即興小説修正まとめ

神崎乖離

第1話 戦法オセロ

 戦術オセロ


 例えば、天使のように慈愛に満ちていて、

 例えば、悪魔のように残虐な思考があって、

 例えば、神様のように平等に不干渉な存在がいるとしたら、

 それは神様なのか天使なのか悪魔なのか、あるいは名称しがたき存在なのか、

 僕はそれを『機械仕掛けの神』(デウスエクスマキーナ)と呼び、

 彼女は僕を『代行者』(エグゼキューター)と呼んだ。


 そして、話は変わる。


 8×8の緑の盤上、白い駒とあるはずの黒い駒が無かった。

 これはゲームであり、オセロとよばれる老若男女問わず簡易にできるゲームのはずだ。

 近年では十一歳の少年が最年少優勝の栄光を勝ち取り、話題に上がったものだ。

 そして僕らもまた、話題に乗っかり安売りしていたオセロの盤面を買ってプレイをした。

 だが、おかしい。こんなはずはないのだ。

 後攻である彼女の白い駒が盤面の上を占拠していた。五か所だけ緑の盤面が埋まっていないが、それはルール上挟む黒が無いため置くことができないのだ。

「おかしい、おかしいと思うんだが」

 何度盤面を見ても五十九個の白い駒が並び、黒い駒は無い。

「そう?」

 僕は払しょくしきれない疑問を彼女に投げかけた。

「オセロってこんなゲームだったっけ。敵を全滅させるゲームだったっけ? 相手の駒がなくなるような将棋やチェスのようなゲームだった? 違うよね?」

 僕の駒を全滅させたことを悪びれる様子もなく、彼女はコーヒーを飲む。

「それはキュータの戦術が悪いんだよ」

 彼女は僕のことをエグゼキューターのキュータと呼ぶ。

「じゃあマキナには戦術ってのがあったっていうのか? オセロなんてただ相手の色を挟むだけだぞ?」

「君はなんにも考えずに多く相手の駒を潰してをしてただけじゃないか」

「いいや、僕にだって考えはあったさ。オセロは四つ角を取れば勝てるって知ってるさ……だけど」

 だけどもその四つ角の全てを取られ、取られたどころか全部の駒を取られたのだ。

「オーケー、そこまで納得いかないなら、私が使った戦法を説明しようじゃないか」

「オセロの戦法……ぜひ教えてもらいたいね」

「先に言っておくが、この戦術が絶対上手く行くなんてことは無い。今回は君の戦術が無策だったkら全部の駒を取れたのであって、少しでもこの作戦に気付けば阻止されてしまうことを重々承知したまえ」

「へいへい」

 こうして僕はひねくれたカリスマからオセロの戦術を学ぶ機会を得たのであった。


「さて――」

 オセロの盤面を黒二つ白二つの最初の盤面に戻し、講義が始まる。

「まず最初に、ゲームで勝つとは何かわかるかい?」

「え? ゲームに勝つ? 勝利条件を満たす事だろう?」

「まあね、このオセロなら相手より駒が多ければ勝ち。サッカーやバスケなら相手のゴールにボールを入れればいい。条件を満たす。ではどうやって条件を満たす?」

 オセロのルール、それは相手の駒を挟んで色をひっくり返し、自分の駒の色を多くする。

「とにかく相手の駒を自分の色にする」

「そうだねぇ。じゃあ次は効率だ」

「効率? って言われてもなぁ」

 オセロなんて状況が毎回違うゲームなのにどうやって効率よく自分の色に変えればいいのだろうか。

「一つの考えとして、相手が染めた駒を自分の駒で染めなおす。常に上書きの考えがある」

「なるほど! マキナは後攻だから僕の駒を上書きし続ければいずれは真っ白に……」

「なるわけないだろう」

「ごもっともで」

 そもそも簡単に後攻が全て上書きできたら完全に後攻が有利でゲームが成り立たない。

「じゃあどうしするのさ」

「オセロにおける効率って何かわかる?」

「いいや、そもそもゲームにおける効率ってのがわからない」

「それもそうだったね。ゲームにおける効率っていうのはね、有効な行動なんだよ。真正面かからぶつかって勝敗が五分五分だからゲームは成り立つ。自分にも相手にも弱点があって、その弱点を突くのが有効な行動、逆に自分の弱点を守るのもまた有効なのさ」

