第43話巨人を倒す女、??左ハンドル以外の車は運転しない女??
狐の化け物で
それって、もしかして九尾の狐の事か?
「あら?昌樹。顔色が優れないようだけど、気分でも悪いの?」
レインが訊ねてきた。
「名前が妲己だったか覚えていないんだが、狐の化け物は昔話では、大体が手のつけられないタチの悪い妖怪として描かれているんだ。そんなヤツまでこちらの鏡の世界にいるとは・・・」
息を呑んだ。
「アンタさ驚くのも無理も無いわな。妲己さアンタらみたいな
人間がビルほど(京都では"高さ制限”条例により最高で31メートルとされている)の巨人を倒してしまうだと!?
どこの”進撃の巨人”だよ?
改めて思う。
(こっちの世界、恐ろしかぁ・・・)
たまげて声も出ない。
「今ではすっかり丸くなって伏見稲荷で大人しくしているって話よ」
聞けば聞くほど滑稽なハナシだ。
例えるなら、昔散々悪さを働いた者が、今では知識人を語るようなものだ。
冗談のようだが、実際にそのような人物(ニュース番組のコメンテーター)等々)は多々存在する。
妖怪の世界だろうと考えられない事もない。
すると、緑肌のカッパがポンッと手を叩いた。
「そうだったわぁ・・・。何でオラたち気づかなかったのかぁ。あの妲己さに頼んで小鬼共を退治してもらえば良かったんだべさ」
するとカッパ共が一斉に同調を始めた。
「どうやら私たち用無しになったようね」とレイン。
・・・と、言う事は?
全てのカッパの視線が昌樹たち人間に注がれた。
「ほんじゃあ、お前らさ―」
この後に続く言葉を「お前らさにはもう用は無ぇ」と察したレインは素早く拳銃を引き抜いた。
「お前らさには、ちょっくら伏見稲荷さへ行って妲己の
鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしているレインはさて置き、昌樹は何で京都生まれ京都育ちの自分が妖怪風情に名所の場所を教えられなければならないのか?頭痛を覚えた。
それよりも。
この世界、随分日が高くなろうとしているのに、未だ走っている車を目にしていない。
カッパの説明の中に、"伏見稲荷駅から東へちょっと行ったところ”とは聞いたが、普通他県の人に自分なら、”伏見稲荷駅で降りて東へちょっと行ったところ”だと説明するよね。
しかも彼ら、聞いた事があるとまで行った。それは実際には行った事が無いという証拠。
「なあレイン。もしかしてこっちの世界では車や電車が動いていないんじゃないか?」
訊ねた。
「妖怪電車なら動いているかもよ」
ピストルを仕舞いながらのアメリカンジョーク。だけど今はそんなものに付き合っている
「彼らの言っている通り、妲己とやらを助っ人に呼ぶにしても車や電車が動かないでは話にならないぞ」
昌樹の心配を余所に、レインは余裕を崩さない。
勝ち誇ったような笑みを見せるレインが指さした先には・・・。
自転車が。
しかも、よりによって何でワゴン付き3輪自転車!?
結局動くのは自分しか無いと、昌樹は必死にペダルを漕いで伏見稲荷を目指した。
当然のごとく、3輪自転車では二条城→伏見稲荷までの道のりは厳しいので途中で乗りやすい普通の2輪自転車に乗り換えて(ちょっと拝借して)目的地を目指す。
まさか、この歳になって自転車の立ち漕ぎをするとは。
アラフォーはまだ若いと思っていたが、自身が思っている以上に体力の衰えは進んでいる。
辺りを見渡せば自動車はあちこちに止まっている。
だけど、元警察官として当然窃盗などできない以前に、昌樹は車のキーを使わずにエンジンを始動させる術を知らない。
現実は映画のようにとはいかないものだ。
レインも同様で、彼女の場合、"左ハンドル”以外+オートマ車以外は運転しないのとの事。
つくづく面倒な女だぜ・・・。
鏡の世界じゃ、物質はみな左右逆転となり、日本車は例外なく左ハンドルになっているって言うのによ・・・。
まるでヘルメットをかぶっているかのように頭全体が蒸して、今にも意識が朦朧としそうな中、ようやく伏見稲荷に到着した。
途中目にした京阪伏見稲荷駅は、依然と変わらず鳥居の赤をモチーフとした赤い駅のままだった。
「ふぅ」とため息ひとつ。
せっかく伏見稲荷に来たのだ。
妲己とやらに逢う前に、事が平穏無事に進みます様、ひとつお参りでもして行くか。
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