第4話:撃たな殺られる

「お初にお目に掛かります。高砂・飛遊午たかさご・ひゅうごと申します。よろしくお願い致します」


 ……。


 …………。


「あの…」


 ショック!!

 挨拶するも、まさかのガン無視を食らってしまった。


「せや。お前、ベルタはんに話し掛けんとき。ベルタはん、ごっつい人間嫌いやから」


「ん?何故人間嫌いになったんだ?前に何かあったのか?」


「お前、な、何言うとんねん?」

 てっきり「それを先に言え!」と怒鳴られると構えていたのに、意外にもヒューゴは理由を詮索してきた。


「ベルタはんは前回の王位継承戦でのエースやったんや。その主人マスターやった人が組織に裏切られて―」「ルーティ、お喋りはさないか」

 理由を説明し始めたルーティを、ベルタが穏やかに制した。


「すみません」謝るルーティの傍ら、ヒューゴはこのチェスの変則版が王位継承戦である事をこの時初めて知った。


「あいつ・・。ココミのヤツ、王女様だったのか?アレで」


 本の通信を通じてクレハも、これが王位継承戦だと初めて知った。

「ココミちゃん・・あなた、お姫様だったの!?」


「えへへ」


「えへへじゃないでしょ!」


「そうですね」と表情を引き締めてクレハへと向き直り。


「私は“亜世界”の一国家ドラケン王国の第2王女ココミ・コロネ・ドラコットと申します。この魔導書グリモワール“ザ・ドラゴンロード”の契約に基づきドラゴン達を従えて此度の王位継承戦に参戦致しました」


「亜世界・・?異世界じゃないの?」


「はい。細かい事はさて置いてです」「アホー!本のタイトル、間違ってる!!ロード・オブ・ザ・ドラゴン“竜たちの君主”やろ!」

 ルーティから訂正が入った。どこかで聞いたようなタイトルではあるがロードLordは英語で君主を意味する。つまりココミがドラゴン達を従えている君主なのだ。



 レーダーに反応あり。距離は30キロメートル。


 レーダーには特にミサイルが発射された警告アラートは表示されていない。敵は空対空ミサイルAAMを装備していないようだ。依然こちらに向かって接近中。20キロ圏内に侵入した。


 ココミの指示通りに戦闘準備に入る。


 ベルタが腰部の後ろから銃器を取り出した。

 形状はポンプアクション式のショットガン。ハリウッド映画などで前床フォアエンドを前にカシャンとスライドさせて装弾する仕組みの銃だ。なのに、銃口近くに二脚銃架バイポッドが付いている。


 早速フォアエンドをスライドさせて弾を薬室に装填。敵を迎え撃つ準備は整った。



「場所を変える!ヒューゴ!どこやったら人がおらへん?」


「西へ。琵琶湖上空ならまず問題無い。行ってくれ」


 本来、琵琶湖は滋賀県の6分の1の面積であったが、30年前に隕石が落下、正確には水切りのごとく水平着水したが為に、近江八幡おうみはちまん湖岸がえぐり取られて現在は5分の1まで広がっている。

 壊滅的な被災地となったこの地に復興の名乗りを上げたのが御陵みささぎ獅堂しどう鷲尾わしおの3大財閥であり、この地を新たに市松市として復興に着手。

 都市、インフラ整備と並行してクレハたちが通う学園都市・天馬学府もこの時に創設された。




 さらに高度を上げて雲を突き抜けた。


 眼下に広がる雲海を目にして「ほへぇー」ルーティが遠足に来ているかのごとく歓喜の声を上げた。今はそれどころじゃないのに。


「この辺りでいいだろう」

 ちょうど琵琶湖上空。ここなら湖岸から目撃される心配はないし砲撃が行われても街へは着弾しないと思う。


 それにしても。


 今現在搭乗しているベルタと契約して欲しいとココミに頼まれた時は、てっきり自分がパイロットとして戦うものだと思っていたのに、まさか動力源となる魔力の元となる霊力を求めていただけとは思いもしなかった。



「ヒューゴさんは戦わなくて結構ですよ。あとはルーティにお任せ下さい」


 …あのココミの一言は胸にグッサリと突き刺さったよな…。


 “電池役”なら、別に俺でなくても良かったんじゃないか。

 しかもパイロットは人様を座席代わりにしてくれている小娘ときたもんだ。


 コイツで大丈夫なのか?

 果たして信用しても良いものか…。


「ヒマそうやね」

 ルーティが視線を前に向けたまま訊ねてきた。


「まぁ、おかげさまでな。電池役なんで、する事が無いんだよ」

 今にも戦闘が始まるであろう最中にタブレットなんて見ていられない。

 ここは索敵でもして手助けしてやるのが得策か…。


「ん?」


 光の粒がこちらに向かって飛んできた。


 やけに、まばらに。


 カン!

 ベルタの右腰に当たった。が、大した衝撃もなく騎体が揺れることも無い。ダメージ表示は依然ゼロのまま。


「マジかよ…」

 呆れた事に、敵は“有効射程距離”外から撃ってきている。

 つまり、着弾しても攻撃力(威力)≦防御力(装甲)の状態で撃ってきているのだ。

 


「来よったで」

 ベルタがショットガンを両手で構え-。


「待て、ルーティ。お前も撃つ気じゃないだろうな?」


「ナニ言うとんねん。撃たなられるやないかい」


(何なんだ?この頭の悪いヤツばっかりの戦いは?)

 別の意味で目が離せない。

 

 敵の存在はともかく、残弾数とか考えないルーティもまた難敵だ。

 

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