第9話:『当たらなければ、どうって事は無い!』

 F2戦闘機が揃って戦闘空域を離脱してゆく…。


 弾切れもあるが、どこかに観測班を配したか、それとも陸防の対戦車ヘリでも要請したのか。

 いずれにせよ、後詰ごづめが到着するまでこの空域はクリア。心置きなく戦える。


「次は確実に最新鋭のF35CⅣ益荒男ますらお型が来るな・・。アレはお高いからとさせるワケにはいかないし、その前にカタを付けたいな。ルーティ、他に武器は無いのか?」

 訊ねつつタブレットをフリックさせてページを移動させる。


「??」

 Queens Bishop Pawn・“BELTÁ”の上にBattle Pieceと表記されている…。


「バトル・ピース・・?ベルタさんの事をディザスターと呼んでいたよな?」

 ルーティに訊いた。


「ああ、それね。何かバトル・ピースって響きやとモチベーションが保てへんて言うか、テンションも上がらへんよって。そやから盤上戦騎の特性をそのまんま呼び名にしたろうて事で、皆でディザスターと呼んでるんや」


 うん。呼称はとても大事だよね。

 かたくなにプラスチックをプラッチックと呼ぶ人もいるものね。これは納得。


 そんなことよりも武器だ。

 もうひとつ火器があれば2点同時攻撃でキャサリンの大盾の防御を攻略できる。


 ベルタの仕様は。


 初期装備武器は近接武器にツメ(サバイバルナイフ)×2本、ツノ(直刀)×2本、キバ(折り畳み式脇差し)×2本。火器はハンドチェーンガン×1丁。


 召喚武器はオオツメ(刀)×2振り、オオキバ(太刀)×2振り、オオツノ(グレートソード)×1本。


 以上。


 スゴくダサいネーミングセンスにも唖然とするが、刀剣11本に対して、何コレ?射撃武器はマシンガン一丁しかないの?


 さらに基本スペックに目をやると。


 さまざまなステータス値が割り振られていることに気付いた。


 まるでアクションRPGのステータス割りのようだ。

 項目が多過ぎてゆっくりと見比べていられないが、装甲強度と初期飛行速力、総合火力、火器総数が1に対して関節強度と回避運動推力総量が10に振り分けられている。

 あとは3なので基本値のままだと願いたい。


「ヒデェな・・。この割り振り」

 最後に“近接戦特化仕様騎”と記されている。これを読めば、ああ、なるほどねと納得・・できるか!!


「ココミぃーッ!」

 魔導書の中からヒューゴの怒鳴り声が聞こえてきた.


「はいはい。何です?ヒューゴさん」


「オマエ、これは何なんだ!?このベルタって騎体、刀ばっかり持っとるやないけ!」


「左様ですよ。近接戦に特化させた騎体ですから」


「盾も持っとらんし、装甲も1って。これじゃあ、近づく前にられるぞ!」


「回避運動推力が豊富なので、頑張れば早々に墜とされることはありませんよ。ほら、ある軍人さんもおっしゃっていたではありませんか。『当たらなければ、どうって事は無い!』と」



 まさか、こんな所でそんな台詞セリフを聞かされるとは思いもしなかった。


 言われた兵士は上官に殺意を抱かなかったのかな・・?

 ほんの少しでもココミに殺意を抱いた自身を、まだまだ子供だなと、奥歯を噛み締めながら納得させた。

 この状況、今更文句を言っても仕方が無い。


 それにしてもヒドいなと感じる。


 よく見れば、腕の装甲だと思っていたのはカフスの延長だし、膝下からすねそしてくるぶし部分までを覆う装甲は足首装甲アンクルガードが上部へと延びている代物ではないか。


 しかもそれらは前面のみ。


 それだけに留まらず、ベルタの装甲のほとんどが前面だけを覆うカウル状のもので、人間で言う肋骨部分を守るのはフィン状に並ぶ数枚の薄い装甲だけ。


 その装甲でさえ、装甲強度1と設定されれば泣きたくもなる。


 紙装甲なうえに、後ろから見れば骨格まる出しwww。



 問答無用の、『当たらなければどうって事は無い!』=『当たれば即死!!』の状況。


 文句は言わないと誓ったが、シューティングゲームの自機かよ…。




 またもやキャサリンは、大盾を前面に構えてランスによる突撃チャージを仕掛けてきた。


「性懲りも無く!」唸るルーティに。


「今度は撃ってくるぞ。左だ!左!走れ、走れ!」ルーティの左肩を叩いて指示する。


 ヒューゴの言う通りにキャサリンは銃撃してきた。


 ベルタを左へと横移動させるとキャサリンは体ごと向きを変える。

 どうやらランスのポールが脇に当たってランスの射界が狭いままのようだ。

 もしも、キャサリンから見て左に避けていたなら、大盾を支点にランスの射界は広がり命中精度は今よりも高かったはずである。


 窮屈さに堪らず、キャサリンが突撃の体勢を解いた。


 胴体がカラ空きだ。


 その間に距離を詰めて。


 キャサリンも侮れない。

 大盾を上段に構えて上半身を防御(ガード)。


 だが。


「もらったで!」

 ルーティは大盾に向けてマシンガンを構えた。


 ところが銃口から火を吹くことは無く。


 代わりに二脚銃架バイポッドが、カマキリが捕食する際に腕を伸ばすように、関節を展開させて大盾の上部を掴んだ。


蟷螂の斧マンティス・アックスや!」

 力任せに大盾を引き剥がそうとしている。恐るべきビックリメカ。


蟷螂とうろうの斧ってのは、あんまり良い意味じゃないんだけどな・・」

 本来の意味である“見かけ倒し”でなければ良いなと、ただただ願う。


「なあ、教えてくれへんか?ヒューゴ。アンタ、さっきから何で敵の攻撃が“突き”なんか?“射撃”なんかが分かったんや?」

 戦いの最中、ルーティが訊ねてきた。


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