第43話《現実版 はがない・4》

ここは世田谷豪徳寺・43(さくら編)


《現実版 はがない・4》



「あ、『はがない』は『私は故郷がない』の略っての、どう!?」


 はるかさんは、ミゼラブルなことをオヤジギャグみたいに言う。


「分かるような気がします」

 軽く相づちを打つように返事した。

「簡単に分かってくれるのね」


 冷たく厳しい反応が返ってきた。あたしはたじろいでしまった。


「あ、ああ、ごめん。簡単ていうのは直ぐに分かってくれて感動してるんで、そんな意味じゃないから(^_^;)」


 すぐに、もとの笑顔で自分をフォローした。あたしは、たじろいだけど、厳しいはるかさんを近く感じ、笑顔のフォローを遠く感じた。で、感じたまま返事をした。


「きつくても、ありのままのはるかさん……いいですよ」

「いいアンテナしてるね、さくらちゃんは。まどかといい勝負。ただ、あの子は忙しいからね……あ、そういう意味じゃないのよ」

「いいえ、はるかさんの言う通りだから気にしないでください」

「ありがとう……」


 はるかさんは、あたしの手に自分の手を寄り添うように重ねた。


「はるかさんは、成城、南千住、大阪の高安、で、南千住に戻って、今は港区なんですよね。四回も引っ越したんじゃ……」

「回数じゃないの、たとえ短期間でも、そこに人間関係が残っていれば、そこが故郷。わたしは、引っ越しのたんびに人間関係が切れてきちゃったから……そういう意味で故郷がないの」

「苦労したんですね」

「もっと歳とれば、こんなの苦労なんて思わないのかもしれないけど、半人前のわたしには堪えます。本当なら南千住が故郷っちゃ、故郷なんだけどね」

「まどかさんも、おっしゃってましたね」

「お父さんが再婚しちゃってね。でも、いい人よ。あたしも東京のお母さんて呼んでる。このお母さんも、あたしには良くしてくれるの。でも、弟が生まれてからは……微妙に違うのよね。うまく言えないんだけど、弟が生まれる前と後で、お父さんも、東京のお母さんも、なにも変わらない。ちゃんと娘としてわたしを扱ってくれる。でも、変わらないことに無理を感じるの。ほんとのほんとの心じゃ、弟の方がかわいい。それでいいと思うし、実際二人の気持ちは、そうなんだ。だけど、普通に接してくれる、その普通は演技なんだ。悪い意味じゃないよ。でも……どこかで、わたしに済まないって負い目感じながらの普通なの。だから、仕事上便利ってことで、わたしは引っ越したの」


「それって、エア家族だったんですね?」


「ハハ、上手いこと言うわね」

「あたしの言葉じゃないんです『はがない』ってラノベで三日月夜空って子がエア友達で満足してるのを主人公が見てドラマが始まるんです。生きた人間がエアにされたら、辛いと思うんです」

「なるほど、ラノベっていっても馬鹿にできないわね。本質的なとこで、人間性押さえてるのね……あ、それって、実写版やってたわよね?」

「ええ、名画座でかかってます!」


 あたしは、裏の四ノ宮兄妹も誘って、四人で渋谷にくりだした。


 ラストじゃ、ちょっと引いてしまったけど、おおむね「アハハ」と笑って見ることができた。撮影現場が想像できるあたしとはるかさんは「スタッフ大変だったろうね」と言う意見で一致した。

 

 マックで休憩したあと、カラオケへ。そのころには、はるかさんと四ノ宮兄妹もうち解けていた。


 カラオケでは、歌うどころか、人間の孤独についての懇談会になってしまった。


「ぼく達なんか、人間の存在としてエアーですよ」

 元華族のチュウクンの話には、はるかさんは、いたく感動していた。

「こうやって、語り合えたことで、あたしたちはエアは、ずいぶん温もったと思いますよ」

 篤子ちゃんが、深く無垢な笑顔で言って、はるかさんも笑ってくれた。


 そうして、あたしたちは、はがなくなくなってきたことを実感したのだった。

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