七つの星が消えるまで

神羅神楽

第1話 6日目の夜

 テラスに出ると、繁茂している手入れの行き届かない黒々とした雑木林の遥か上に、1つの大きな星が照っていた。


 最後の星。


 高貴で地位が高く、無力な民どもを力で圧迫してきたこの大魔女の私は、性奴隷の生活を数か月強いられ、辱めを受け続けた過去があった。


 けれど、その苦は雨水を一晩器に溜めたほどのものだ。


「ララ」


 馬鹿もの。

 お前が来るたびに私は心の中で、アーベル、あなたを馬鹿ものと呼ぶのだ。


 赤毛のやせっぽちのアーベルは、私の背から胸もとに手を回し抱き付いて来た。


「星ばかり見ると盲目になる」

「盲目になったのはあなたのせいだ」


 クスリと笑うと、アーベルは私のうなじにそっとキスをした。

 私は震えていた。


「泣いてるの? ララ」

「大魔女が泣くものか」

「ふふ。可愛いねララは」


 私は、涙をずっと、堪えていたのだ。


「ララはいつも、自分のことを高嶺の花に仕立て上げる。それは、涙を流す口実を作るためさ。君は僕に、もっと自分が弱い存在だと認知させたいんだ」

「うるさい」


 どんぴしゃなことを言われ、私は切なくなった。

 もっと。

 もっと私を切なくしてほしい。

 悲しませてほしい。

 私はマゾヒストでは決してない。人間の苦渋を好むのは魔族としての最高の愉悦。

 だが、最も愛する男になら、いくらでも辱められ、虐げられ、弄ばれたい。

 それが、女の愛だと思うのである。私は、とことん落ちぶれた女だ。


「挙式は明日だ。夜風に当たると風邪をひいてしまうよ」

「アーベル」

「なんだい」

「私とあの満月、どちらが魅惑的か」


 アーベルは静かに笑って。


「あの月を壊して見せる。君は誰とも比べさせない」

「酷いことを」


 私はつくづく、この男を愛しているのだと自覚した。


「それよりも、海に行こう。死んだクラゲが見たい」

「構わぬ」


 私はハンカチで目元を拭い、アーベルの手を取って廊下を渡り、ドレスの裾を持って階段を降りた。


 笑うだろうか。


 この男は、私と明日挙式を挙げた後、死ぬ運命にあるのだと知ったら。

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