第22話凸女、凹女

 スノーの犯した殺人事件は世間を騒がす一大ニュースとなった。


 現場に居合わせた4人は目撃者として事情聴取を受けた。

 いずれも口裏を合わせて、この場を凌ぎ切る。


 現場に残された身元不明の下足跡は3名分。スノー、エイジ、ツェーのもの。

 オフィスのあちこちに残されたフィーエの足跡は、人間サイズのカマキリなど常識では考えられないので、疑問は残るものの捜査から対象外とされた。


 それを踏まえて。


 静夜たち4名は『犯人は3人』『いずれも顔を見ていない』『犯人の一人は窓を突き破って3階から飛び降りた』と口裏を合わせた。

 この状況、事実を言っても誰も信じてくれないばかりか、スノーが組織で動いていると分かっている以上、彼らを刺激しない方が得策だ。



 こうして『恐怖のチェーンソー男』の事件は早くも暗礁へ乗り上げた。



 ◇  ◇  ◇  ◇



 シングルマザーの母を亡くしたキナコに代わって、葬儀の手続き等を静夜が代行する事となった。

 静夜はキナコと共に、彼女のマンションへと出向いた。


 部屋へと入ったとたん、キナコは再び泣き崩れてしまった。

 そんな彼女を、静夜はただなだめる事しかできない。



 一方。



 探偵事務所へと戻る昌樹に理依が同行していた。


「何か用か?」訊ねようものなら「エヘヘ」と笑ってごまかす始末。


 鍵を開けて事務所内へと入る。と。


「探偵さん。どうして、体の中からエイジ君がでてくるようになったんスか?」

 このタイミングで訊いてきた事から。

 恐らく彼女は、静夜から『人気ひとけの無いところで真相を突き止めて』とか指示を受けてきたのだろう。


 今時の若者はアドリブが利かないねぇ…。

 言われた通りにしか動いていねぇ、ただ呆れる。


 ここは無視するに限る。も。


「もしもーし、エイジ君聞こえている?聞こえているなら返事して下さーい」

昌樹の頭に向かって呼びかける。


「人の頭に向かって呼びかけるなよ!」

 そんな理依を払いのけている最中。


 コンッ、コン。ドアがノックされた。


「はい」

 返事をしてドアを開ける。


 と、そこには長身の金髪の外国人女性が昌樹を見下ろしていた。

「お邪魔するわ」

 何とも威圧的な…。


「スノーが―」

 彼女が何かを言いかけたとたん!


 昌樹の胸元から右ストレートが放たれた!

 と、その右ストレートを、彼女の胸元から突き出た左手が受け止めた。


「コイツ!?」


「初対面で失礼が過ぎるわよ、貴方たち。『スノーが世話になったわね。だけどアレは自業自得ってものよね。だって、無暗に人を殺めるから天罰が下ったのよ』まで言わせなさいよ」

 見下ろして述べられると、まるで説教を受けているようだ。


 昌樹は危機を感じてバックステップで距離を置いた。

 だけど拳を掴まれているエイジは置き去りに。


「フンッ!」

 気合と共に女性が蹴りを放った。

 後ろへと飛ばされるエイジ。

 それに伴って彼の拳を掴んだまま離さない小柄な女性が姿を現した。


「貴方、サンジェルマンからはこを預かっているわね?それを渡しなさい」

 どストレートな要求。


 その最中。

 エイジが小柄な女性の脇腹に左フックを叩き込んだ。

「うぐぅ」

 呻き声を上げる中、今度は理依が。


「エイジ君!頭を下げて」

 エイジが頭を下げると彼の後方から理依の蹴りが小柄な女性の首を刈り取るようにヒット!


 それでもなお小柄な女性はエイジの右拳を放さない。


「ナンブ!」

 長身の女性が叫ぶとナンブは理依へと目線を移して。


 カッ!

 両目から光線が放たれた。


 光線は理依の首元を掠めて後ろのクローゼットはおろか壁まで突き抜けて外の風景を映し出していた。


「マ、マジかよ…」

 驚きのあまり言葉に出ない昌樹に並んでヒェェェェ~と理依も青ざめる。


「私の名はレイン。エグリゴリのレイン。手荒なマネは気が進まないわ。だから、大人しく匣を渡して下さらない?」

 もはや要求と言う名の命令であった。


 シャレにならない圧倒的な攻撃力。これは攻略できそうにない。


 レインの目線はエイジへと向けられ。

「エレメンツ!アナタも選びなさい。サンジェルマンの命令か?宿主の命か?どちらか選びなさい」


「あのぉ…私は…」

 対象に入っていない理依が自身を指差して訊ねた。


「貴女はアフロのおっさんとセットよ」

 生憎、部外者でいさせてもらえそうにない状況に、ガックリと肩を落とした。


「さあ、選ぶのよ。エレメンツ!」


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