『接触事故』であった。


「報告済んだら、退官願い出すわ」


 飲み会の約束をするような気楽さでたかやすの艦長兼司令が言った。


「艦長に落ち度はありません。的確な戦闘指揮と救難指示でした」


「せや、完璧な正当防衛や。それでも日本は自衛隊に実戦は認めん国や。どうせ、あと二月で定年やった。悔いはない」


 そう言って、吉本艦長はラッタルを降りていった。


 佐世保の街が、こんなによそよそしく見えたのは初めてだった。

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