第33話《事務所を通してください》
ここは世田谷豪徳寺・33
《事務所を通してください》
「事務所を通してください」
もう三度目。
チュウクンに言われたように答えた。
素人考えでスマホのアドレスは変えようと思っていたが、変えてもすぐに分かってしまうと言われた。
学校や友だちの間でもプロモに出たことは話題にしなかった。まくさと恵里奈は黙っていてくれた。
鈴奈(りんな)も事務所から、あたしのことは言ってはいけないと言われているようで、学校で顔を合わせても完全にシカトしてくれている。
しかし、元々が渋谷での騒ぎにあたしがオッサンを応援したことが始まりなので、あの騒ぎをスマホなんかで写した人が大勢いる。中には動画サイトに投稿した人もいる。その中にハイテンションになっているあたしが写りこんでいるものもあり、年格好から女子高生であることは明白。で、渋谷の近隣の学校を当たれば帝都は直ぐに候補に挙がってくる。オタクが、その気で調べれば、そのネットワークで一週間もあれば正体がバレる。チュウクンの見通しは当たっていたが、一週間では無く一日だった。
最初スマホにかかってきたものは、教えられたとおり「事務所を通して……」で撃退し、着信拒否にした。
ブログなんかはしていなかったので安心していたけど、佐倉さくらで検索すると、五件も出ていた。ポータルサイトに通報すると、直ぐに削除されたが、一時間もするとまた出てくる。それもポータルサイトの規定にかからないよう、個人情報は削ってあるが、以前の情報を持っている人が見れば、どうしても分かってしまう。
「仕方がない、一つ二つ仕事として受けて、露出しよう」
吾妻プロディユーサーは、ため息混じりに答えた。事務所にもかなりの問い合わせがある様子だった。
「いきなりだったね、さくらちゃん」
タムリが、鈴奈たち『おもタン(おもいろタンポポ)』に聞いたあと、スタジオに招かれ、オーディエンスが「オオー」と上げた声を鎮めるように言った。
「便利だよね、サクラって言っとけば苗字と名前の両方言ったことになるもんね」
「ええ、小学校のときなんか、サクラ×2って書いてました」
「でも、すごいよね。先週の木曜までは、ただの高校生だったのにね。まあ、問題のプロモ見てみようか」
おもいろシャウトのプロモの、あたしの部分だけ抜かれて静止画になって映った。
「それにしても、すごいシャウトっぷりだね」
「ええ、死ぬかと思いました」
「さくらちゃんは、普段はシャイな方なの?」
「はい、今も緊張してます」
「なんか、ネットの方じゃすごいことになってるらしいね。いっそ、このままデビューしちゃえば」
「とんでもないです(#゚Д゚#)!」
と、真顔で驚いた瞬間カメラがアップになり、スタジオのオーディエンスからもドヨメキが起こった。
「こんな風に驚ける子いないよ」
「そんな、そんな!」
オオ!! またもドヨメキ。
「ん……なんかメモ来たよ。次の仕事が待ってるから局の玄関へ……だって」
「こ、困ります。事務所を通してください」
「って、これ事務所からなんだけど」
タムリの目がグラサンの下で笑った……。
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