お化かな彼女

@sm2316

第1話

ずっと待ってる


もう誰を待っていたのか

なんで待っているのか

理由も思い出せない


このベンチに腰掛けどれぐらいたってしまったのだろう


どんな気持ちで待ってたんだっけ



今あなたが来たら気付けるのかな?

あなたは

私の名前を呼んで迎えに来てくれるのかな?



▽▽▽▽▽▽▽



なんであのベンチだけ人が座らないんだろ

他のベンチはお昼時大抵誰か座ってるのに

たまに誰か座ってもすぐ立って移動するんだよなぁ


いつも無人のベンチ


会社の昼休み俺は喫煙所でタバコをふかしながらそのベンチを眺めていた


フーッ

さ、仕事に戻りますか

あれ?女の子かな?誰か座ってる

美人だなぁ


▽▽▽▽▽▽▽▽▽


はー終わった終わった


仕事終わり一服しに喫煙所による

タバコをふかしながら

お昼の子美人だったなぁと思い出した

あれ?またいる

大学生くらいかな?あのベンチにまた座るなんて珍しいなぁなんて思いながら

彼女を遠目から眺めていた



次の日も昼休みいつものように喫煙所に向かった

あれ?あの女の子だ

またベンチに座っている


すると雨が降りだした

あーあー傘持ってきてないよぉ

傘買うかぁ

ベンチに目をやると女の子はそれでも座っていた


えー濡れるじゃん、、、

しょうがねぇなぁ

近くのコンビニで二本傘を買った


ベンチまで走っていき彼女に渡した

「濡れちゃうよ?二本あるから使って」

聞こえてないのか反応がない

「ほら、気にしなくていいから使って」

無理矢理傘を持たせ会社に戻った




▽▽▽▽▽▽▽

傘?え、雨か

雨の冷たさを感じたのはいつぶりなんだろ




あなたを待っていたあの日も冷たい雨が降りだしたんだ





あ、

お礼を言えてない



ベンチから立ち上がった

辺りを見渡すと

彼はもう居なかった




私は立ち上がったばかりのベンチにまた座った



あの人またここに来るかな

このベンチにいる理由が増えた






仕事が終わり外に出ると雨は上がっていた

なんだよ傘せっかく買ったのに

一服しにいつもの喫煙所へ向かう



タバコに火を付け一息つく

ベンチに目をやると彼女はまた座っている

俺に気付いたみたいだ

立ち上がって近付いてきた


「あの、傘ありがとうございました」


「いえいえ、どういたしまして」

彼女はニコッと笑ってお辞儀をしてベンチに戻っていこうとした

その背中は寂しげで声をかけてしまった

「あのさ

なんでいつもそこに座ってるの?」


「待ってるの」


「待ち合わせ?」


「多分」


「多分?相手はまだ来ないの?」


「うん、全然来ない」


「ふーん、暇?」


「暇、、、かな」


「よし、行こうか」

タバコの火を消し彼女の手を取って歩き出した

行く宛はないけれど

あのベンチから連れ出してあげたい

そう思った





▽▽▽▽▽▽▽▽


あのベンチがどんどん離れていく

もし今あなたが迎えに来たらどうしよう



私の右手を引っ張り歩く彼からタバコの香りがした




いつも臭いからやめてって言うのにタバコの匂いをさせるあなたも

あの頃こんな風に手をひいて

いろんな所に連れていってくれたね






「ごめん

あのさ?、、、あのー?」


「あ、はい」


「俺から行こうって言ったんだけど、、、

特に目的地があるわけじゃないんだよね

どっか行きたいとこある?」


「え、うーん

じゃイルミネーションみたい」


「お、いいじゃん行こう行こう

それじゃ、、、こっちだな

向こうのアーケード越えたところでイベントやってるから」


「そこって綺麗?」


「綺麗だよ、俺は結構好き」

彼女の手を握りっぱなしだ

「あ、ごめん」

急いで手を離した


「手繋いでて」

俯いてる彼女は

また手を俺に差し出した

俺は照れるのを隠すようにさっと掴んで

すぐ歩き始めた


「あそこで待ってる人って彼氏?」


「さぁ?わかんない」


「わかんないんだ」


「なんで待ってるのか

誰を待ってるのか

待ちすぎて忘れちゃった」


「ふーんそういうことか」

さては喧嘩した彼氏とかを待ってるんだな

「まぁせっかくだから今日は全部忘れてさ

楽しもう」


「うーん、うん」



私、忘れたかったのかな

思い出したかったのかな

どっちだっけ?

でもこの人といると少しずつあなたが近付いてくる気がした




▽▽▽▽▽▽▽▽


彼の手に導かれて

ついた先は光の魔法がちりばめられたお庭だった

「わぁ綺麗」


「ついたぞ」






「口開きっぱなしだぞナナコ

いいだろここ!

また連れて来てやるよ」




嘘つき

または無かったじゃない






「フッ口開きっぱなしだぞ」

彼女は口を手で隠した

「ナナコ」


「え?」


「私の名前」


「ナナコか

可愛いじゃん

俺ケイタ」


「ケイタ、、さん、、、

ケイタさんはなんで私を連れ出したの?」


「なんでだろ



美人だから?」


「なにそれ?ナンパじゃん

ここ綺麗だね」

初めて笑顔を見せてくれた



頭の上に手をおいて強く撫でた

「やっと笑ったな

ナナコもっと笑えよほら」

ナナコの髪をグシャグシャにしてやった

「んもぉ、やめて」

俺の手を振り払って走っていって行った

あー怒っちゃったかな


ナナコが振り返った

「バーカ」

今までで一番の笑顔だった



世の中にはこいつをずっと待たせて平気なやつがいるんだな




「バカって言う方がバカなんだよバーカ」

ナナコのもとに駆け寄った




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