第10話:エグいな

 相手を拘束しているとはいえ、この状況で質問してくるか?ヒューゴは思わず「え!?」と訊き返してしまう。


 でも、モヤモヤを抱えたままでは戦いに集中できないのだろうと説明してやることにした。


「アイツの盾、半透明だろ?そしてヤツのランスにはポール、シャフトとも言う部分の他に銃を撃つためのガン・グリップが付いているんだ。それが薄っすらと映っていたので、持ち方で“突き”なのか“射撃”なのかを見分ける事ができたんだ」


「…そうやったんか…。ウチ、そんなモンが映っとるの、全然ゼンゼン気付かんかったわ」

 ルーティはあまりにも単純すぎるタネ明かしに肩を落とした。


「しょうがないだろ。お前はベルタの操縦に忙しかったからな。俺は、アレだ。やる事が無いから他の事に目をやる余裕ができただけよ」


「そ、そうやったんか。ありがとうな。ヒューゴ」

 雲間から開いてゆく青空のように元気を取り戻したルーティは、とたんに「オラァ」唸りを上げて、さらにベルタの出力を上げた。


 防御力さえ奪えば、ベルタのハンドチェーンガンでもいずれはダメージを与えられるはず。…のはずだったが。


 ガクン!


 大盾が下がった。と言うよりも落下している。ハンドチェーンガンのマンティス・アックスの細い腕では大盾の重さを支え切れない。


 キャサリンがランスを両手で構えている!持ち手はガン・グリップ。撃たれる!


 ガガガ!

 またもや砲火。だが、咄嗟に横へと飛び退いて直撃を免れた。しかし手持ちのハンドチェーンガンは手放さざるを得なかった。


「まさか盾を捨てるとはな」


 同じくヒデヨシも「やる・・。強いぜ。アイツ」

 互いに相手を褒め称えていた。


「これで終わらせたる!」

 ルーティは叫び、両サイドにあった自転車のブレーキ状のものが付いた操縦桿スティックを握って両腕を前に突き出した。するとカシャン!と台だった部分も伸びて鉤棍トンファー状に。そしてカシャン!もう一段階伸びて肩部までカバー。


 同じくして。


 ベルタの肩部装甲ショルダーアーマーが展開。3本爪を開いて両手の隠し腕をキャサリンに向けて伸ばした。

 ガシィッ!と両の隠し腕で見事キャサリンを捕えた。


「やっぱり隠し腕だったのか」


「知ってたん?」「ああ」

 何のサプライズも無い隠し武器であった。すでに“6つ脚火竜のベルタさん”とルーティが紹介してくれていたし。


 盾さえ無ければ、本体をしっかりと捕えられる。ルーティはこれを狙っていたのだった。

 形勢逆転。

 軋み音を立てて、キャサリンの装甲にヒビが入った。


「ところでルーティ。隠し腕なんか出して、ベルタさんの操縦は大丈夫なのかよ?両手だけで腕4本も操作できるのか?」


「ああ。平気やで。ベルタはんの操縦やったら、五肢は考えただけで出来るよって。そやから言うて、バック転出来ひんヤツがバック転しようとしても出来ひんで。自分のできる範囲内のことしか出来ひん仕組みになっとるさかい」

 道理でシンプルな操縦系統で器用な動作ができたワケだ。でも、航空機の操縦が出来ている事にはひたすら感心する…!?彼女は今現在、操縦桿から手を放しているではないか!


「オイ!操縦桿から手を離すな。ベルタさんが墜落してしまうー!」


「慌てんなや。ウチがさっきから操縦桿握ってたんは、アンタがシートベルトしてるさかい、どこか持ってな落っこちてしまうからやで。ウチは地面を這いずり回っとるだけの下等生物な人間とちごて元々空も飛べるんや。そやから操縦桿ナシでも考えただけで操作できるんよって。まっ、この体では空は飛べへんけどな」


 “飛行感覚”というヤツか。


 流石さすがはレッドドラゴン様。にしても、所々でムカつく言葉を差し込んでくれる小娘だ。



「これで握り潰して、死ぬ手前でギブアップさせたるでぇ」


「ルーティ・・。お前、気付いていないだろうが、スゲーワルい顔になってるぞ」

 勝利を確信した不敵な笑みを嗜める。


「きゃあぁぁーッ!」

 全身を万力で締めつけられるが如くの凶悪攻撃にキャサリンが悲鳴を上げた。

 声から前から察する通り、敵は女性の盤上戦騎ディザスター


「エグいな」

 ヒューゴは思わず呟いた。



 2つの魔導書から聞えてくる悲鳴に、クレハは強く目を閉じて「酷い」顔を背けた。


 その時。


 ココミの魔導書から、ピピッとレーダー反応を示すアラームが鳴った。


「ルーティ、気を付けて!」注意を促し、さらにココミは続ける。


「もう一騎が来ました」



 え!?


 思わずココミへと向いた。


 この戦いって、チェスの駒同士が戦っているんじゃないの!?





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