第2話 欲望も能力も結局のところ使いよう
「あー、そういえばあったな、そんなの」
嫌な事件だ。少し気を落としたのか声のトーンが下がったように聞こえる。
確かに数多はその手の事件が嫌いだった。
数多曰く、「人が傷付く話は好きじゃねー」との事。
まあ言わんとする事はよく分かる。
彼の優しい性格だ。心苦しさがあるのだろう。
「つーか、忘れらんねーよ。あんなの」
数多の顔が目に浮かぶ。
「いやー、怖いよね。犯人もなんであんな事したんだろう?メリットなんて一つもないのに」
美香も同じく声のトーンが落ちている。
二人とも、思いやりのある奴らだしな。
「犯罪者の考えることなんて僕らの価値観じゃ分からないし、同じ価値観の人間が犯罪を犯してると思うと気分悪いだろ」
そんなことより、と僕は続け早急に話を変えようとした。
湿っぽい話から明るく楽しい話に場の空気を変えようと。
そんな中、今流行りのショッピングモールで新しくストロベリーチーズドーナツという、何とも面白おかしいドーナツが発売されたという今朝のニュースを思い出した。
「そういえばさ―――」
しかし、あえなくその話は出来なかった。しなかったわけではなく、“出来なかった”
場面を頭の中から現実に戻そう。
今はテストの途中。周囲はテストに集中するか、余りの時間を見直しか暇を持て余している。
筆記音以外は決して聞こえないはずだった。
本来なら。
次の瞬間。
とてつもなく大きな音と勢いで教室内に扉が吹き飛ぶ。
引き戸なので押せば簡単に外れるが、それでも教室の端から端まで飛ばそうと思うと、その勢いレベルの高さが見てとれる。
吹き飛んだ扉は反対側にある窓に当たりそれは粉々に割れて教室の内側と外側の両方に散った。
それを見た他の生徒も男子は顔をひきつらせ、女子は悲鳴をあげている。
何が起きているのか確認しようと周囲全体に視野を広げる。
すると窓と扉と生徒以外に変わった点が一つ。
扉があった場所から一本の黒いデニムを履いた足が見えている。
僕は頭の回転が早いわけではないが、それが何を意味するかくらいは分かる。
扉を蹴り飛ばした足――扉を蹴り飛ばした人物がいる。
その人物の顔を記憶するため、
しかし次に見えたのはその人物の顔ではなく銃口だった。
突如、女子の悲鳴や僕の思考を一蹴するような音が木霊した。
あまりの驚きに全員が言葉を失い、その場には再びテスト中のような沈黙が訪れる。
「動くなぁぁぁ!!」
一度黙った全員が今度は声も発することなく肩を震わせた。
みんな徐々に状況に理解が追い付いて来たのだ。
数秒経った後、二人の男が教室に入ってきた。
周囲は今度こそ驚きに肩を震わせない。
しかし状況を理解した途端、教室内は恐怖に体を震わせる。
最初に入ってきた男―――扉を蹴破った男が沈黙を破り声を発する。
「全員動くな。声も出さず、怯えもするな。うるさいのは嫌いだ。お前らに許可される行動は呼吸だけだ」
もし······と男は続ける。
「もし許可していない行動をすれば、『この間みたいに一人残らず殺すぞ』
何てことだ。状況を噛み砕き飲み込むまでに思いの外時間がかかってしまった。
となると次に起こすべき行動は決まる。
「数多、美香、問題発生。状況を帰変えるべきは僕達だ。力を貸して欲しい」
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