第14話《再開……なんで!?》

ここは世田谷豪徳寺・14

《再開……なんで!?》



「あんなに正面から否定されたの初めて」


 家を出て角を曲がったところで、白石優奈が言った。

「生まれ変わりは、ただ残像を見てるだけ……さくらはどう思う? あ、つい呼び捨て。よかった?」

「いいわよ、あたしも優奈ってよぶから。でも、この気楽さが、優奈の前世感と繋がってると思う」

「え、どういうこと?」

「気楽だと、人との距離が近くなるでしょ。で、つい相手に深入り。アドバイスめいたことも多くなる。人は外れたことより、当たったことをよく覚えてるんだって。で、心理的に引っ張られてしまう。あたしなんか、そういう近い距離苦手だから、黙って聞き手にまわっちゃう。だから、友だち少ないんだ。優奈と友だちになれて良かった」

「フフ、そう言われると嬉しいな」

「あたし、こないだ、ここで、危うく運命の出会いと錯覚することがあったのよ」

「え、こんな生活道路で?」

「うん、そこで通学途中に水道工事やっててね……」


 あたしは、四ノ宮クンと、レイア姫おパンツ事件について話した。自分から話すのは、あれ以来初めて。優奈には、やっぱり、人を気楽に取り込んでしまう才能があるようだ。

「マリリンモンローが狸になって、スカートあおられてる画像なら見たけど。お姉さんの対策だったのねえ……さくらんちの人たちって、みんなおもしろいね」

 そう言われて考えた。たしかにうちの女たちみんなはひとくせ有り。

「でも、お父さんと兄貴はおもしろくないよ、ごく普通」

「でも、チャンスがあったら会ってみたいな。さくらんちは面白いことに間違いはなさそうだし」

「うん、いつでも大歓迎よ」

「ありがとう。あ、もう駅だ。電車乗って帰るわ」

「うん、またね。不登校の子、なんか役に立つことがあったら、相談してね」

「うん、じゃ!」


 優奈が改札を通って、階段を上がるところまで見送る。自殺しかけた子とは思えない立ち直り。わたしだったら、もっと引きずってしまう。助けてくれた人の家になんか行けない、学校だって辞めてしまうなあ。


 優奈のお尻が見えなくなってスマホがメールのサイン。


――晩ご飯お鍋にするから、お鍋の出汁と大根買ってきて――


 お母さんからだ。こういうところは人の使い方にムダがない。この才能はお姉ちゃんが受け継いでいる。


 ベスト豪徳寺で、お鍋の出汁パックと大根を買って表に出る。駅に向かう暴走ママチャリに驚いて見送ると、不動産屋さんの前で、男の人とぶつかりそうになって口論になっていた。


 ちょっと、あんた!

 そっちこそ!


 交通の邪魔だなと思っていると、その口論相手がレイア姫事件の四ノ宮クンであることに気づく。ママチャリのオバサンは、こういうのに慣れているらしく、四ノ宮クンが押され気味。


「あたしも、さっきオバサンに轢かれそうになりました!」


 この一言で、オバサンの分が悪くなり出し、駅の方からパトロールのお巡りさんが来だしたので、オバサンは急いで逆方向に逃げていった。

「やあ、君たち縁があるね」

 お巡りさんが言った。

「あ、香取さん!」

 レイア姫事件の時にお世話になった香取巡査だ。

「その節ははどうも」

「で、今日は?」

「たまたま、出くわしちゃって」

「お茶でもってとこか。いいなあ、青春は。じゃ本官はパトロール中なので」


 で、香取巡査の一言で、駅前のデニーズで、アメリカンクラブサンドを真ん中に置いてお茶になった。


「え、豪徳寺に越してくるの!?」

「うん、大学からはちょっと遠くなるんだけど、この辺安そうだし……」

「なんか、含みのある言い方だ」

「なんだか、街も面白そうだし」

 一瞬レイア姫事件が頭をよぎる。

「あ、さくらが考えてるようなことじゃないから。なんか、街が適当にホッタラカシで、適当に構っているようなとこ。さっきのママチャリのオバサンなんか程よい刺激」

「で、四ノ宮クンて、どこの大学」

 サンドイッチをかじりながら気楽に聞いた。

「東京大学」


 ゲホッ!


 思わず、むせかえった。

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