第42話熱烈なタイガースファンの女、最凶最悪の大妖怪

 ゴブリンたちが立てこもる二条城攻略戦を前に、エグリゴリのレインは鼻息を荒げる。


「奴らはこの世に存在してはならないジーのひとつ。見付け次第片っ端から駆除していくわよ!」

 川魚の匂いを漂わせる河童たちを前に意気揚々に声を上げる。


 当の河童たちも同行してくれるのは有難いが、武器は皆木の棒と心許ない。


 果たして彼らは戦力となり得るのだろうか?


 それはともかく。


「オイ、レイン。この世に存在してはならないGとは何だ?」

 士気を高めている中、水を差すようで申し訳ないが、ちょっとだけ気になったので訊ねてみた。


「ゴキブリ・ゴブリン・Godzillaに読売ジャイアンツ」


「前の二つは解るが、ゴジラは空想の化け物だし、お前、ただのアンチ巨人なだけじゃん」

 はるばるヨーロッパ方面からやって来た彼女が、日本の特定のプロ野球チームに敵意を抱く理由が理解できない。


 これほどまでの敵視のしよう。もしかして、この女、阪神タイガースのファンなのか?

 熱烈な阪神タイガースファンは、読売ジャイアンツが強かろうが弱かろうが、何かと激しい敵対心を燃やしている者が多い。それは、とてもライバル視とは言い難く、いわゆる“目の敵”としているようにも映る。


 ゴキブリも人間がしっかりとゴミの管理さえすれば実害は抑えられよう。


 しかし、やはりゴブリンは放っておく訳にはいかないな。


 でもそれは、今やるべき事なのか?


 彼らは夜行性なので日中は大人しくしているのだから、その隙にマンドレイクの採取に向かえば良いのでは?と思う。


 何でどうして、こうもわざわざ苦難に満ちた茨の道を突き進みたがろうとするのやら。


 未だに乗り気がしない。


「拳銃の弾数も限られているだろう?どうやって攻略するんだ?レイン」

 それならばと、具体的な攻略案を示して欲しい。


「都合の良い事に、この城は四方を堀に囲まれているわ。それも空堀では無く、しっかりと水の張ってある。でね、周囲へと延焼する心配は無さそうだし、焼き討ちにするってのはどうかしら?」


 正気かよ…。


 あまりにもムチャクチャ過ぎて言葉も出ない。


 異国の貴女は御存知無いかもしれないが、この二条城は立派な世界遺産に登録された建築物なんですよ。


「あら?世界遺産がどうだと言うの?貴方勘違いしているようだから説明してあげるけど、ここは私たちのいた世界とは見た目は同じだけど異世界なのよ。こちらの二条城が焼け落ちても、元の世界の二条城には何の支障もきたさないわ」


 この女は読心術でも会得しているのか?


 不思議に思う昌樹ではあったが、彼の表情を察しての説明でもあった。



 それにしても、焼き討ちか・・・。


 そんな事をして、目的のマンドレイクを丸焼きにしていまわないか?


 焼けたマンドレイクは果たして使い物になるのか?


 不安が顔に出てしまう。


「やっぱり焼き討ちは色々と問題ありそうね」とレイン。


 やはりこの女、読心術を会得しているのでは?疑いの眼差しで見てしまう。


「この二条城は、アンタたちの国にある石造りの城と違って比較的光が入りやすい構造になっている。つまり光が苦手なゴブリンであろうとも、命を脅かすほどの弱点にまで至らないんじゃないか?」

 あくまでも苦手程度だと推測する。


 昌樹の推測に頷くも、やはりレインは強気を崩さない。


「まるで直射日光はダメだけど日陰なら育つ観葉植物みたいな発想ね。だったら、どうすれば良いのかしら?何か良いアイデアを出してよ」


 長身が見下ろしながらアイデアを求めてくる。


 この威圧感、息苦しいぜ。


「ならば、鏡を並べて太陽の光を入れてみるのはどうだろうか?」

 いつの間にか体の中から出てきたエイジが提案をした。


 エイジが続ける。


「光が苦手だとしても、どの程度なのか判断しかねる。それにゴブリンが光に弱いと言っても、ただ単に嫌いなだけでは弱点とは言えない。ならば直射日光を取り入れて様子を探る必要がある」


 情報集めという訳だ。


 敵方ゴブリン共にはこちらの存在を知らせる結果となってしまうが、どの程度の弱点なのかを探らないと攻略まで手駒を進められない。


「もっとゴブリンの事を知りたいのだが」

 カッパ共に訊いてみる。


 すると、青肌のカッパが小さく手を挙げた。


「オラが聞いた、妲己だっきという狐の化け物の話だけどもよ」

 こちらの質問などガン無視して、いきなり別の妖怪の話を持ち出してきやがった!!

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