「弱点を突いて弱点を守る。確かに有効な行動だね」

「ゲームの基盤はここまで。次は本題に入るよ」


「君は先ほど、四つ角を取るように戦ったと言ったね。オセロは挟むことによって色が変わる。だから挟まれない四つ角が最強だと」

「うん」

「その考えは正しい。弱点を守り弱点を突いている。でもそれだけじゃ足りない。さらに弱点を守り相手の弱点を突かないと」

「四つ角を取って、弱点を守り弱点を突く……でも四つ角は色が変わらないから弱点が無いんじゃないの?」

「四つ角の弱点を突いてどうするんだよ。四つ角は無敵なんだから。相手のを突いて弱点と、自分の弱点を守るのさ。基本的なルールに戻って、相手の弱点はなでしょう?」

「相手の弱点は四つ角だ!」

「もうそれは取ったとして」

 彼女は丁寧に四つ角を駒で埋める。

「えーと、相手の弱点は……対戦相手によって変わるのではないか?」

「基本的なルール。挟まれると手駒がなくなることさ」

「ああそっか」

「つまり、相手の駒を挟み続ければいい」

「逆は自分の駒を挟まれなければいいってことか」

「そういうこと」

「四つ角を取って、自分の駒で挟み続ける……そんな都合よくいくかな。いや、四つ角を取った上で、四つ角の隣を塗りつぶしていけば。四つ角の色が変わらず、それが大きくなるかから弱点を突かれないし、色を塗り替える弱点を突き続けることができる?」

「その通りさ」

「つまり戦術は、四つ角を取って四つ角を大きくするっていうのが戦術なだったってわけか!」

「さらにその上に効率を乗っけていく」

「さらに!? どうやってさ」

「わざと最初から弱く出るのさ。自分の手駒を極力増やさず、相手の駒を増やす。しかし必ず角を取る」

「なんで最初に弱く出るんだ? 四つ角取れればいいじゃん強いじゃん」

「私が君の駒を全滅させることができたのは、私が最初から弱かったからなんだよ。君は駒を多く持っていた。逆にそれは多く弱点があるということでもある。実際。私は端から順にすべての駒を塗りつぶせたのは私の駒が邪魔にならなかったからさ。そして君が駒を裏返さないようにね。じわじわと自分の範囲を広げていったのさ」

「僕は負けたのはそういった戦法があったからなのか……」

「わかったかい?」

「つまるところ、最初はわざと負けて四つ角を取り、相手の駒をじわじわと塗り替えればいいわけだな!」

「まあ……上手く行けばね!」

「よぉし! じゃあもう一回勝負だ!」


 8×8の緑の盤上、白い駒とあるはずの黒い駒が無かった。

 これはゲームであり、オセロとよばれる老若男女問わず簡易にできるゲームのはずだ。

 近年では十一歳の少年が最年少優勝の栄光を勝ち取り、話題に上がったものだ。

 そして僕らもまた、話題に乗っかり安売りしていたオセロの盤面を買ってプレイをした。

 だが、おかしい。こんなはずはないのだ。

 後攻である彼女の白い駒が盤面の上を占拠していた。二十五か所だけ緑の盤面が埋まっていないが、それはルール上挟む黒が無いため置くことができないのだ。

「おかしい、おかしいと思うんだが」

 何度盤面を見ても三十九個の白い駒が並び、黒い駒は無い。

「そう?」

「さっきの説明通り、最初わざと負けてたのにどうしてもっと早く駒が全滅してしまうんだ!」

 彼女の一手一手は確実に僕を追い込んだ。そして角一つ取る前に全滅してしまった。

「最初に言っただろう。相手の駒を必ず上書きし続ける方法もあるって」

「だからって最初から全滅するとは思わないじゃないか!」

「それは君の駒の使い方が悪いんだよ。絶対最初から潰される可能性を見てなかった」

「潰される可能性があるならあるって言ってくれよー!」

 彼女は付き合ってられんと言わんばかりに、コーヒーを飲みほした。

「代行者よ、私はおかわりだ」

「機械仕掛の神よ、代行者として喜んでコーヒーを淹れてまいります……」


 ――END――

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