第30話《これでいいのか あたしの青春?》
ここは世田谷豪徳寺・30(さくら編)
《これでいいのか あたしの青春?》
その項目でシャーペンが止まってしまった。
今日のホームルームは高校の一年間を振り返っての意識調査だ。授業内容、好きな教科、食堂のメニューで好きなもの。盛りだくさんの項目があって、最後の項目でシャーペンが止まってしまったのだ。
○:あるとしたら、あなたの生き甲斐、または目標はなんですか(例:部活とか)
あたしの人生の目的?
十六歳になるまでは、帝都女学院に入ることだったし、入ったことで満足していた。
でも、学校生活に満足してしまうと……何もない。
数少ない親友の佐久間まくさは茶道部。うちの茶道部は裏千家と表千家の両方がある。まくさは裏千家の方だ。カンニングすると「お茶の師範になること」と書いている。根性入ってるなあ……。
山口恵里奈は、バレ-ボール一直線。将来は女子バレーの日本代表に選ばれて東京の次のパリオリンピックに出たいというのだから恐れ入る。
帝都は部活が盛んな学校で、なんの部活もしていないのは、一部の進学特推コースの子たちぐらいのもの。
あたしも、入学当初はあっちこっちの部活に体験入部してみたけど、どれも相性が合わない。茶道部は足が痺れただけ。軽音は150人という部員数に圧倒されただけで帰ってきた。引っ込み思案の性格を直すために演劇部にも足を運んだが、こちらは部員がたった4人で、あまりのショボさにガックリした。
そんなこんなで、一年の三学期まで、帝都では珍しい帰宅部になり果てている。
なんか趣味を生かしたことないかなあ……。
兄貴は海上自衛隊に入って、ドップリと生き甲斐に浸っている。
姉貴のさつきは、大学に入って文学と映画に没頭。他にも大学で世界が広がって楽しそう。
過渡期とか、モラトリアムとか開き直ってもいいんだけど、姿勢として逃げているようでイヤだ。
イヤだと言っても、生き甲斐なんて学校の購買部でも売ってないし、なんでも手に入るネット通販でも、こればかりは無い。
しょぼくれていると、まくさと恵里奈がカラオケに誘ってくれた。
好きと言うほどではないけど、月に一遍ぐらい発作的にカラオケにいくことがある。
半分ぐらいは一人カラオケ。喉が潰れるくらいに歌いまくって十六歳のウップンを晴らしている。あとの半分は、今日みたく人に誘われて歌いまくる。人というのは、たいがいまくさと恵里奈。ただ二人とも部活があるので、なかなかいっしょに行く機会がない。
で、今日は放課後電気工事のため全校停電なので部活もない。
停電するんなら充電だ!
ということで、学校から歩いていけるまくさの家で着替えて渋谷を目指した。
なじみのSカラというカラオケ屋で二時間歌いまくった。AKB、乃木坂、ももクロに集中した。なんたって三人いっしょに歌える。以前から三人の課題であった『恋するフォーチュンクッキー』のフリもカンコピして、意気揚々と渋谷の街に。
歩いて二分ほどで事件に出くわした。
うわ!?
歩きスマホのオッサンと、自転車スマホのネエチャンが衝突。双方大した怪我はしていないけど、悪いのは相手だと言いつのっている。
人のケンカが楽しいのは江戸っ子の性(さが)下がって見ているなんて出来ずに最前列に。野次馬は両者に別れて応援したりやじったり。お巡りさんが仲裁に入っているが、ラチがあかない。
「がんばれオジサン!」
あたしは、カラオケの高揚感を引きずったまま、オネーチャンが気にくわないという理由だけで、オッサンを応援した。
「あなたたち帝都の子ね」
横から声をかけられた。いっしゅん学校の生指の先生かと思ったが、すぐに分かった。
二年生で、おもいろタンポポの名前でユニットを組んでアイドルをやってる原鈴奈だった。
「うちの事務所の人が、あなたと話したいって」
鈴奈の目線は、まくさでも恵里奈でもなく、あたしに向けられていた……。
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